無題

 希死念慮を煮詰めると自殺願望になる。

 無意識の液体は蒸発して、意識の部分だけが残って更に濃くなる。味に深みが出るみたいに、自殺願望そのものにも深みというやつが出てくる。

 例えば無意識に死にたいという気持ちを持っていた奴が、次第にその気持ちをハッキリとさせていくとする。すると、漠然としていた死にたい気持ちは、手段、時間、場所、気持ち、人間関係とか色んな要素を持ち始めて具体的な細かいものになっていく。

 それが深みってやつで、所謂コクってやつ。

 コクのある自殺願望は果てしなく強くてなかなか消えない。周りの人間も自分自身も、それに必死に抗うわけだけど、美味いと分かっているものを食べずに我慢するってのはとてつもなくつらい。

 そんなつらさに耐えられるくらい心が強いなら、そもそも自殺願望なんてものは出てこない。

 だから手を出して味わい尽くす。

 たらふく食って、人は死ぬ。痛みに顔を歪めてるけど、その外側を取り除いて中を見れば、喜んでることなんて一発でわかる。ああこいつは死ぬべくして死んだ奴だとそのときは思う。そして羨ましくも思う。幸せだったろうな、みたいな感じで。

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