ホームパーティ

黄金ばっど

ホームパーティ

 今日はまぁさん家でホームパーティにだ。

 いつもはのんだくれるだけの呑み会何だけど、今回は私の、私達の為にまぁさんが開いてくれたのだ。

 まだ他のメンバーは来ていないみたいだけど。

 机の上には揚げたての唐揚げがどっさり盛りと付けられている。

 

「この唐揚げ美味しー、まぁさんこれどうやって下味付けてるんですか?」

「ああ、それ?それは素材が良いから下味なんて殆ど付けてないよー」

「へぇ~そうなんだ。美味しー、でもだったらこれなんのお肉だろ?鳥っぽいけどほんのり臭みもあるし―――」

「えっ?臭みなんかあるー?」

「あぁ、嫌な臭みじゃ無いですよ、なんて言うか肉独特の味と言うか………ん~」

「あらそうー?てっきり私揚げる時にちょっと失敗したからー、だからかなー」


 これで失敗って…………衣はサクサクでお肉はもの凄くジューシー。

 世の主婦の大半が恨むよ。

 でも今日のお肉、何だろう鶏肉にしてはふわっとしてる。

 新鮮だからかな?


「そう言えば今日、はじめさんは?」

「あー旦那ちょっと裏で作業してるよー」


 そう言いながら、まぁさんは台所で忙しなく手を動かしている。

 はじめさんは土木工事の監督さんで家のDIYが趣味。

 この間は、自宅のトイレの壁をDIYでお洒落な黒板仕様に変えていた。

 今日も何かしてるのだろう。


「そうなんだ。まぁさん、はいっ―――アサヒ~」


 手土産として持って来たアサヒスーパードライをまぁさんに渡す。

 勿論ぷしゅっと開封済みだ。


「お、流石優子、出来る嫁は違うねぇー」

「でしょっ―――お疲れ~」

「お疲れー」


 コツンと銀色の缶を私たちはぶつけ合う。

 ぐびぐびと一気にビールを半分ほど飲む。

 同じ様にまぁさんもぐびぐびと銀色に輝く缶を煽る。


「ぷはーっ、美味い流石アサヒ!偽物とは違うわー」

「でしょ~っ、またこの唐揚げが合う事!正にビール専用唐揚げね!」

「おおげさー」


 IKKOさんの真似をするまぁさん。


「あっはっは」


 ああ、幸せだな。

 ビールは正義だ。


「そういや、優子ん所の旦那はー?」

「あ、急遽仕事で遅れるって言ってました。って、それに未だ旦那じゃないですよ~もうっ」

「でも結婚するんでしょー?」

「うん、一応は…………はい」


 そうなのだ。

 私結婚するのだ。

 今回のパーティーは所謂お披露目会みたいな物。

 彼には悪いけど、今日は見世物になって貰う予定。

 バツイチだけど性格は優しくて人当たりも良い。

 ちょっと何時も上から目線でうっとうしい時もあるけど、それでもやっと見つけた大切なパートナー。

 折角だから皆に祝って貰いたい。

 そして人生経験豊富なママさんバレー仲間達皆に見て貰いたいの。

 皆私のお姉ちゃんのみたいな人達だから。


「一応って何よ、一応って―――お、お疲れー優子来てるよー」

「お~う」

「あ、はじめさん。お邪魔してます」

「なんや。もう飲んでるんか」

「あははぁ―――」


 ん?

 はじめさんから何か嗅いだ事ある匂い。

 何だろう?


「ま、いいや―――はじめさんどぞー」

「お、気が利くねぇー」

「でしょでしょっ」

「一家に一台優子だな」

「ホントねぇーもう家に住んじゃいなよー」

「えーー、この辺に今ハイツ探してるんですけど、もう此処に住んじゃおっかなぁー家賃幾らっすか?」

「はっはっは、食費込み、光熱費込み5万でどうだ」

「はじめさん―――――――――――お願いします」


 そう言って土下座する私。


「もうー馬鹿な事言ってないで机片付けてー」

「はーい」


 まぁさんが持って来た山盛りのサラダ、中央に葉物をミックスし真っ赤なトマトが周囲にちりばめられている。

 トッピングは黒ごまと塩昆布を小さくカットした物。

 流石まぁさん、小技が効いている。


「ドレッシングは―――オリーブオイルと塩とレモン…………かな?」

「正解ぃー、後煮物来るから、空けといてー」

「はいはーい、あっ私ちょっと」


 そう言って私は席を立つ。

 勝手知ったるとはこの事だ。

 慣れた物で勝手に私はトイレを借りる。

 うら若き、では無いが一応男性がいるのだ。

 その辺は弁えている。

 トイレまで行くとトイレの隣の浴室から美佳ちゃんが出て来た。


「あ、あれ?来てたの美佳ちゃん?」

「―――うん」


 美佳ちゃんはバレーメンバーの一人で唯一私と年が近いメンバーだ。

 他のまぁさん達大御所(と言ったら怒られるけど)達は一回り近く年齢が上だ。

 何で浴室から出て来たんだろう?

 少し服の袖が濡れている。

 うっすらとシミが付いてる。

 

「染み抜き―――してたの」

「そう、なんだ」


 そして、私がトイレから戻ると美佳ちゃんだけじゃなく山さんや丸ちゃんも来ていた。


「あれ?皆いつの間に??」

「ふっふっふ優子を驚かそうと思ってさー、皆隠れてたんだ」

「そ、そうなの?」


 なんで驚かそうとするんだろう?


「気が紛れたら良いかなと思って―――」


 美佳ちゃんが言う。

 まるで不安げな私の心を覗いてるみたいだ。


「お披露目会3回目―――」

「も、もう美佳、ほら唐揚げ食べて食べてー」


 そう、なのだ。

 今まででもいい人が居なかった訳じゃ無い。

 祐二と祐介。

 二人とも呼び名は祐ちゃんだったけど。

 彼氏が出来てもうすぐ結婚ってなり此処で皆にお披露目しようと、そう思ってまぁさんと企画して、今まで二回お披露目会をしたのだ。

 だけども皆には言って無いけど、二回ともお披露目パーティー始まって早々に別れのLINEが来たのだ。

 その時は、皆を誤魔化してその場を凌いだ。

 二度あることは三度あるとは言うけど、流石に今日は―――


『ラーインッ♪』


 突然リビングにLINEの着信音が響く。

 恐る恐るスマホの画面を見る。

 彼からのLINEだ。


『ごめん。もう会えない』


 とても短く冷たい言葉。


「なんでっ―――」


 思わず取り乱しそうになったけど、此処は自分の家じゃない。

 私は唇をぐっと噛み締め、可笑しくなりそうな頭を切り換える。

 私はそっとスマホアプリを起動した。

 

「どうしたのー優子ー?」

「ん、ううん。彼ちょっと仕事で来れないみたい」


 事も無げに私は言う。


「―――ほら」

「こら、美佳」

「取り敢えず飲もう飲もう」

「はいはいかんぱーいっ」

「かんぱーい」


 何でなのよ!

 何で居ないのよ!

 彼のGPSは!!

 何処に居るのよ!





「ほら食べなさい、肉は幾らでもあるから―――」 

 





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