結果は最善

「それで宣言通りに教師になったんですか。伊織さんって見た目に反して一途で努力家なんですね」

「見た目に反しては余計です……」


 語り終えた伊織を見て、木在羽さんはニコニコと優しい笑みを浮かべている。表情が柔和な女性だが、伊織を見る目はいつもよりも優しい。というか生ぬるい気すらする。


 伊織はすっかり冷えてしまったコーヒーを口に運びながら視線をそらす。思い返しても中々に恥ずかしい記憶である。昔の自分は本当に勢いで行動していたのだと、思い返すとよく分かる。

 その勢いが結果的には良いものになったのは、己の直観というよりは啓の力が大きい。お前には無理だろと鼻で笑っていた啓だが、伊織の予想にたがわず、真面目に勉強を教えてほしいといえば、自分の復習のついでといいつつ丁寧に教えてくれた。


 たびたび猫屋敷や若菜の妨害が入ったため、恋愛方面での発展はなかったが、それ以外の人生においての指針のようなものが出来たのだ。


「教師生活どうですか?」


 過去を思い返していると木在羽さんの柔らかな声がする。質問の形式でありながら、答えは分かり切っている。そう分かる落ち着いた声。ここでこうして話をする以外の接点はないというのに、やけに自分自身を知られている気がして伊織は少々気恥ずかしい。

 自分はそれほどまでに分かりやすい人間だっただろうか。そう疑問に思いつつも、木在羽の持つ独特の雰囲気故に、否定しようとする気にはならない。


「楽しいですよ。やっぱり天職でした」

「それはよかったです」


 木在羽は朗らかに笑うと、ハッとしたように口元を手で隠して形の良い眉を寄せる。どうしたのかと伊織が不思議に思うと、内緒話をするように手を口元にあてて小さな声でつぶやいた。


「ところで、女子生徒には本当に手をだしてないんですよね?」

「木在羽さんまでそれいうんですか!」


 出してないです! という伊織の心の底からの叫びは思いのほか響いて、オーナーが驚いた顔で様子を見に来たのはすぐ後の事だった。

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