第30話

「おっそーいっ!」

 待ち合わせに広場に来るとアヤセはカンカンだった。

 時間を見ると、予定より10分も遅れている。

「何かあったの?」とヒラリが尋ねる。

「いや、ちょっと寝てた」と答えるとアヤセは呆れていた。

「ヒロト! しっかりしてよ!」

「ごめん」

「もういいじゃん。さっさと行こうぜ」

 リュウがそう言ってくれて、アヤセは少し落ち着いた。

 謝りながら、僕はテンネンの話を誰かにしようかと思ったけど、結局やめた。

 もしリーダーがチートアイテムを持ってるなんて知れたら大変だ。

 使う気はなかった。けど、捨てもしない。自分でもよく分からないまま、僕は次のダンジョンへと向った。

 五つ目のダンジョン。七層の地底湖は美しい湖だった。

 名前の通り、この地下に七層の地底湖が続いている。薄暗い中、周りの岩がエメラルド色に点滅する。幻想的な雰囲気に僕らは見とれていた。

 光りが装備に反射して、キラキラ煌めいている。色もいくつか種類があった。

 そこで僕らは三股の銛を持った魚人と戦っていた。青い体にはヒレがあり、鋭い牙が見える強敵だ。攻撃力が高く、それを受ける僕は大変だった。

 体力がどんどん減っていく。ヒラリが回復してくれてるが、次々と襲いかかってくる魚人達は容赦がない。

「ヒラリ。MP足りる?」

「あ、危ないかも・・・・・・」

 一旦退くか? でも僕の遅刻があって、時間は押していた。ここはなんとか早く進みたい。

 そんな時に、あの指輪が脳裏に浮んだ。あれがあれば防御力が上がる。耐えられる攻撃が一発でも増えれば、それだけでかなり有利だ。

 どうする? 使ってみようか? まだ試していない。それにもしかしたら嘘かもしれない。

「結構きついな。一度後退するか?」とリュウが尋ねる。体力もある魚人に苦戦していた。

 僕は悩み、そして決めた。

 ルーラーには負けたくない。

「いや、行けるとこまで行こう」

 そう言って、僕は勇気の指輪を装備した。効果はてきめんだった。

 相手からのダメージが少しだが減った。頭の中で計算してみると、回復も加え、耐久的に二回も受けられる数が増えた。

 これだけでかなり違う。周りの空気も変わった。いけそう。そんな気持ちになっていく。

「ヒロト、動き理解した? 良い感じじゃない」

 アヤセの声が少し明るくなる。

 けど、僕は複雑だった。最初はちょっと楽だなと感じた。けど、これは本来僕の技術でやるべき事だ。

 相手の攻撃に合わせて、ナイトのスキルで打ち消す。けど今は敵が多くて忙しいし、初めての相手にそれをするのは大変だった。

「・・・・・・まあね」

 そう言いながら、嫌な気持ちになった。

 これは、だめだ。色々とよくない。気分が悪い。この戦いが終わったら外そう。

 そう思いながら、僕は剣を振るい、相手の攻撃を盾で受け止めた。

 ゲームを始めて今まで一番楽しくなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る