夏 選手たち

1

 青い空に入道雲。


 河原に風が吹き抜け、堤防の青草を揺らした。


 トキ子とクリ、そして探偵の三人は、堤防の土手に座っておにぎりを食べている。

 足元を見下ろすと、河原には練習グランドがあった。


 ユニフォーム姿の猫たちが十匹ほど、全面に展開している。いや、散開しているといったほうが正しいか。


 ためしに背番号の順に追いかけてみよう。


 背番号一番は白ブチ猫。グランドのセンター位置で自分の尻尾を追いかけて、くるくる回っている。

 背番号二番は茶トラ猫。背番号八番のベッコウ猫にじゃれつくあまりアタックしているが、いかにもウザいといった風情の八番にうまくかわされている。

 背番号三番はロシアンブルー猫。グランド右端のゴール付近にいる。しかしキーパーというわけでもなく腕や尻尾の毛づくろいにご執心である。

 背番号四番はボロ雑巾のようなベッコウ柄の猫。地面に転がって背中を砂だらけにしている。

 背番号五番は白黒ブチ猫だが、ほぼ白い毛並みの顔の真ん中、鼻の横にぽつりと黒いブチがあるのが特徴だ。こいつはグランドに迷い込んできた羽虫を追いかけ、繰り返し飛びつき、はたき落とそうとしている。

 背番号六番は、……いやいや、もうこのくらいで良いだろう。


 「こりゃァみごとにバラバラだなア」


 あきれて探偵が言った。


 「何のゲームだろうニャ?」


 とクリ。


 「こんなので試合になるのかしら?」


 とトキ子。


 そのときであった。


 「オッホン!」


 背後で、聞こえよがしの咳払い。

 振り返れば眼鏡をかけたダーク・グレイの老猫が、自転車から降りて脇に立ち、如何にも三人に何か言いたげな様子である。


 「オッホン、エヘム。どうやら貴公きこうら、猫ラグビーを知らぬとみえるな」


 「貴方あなたは、」


 尋ねるトキ子に答えて。


 「拙者せっしゃ、名乗るもおこがましいが、缶野猫五郎かんのねこごろうと申す一教育者である。猫ラグビー教育に携わり十数年余。かつては猫ラグビー創成期、鬼の審判・『猫缶』と呼ばれた者じゃ」


 言われてみればそれなりの気魄きはくがあるように思える。三人は少し感心して居住いずまいを正した。


 老猫はそれを見てうむうむとうなづき、立て板に水を流すように語り始めた。


 「そもそも猫ラグビーの発祥はっしょうは、今を去ること四十年前。北方からの留学生ネコノ・シマノフスキがもたらしたケマリ・プレイのルールを修正して適用したのが始まりぢゃった。ところがカンブクロを使ったこの球技は荒々しく怪我人が絶えなかったのである。そこで拙者を含む審判数名が協議の結果、ルールを改変し……」


 「ちょ、ちょっと待ってください」


 探偵は手を挙げて慌ててさえぎった。放っておくと延々と続きそうだ。


 「えーと質問。ボールが見あたりませんが、いったい……」


 「ウム、良い質問ぢゃ。」


 老猫は我が意を得たりとばかり、ゆっくりうなづく。そしてグランドを指さした。


 「丁度良い。見よ。」

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