四章
第35話
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。
ヒラリは聞いているこっちが気の毒になるような声で僕達に謝り続けた。
涙を拭く音がヘッドセットから何度も聞こえた。
その声があまりにも必死で、僕達は誰も声を上げたら駄目みたいに思えて黙っていた。
前にヒラリは言っていた。現実では上手くいかないって。だから、ヒラリにとってゲームは僕が思う以上に大事なんだと思う。
そこでミスをして、ヒラリはパニックになっていた。それにルーラーを追放された過去もあり、ヒラリは怯えていた。
自分の居場所がなくなるかもしれない恐怖でぐちゃぐちゃになっていた。
「ごめんなさい。焦ってて、間違ったら駄目だって思ったら、指が動かなくなったの・・・・・・。慌ててたら押し間違えて、ごめんなさい。本当にごめんなさい・・・・・・」
「ヒラリ」
リュウが言った。
それでもヒラリは謝り続ける。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「ヒラリッ!」
リュウが叫んだ。
それを聞いてヒラリは黙り、けど泣きじゃくる声だけは聞こえていた。
少し間を置いて、リュウは強い口調で言った。
「ヒラリ。俺達は仲間だ。仲間に許しを乞うな」
そう言ってから、リュウはいつも通り楽しそうに、優しげな声で続ける。
「ミスなんて誰でもあるんだ。間違ったら一言悪いでいいんだよ。それ以上は誰も求めてない。俺が腹立ってるのはお前がミスしたからじゃない。ヒラリが俺達をあいつらと同じだと思ってる。その事に俺は腹を立ててるんだ。でもな、一番はそれじゃない。あの糞野郎だっ! 次会ったら絶対に許さねえよ」
「そ、そうよ。ヒラリのせいじゃないわ」とアヤセも続く。「あんな事するなんて誰も思わないじゃない。それに、ヒラリは退こうって言ったんだから」
リュウとアヤセは慰めるが、ヒラリは黙りこくっていた。
泣きじゃくっているのが今もまだ僅かに聞こえる。でもそれも大分ましになった。
また少し沈黙が流れた。それは、僕の発言を待つ為の時間だった。
何を言えばいいのか。僕にはよく分からない。
こういう時、リーダーとしてどんな言葉をかければ正解なんだろうか?
誰か教えて欲しい。
でも、誰も教えてくれないから僕は考えた。そして、ゆっくりと言った。
「・・・・・・ヒラリは頑張ったと思う。でも、ミスをしたのも確かだ。それはなかった事にならない。だけとそんなの次から気をつければいいと思う。それは僕もそうで、多分リュウやアヤセも細かいミスはいっぱいしてるんだ。だから、そのツケをヒラリ一人に払わせるつもりはない。アヤセも言ったけど、行こうって決めたのは僕だ。だから、責任は僕にある。あそこであんな事が起るって想定をしておけば、こんな事にはならなかったかもしれない。そうなら間違いなく僕のせいだ。正直言って、甘かった。多分、本気になりきれなかったんだ。僕は普段こういう事に慣れてないから。・・・・・・ごめん。考えがまとまらないや。でも僕が言いたいのは、これはチーム戦で、誰か一人が悪いとかってのはないんだ。だからヒラリがそんなに思い詰める必要はないよ」
そして最後に、僕はあまり言いたくなかった事を告げた。
「それに、所詮ゲームだから」
心がズキンと痛んだ。
でも、この一言は今のヒラリには必要だとも思った。
それからまた少し沈黙が起き、僕は言った。
「・・・・・・今は少し休もう」
そう、今の僕らに必要なのは休息だ。少し僕らは疲れすぎた。
急ぎすぎて、訳が分からないまま突っ走ってしまったんだ。
その結果がこれだ。やっぱり僕が悪い気がする。
「そうだな・・・・・・」とリュウは同意してくれた。
アヤセも「分かったわ」と言った。
ヒラリは何も言わなかった。けど、言わなくても僕らは理解出来た。
「一時間したら集まろう。じゃあ、また」
そう言って僕はボイスチャットを切った。そしてゲームはつけたまま、ディスプレイの電源を落とした。
真っ暗になった画面に、無表情な僕の顔が映った。
もうすっかり肩の力が抜け、脱力しきった間抜けな顔だった。
その顔をしばらく見た後、僕は自分に腹が立ち、近くにあったペットボトルを壁に投げつけた。ペットボトルはへこんで、中が泡立つ。
やってから少しすると虚しくなって、溜息をついた。
そして僕はスマホと財布を持って部屋を出た。
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