2月4日──人面蟹

 ギギギギギ、ギギギ、

「また人面蟹か」

 鳴き声の方を見ると、甲羅が人間の顔にそっくりの蟹が塵を漁っていた。

 俺の住む島に「K島癌研究所」という施設ができ、どうもそれ以来この人面蟹が現れたようだ。


 今夜は嵐だ。

 ゴウゴウという唸りの中に、ギギギギギという鳴き声が交じった。俺は布団を頭から被って耳を塞いだが、声はどんどん酷くなった。

 ふと、気配を感じて頭を上げると、天井からぼとりと何かが落ちた。それは闇の中でギギギと鳴いた。

「うわぁあッ!?」

 部屋には無数の人面蟹がざわざわと蠢いていた。


 俺は慌てて外に出たが、道路にも夥しい数の人面蟹がギギギという鳴き声を上げ、こちらを見つめた。

 研究所は真っ赤な炎に包まれていた。


 舟着場に駆けていくと、女がひとり舟を漕ぎ始めていた。

 その顔は蟹にそっくりだった。

 女は俺の顔を見ると、

「近づくな、この化物!」

 と叫び、舟を岸から遠ざけていった──。


 ◉2月4日は「世界対がんデー」

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