3

 個室の扉を開けると、中は一転して熱気がこもり、さながらサウナのようである。


 「だ・ん・ど・か・し・て・ぐれ〜」


 ほとんどうめくような洟声はなごえで探偵が助けを求めた。


 それもそのはず。


 毛布にくるまってベッドに横たわる探偵の足もとと両脇に、ラグ模様をしたサッカーボール大の毛のかたまりがそれぞれ一つずつ。さらに胸の上には十キロはあろうかという虎縞とらじま模様の毛のかたまりが、ずっしり鎮座ちんざしている。そのかたまりはいずれもゴロゴロという低周波音を立てている大型猫であった。


 「こんだぢ乗られたら、づぶれる。じぬ。あづい。うごけん〜」


 車掌は窓際にあるヒーターの温度を調節して「強」にした。


 「探偵さま、我慢してください。これが猫流・温熱療法です。一晩発汗はっかんすれば、翌朝にはすっきり治るそうですよ」


 「よ、よんひきもいらん〜げほげほ」

 「どうぞ我慢なさってください」


 トキ子は苦笑して、探偵のひたいに乗ったれタオルを取り替えようと持ち上げた。とたんに額から大量の湯気ゆげが上った。


 外はすっかり暗い。「星ねこ号」は盆地を抜けてまた山間部さんかんぶに入っていた。もうしばらく走ると海が見えるはずだ。探偵の風邪はきっと今晩がとうげだろう。


(第四話完)

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