決裂
翌日―――通学中の電車で、詩帆は着信音でスマートフォンの画面を見る。円佳からのLAINのメッセージだった。内容は「ごめんなさい、今日は欠席します」の一言だった。この日の円佳は定期通院を理由に欠席する事になったのだ。
「突然欠席なんて、何があったのかしら」
何だろうと思いながらも了承の返事をする詩帆。大勢の生徒に混じって登校する詩帆だが、この日も時折詩帆を見てはコソコソと何か話している生徒がいた。教室に入り、一限目の英語の授業に取り組もうとする詩帆。
「うわ……またノート忘れた」
鞄を探ると、英語の授業に使うノートを入れ忘れていた事に気付く詩帆。以前のように円佳からノートを借りようとしても、今日は欠席であり、借りれるような相手がいない。こんな時にもう、と思いながらも詩帆は別の教科に使っているノートのページを利用する事にした。この日も授業が進み、昼休みに入ると、詩帆は空席状態の円佳の席に目を向けつつ、一人で学食へ向かって行った。
その頃円佳は、病院で定期通院による検査の結果を控えていた。円佳は暗い表情をしている。同伴していた芽唯が一生懸命励ますものの、円佳の表情は一向に変わらない。受付の席で待機してから一時間後、ナースから呼び出しの声が来る。円佳と芽唯は主治医の元へ向かった。
「……非常に申し上げにくいのですが、進行しているようです。すぐに入院が必要ですね」
主治医の赤坂が告げたその一言に円佳と芽唯は愕然とする。
「そ、そんな……娘は……もう学校に行けないのですか!?」
芽唯は涙ながらに尋ねるが、赤坂は言葉を詰まらせている。
「……嫌よ!入院なんて!せっかく大切な人と楽しく過ごしたいと思ったのに……どうして……!」
円佳はその場で泣き崩れてしまう。
「円佳……」
芽唯はそっと円佳を抱きしめる。円佳はただ泣く事しか出来なかった。
放課後になると、詩帆はふと将来の事を考えて進路相談を受けようと考えたが、何か気が乗らないので断念して帰る事にした。校門を出ると、一人の女生徒が詩帆の前に現れる。絵梨だった。
「どうも!水無月詩帆さんですね?」
「誰?」
「私は新聞部部長の碧生絵梨です!あなたにちょっとお聞きしたい事がありましてねぇ」
「聞きたい事?」
「あなたは最近、クラスメートの女子と何かいい関係になってるらしいですね!聞いたところ、とても仲がいいんだとか」
詩帆は何だこいつ、と思いながら軽く溜息を付く。
「マドカの事?いい関係というか、ただの友達よ。それが何だっていうの?」
「ふむふむ、ただの友達と言いますか。果たして、本当にただの友達関係なんでしょうか?」
「は?何なのよ。友達だって言ってるでしょ?」
「それがですねぇ……鷹塚円佳さんでしたっけ?ここ数日、鷹塚さんからの誘いで二人きりで屋上に行ったり、二人ご一緒に下校したりとかしてるではありませんか。水無月さんにとってはただの友達でも、鷹塚さんにとっては本当にただの友達関係でしかないのか、と気になりましてね。それに……昨日手を繋いだりしてませんでした?」
「……何が言いたいわけ?」
大胆不敵な絵梨の態度に詩帆は少々攻撃的になる。
「つまりですよ。鷹塚さんはあなたに対して何か特別な感情を持っている。そんな雰囲気が感じられるんですよねぇ」
「なっ……何言ってるのよ!?」
払い除けるように言って後ずさりする詩帆。絵梨はニヤリと笑みを浮かべてそっと顔を近付けてくる。
「おっと?今ちょっと意味深な反応しましたね?実はあなたの方も何かあるんじゃないですか?」
至近距離まで迫る絵梨を、詩帆は思わず突き飛ばしてしまう。
「ふざけないで!変な詮索はやめてくれる!?」
怒鳴り散らしてその場から逃げるように去る詩帆。絵梨は去り行く詩帆の後姿を見てふふんと鼻で笑った。
その日の夜―――繁華街にある中華料理店では絵梨を始めとする新聞部の部員が集まっていた。絵梨の前には沢山の餃子が盛り付けられている。
「所謂LGBTってやつ?私最近そういった世界に色々興味があってね。そんな時に身近なところでレズ疑惑のある二人の女の子がいたのは大収穫だわ。これで男同士もいたら最高なんだけどねぇ」
絵梨は餃子を食べながら談笑している。
「で、その二人の関係性についてどうするつもりなの?」
「記事にするに決まってるでしょ。どんな方向にするかはまだ考えてないけど、我が校における初のレズカップルの誕生といった記事がいいかしら?」
「ちょ、それはマズイんじゃないですか!?いくら何でもそこまでするのは……」
「バカね。寧ろ応援してやる気持ちで記事にするのよ。それに、同性同士の恋愛がどんなものか見届けたいってのもあるからねぇ」
「それっていいんですか……」
半ば戸惑い気味の部員達だが、絵梨は新聞記事のプランを出しつつもたらふく餃子を食べるばかりだった。
その頃詩帆は、自室でアルバイトの求人情報を漁っていた。新しいバイトを探しているのだ。候補に選んだバイトは、土日限定の仕事で募集している洋菓子製造工場のバイトだった。そこで着信音が鳴り始める。達也からのLAINのメッセージだった。
『今週の土曜日暇?』
『多分暇…だけど』
詩帆はもしや会いに来るんだろうか、と思いながら返信する。
『もし暇だったら久しぶりに一緒しないか?ここずっと会ってないし』
やはり、と心の中で呟きながら返信する詩帆。
『別にいいけど』
『よし、じゃあ朝9時くらいにバチ公前で待ってるよ』
円佳と遊びに行く時と同じ待ち合わせ場所だという偶然に思わず吹き出してしまう詩帆。達也とは久々に会う事もあって内心嬉しい気持ちになっていた。
「え……何これ……」
翌日の教室―――円佳は愕然とする。なんと、円佳の机にはハートが付いた相合傘のマークが大きく刻まれているのだ。しかも詩帆と円佳の名前も刻まれていた。周りの生徒達が呆然としている円佳の姿を見てニヤニヤと笑い始める。そこで詩帆が教室に入ってきた。
「あ、詩帆!ちょっとこっち来てよ!」
円佳が詩帆に呼び掛ける。
「マドカ、どうかしたの?」
何事かと思いつつ、詩帆が机に鞄を置こうとした時、詩帆は驚愕する。詩帆の机にもハートが付いた相合傘のマークが大きく刻まれており、詩帆と円佳の名前も刻まれていたのだ。
「何なのよこれ……誰の仕業!?」
詩帆が怒鳴りつける。
「おめでとう!レズビアンカップル成立おめでとう!ヒューヒュー!」
「レズとかマジー?ビックリなんですけど!」
周りの生徒が囃し立てる。突然の出来事に言葉を失う詩帆と円佳。授業開始のチャイムが鳴り、教員が入ってくると教室は一斉に静まり返る。詩帆は机の上の相合傘のマークを見ながらも内心怒りに満ちていた。一限目の終了を告げるチャイムが鳴ると、詩帆は円佳のところへ駆け寄る。
「マドカ……まさかあなたも?」
円佳が頷く。詩帆は円佳の机を見ると、ますます怒りを覚える。その様子を見ていた周りの生徒はニヤニヤしている。
「誰なの?こんなバカな真似をした奴は。言いなさいよ!」
詩帆が問い詰めても周りは白を切るばかりだった。
昼休みになると、円佳はそっとLAINで詩帆にメッセージを伝える。「先に体育館の裏に行く。少し経ったら来て」という内容だった。詩帆はメッセージの通り、円佳が行ってから5分後に体育館の裏へ向かう。
「ここなら多分大丈夫だと思うわ」
円佳が周囲を確認する。周囲には誰一人いなかった。
「あたし達、周りの奴らからレズに見られてるっていうの……?」
詩帆が溜息を付く。
「……レズだろうが何だろうが別にどうでもいいじゃない。何が悪いっていうのよ」
小声でそう呟いた円佳は項垂れてしまう。
「まさかあいつの仕業?」
詩帆の頭に浮かんだのは絵梨だった。
「あいつって?」
「昨日変な子に絡まれたのよ。新聞部の碧生絵梨っていう子なんだけど」
詩帆は昨日の絵梨との会話について全て円佳に話した。
「そっとしてほしいわ……何で変な風に見られなきゃいけないわけ?いつ誰に迷惑かけたっていうの!?」
円佳が声を荒げる。
「……マドカ。思い切って聞くけど。あなたってもしかしてそういう人だったりするの?」
詩帆の言葉に円佳が驚きの表情を見せる。
「だって前からやけにあたしにベタベタしてきたり、手を繋ごうとしてきたでしょ」
円佳は言葉を詰まらせる。
「どうなの?」
詩帆は顔を近付け、迫るように言う。
「……そうよ」
円佳が意を決して自白する。
「あなたの言う通り、私はレズビアンよ。過去に付き合ってた男に裏切られたせいで私は女の子しか信じられなくなったわ」
詩帆は言葉を失う。
「……いつかは話そうと思ってたけど、もうここまで来たら思い切って言うよ」
円佳が中学生の頃、所属していた吹奏楽部の先輩であり、憧れの相手でもあった一つ年上の男子……勝己に想いを寄せていた。真面目に部活に取り組み、成績も優秀であった勝己は女子からの人気者であり、部員からも慕われていた。円佳はそんな勝己に惹かれるようになり、部活を通じて勝己と共にしているうちに連絡のアドレスを交換するようになり、やがて付き合うようになったのだ。受験が間近になった頃、勝己は勉学に専念する為に部活を引退し、交際する機会は止まったものの、勝己への想いは変わらぬままだった。卒業後、高校への進学はそれぞれ別々の高校に通う事になったが、勝己は休日の日に円佳と再び交際を始めるようになった。高校生になってから別々の学校へ行く事になっても交際が続いている事に円佳は喜びを感じていた。だが、円佳が高校生になってから2か月が経過する頃、突然勝己からの連絡が途絶えるようになった。数週間後のある日、円佳は信じられない場面を目撃する。それは、勝己が別の女子と交際している姿であった。しかもその女子は、円佳が中学時代に所属していた部活の部員だったのだ。更にその女子とは円佳と付き合い始める前からの関係であり、二股をかけていたという事実を知ってしまったのである。おまけに円佳の事はまるで眼中にないかのように女子とキスを交わし、その光景まで見てしまった円佳は好きだった男にあっさり裏切られたという悲しみに打ちひしがれてしまった。失意のあまり心に影を落とした円佳は男子との関わりに恐れを抱いてしまい、同性しか信じられなくなってしまったのだ。
「……それで、レズに走ってしまったというわけ?」
詩帆の問いに円佳は頷く。
「で……あたしにどうしろと?ただの友達関係じゃダメなの?」
戸惑うばかりの詩帆は思わず本音を口にする。
「……ごめんね。こんな私で……ごめんね」
俯きながら円佳は涙を零し、不意に詩帆の唇を奪う。
「んうっ……!?」
突然の出来事に目を見開く詩帆。しかもキスは軽いものではなく、濃厚な形だった。口内に吐息と混じって何かが入ってくるのを感じた詩帆は必死でキスから逃れようとするが、円佳の手で遮られてしまう。そっと唇が離れると、交差する生温かい息と共に一筋の糸が引かれる。
「な……何するのよ!」
顔を赤らめる詩帆。だが、円佳は更に顔を近付けてくる。
「許して、詩帆。もっと……あなたと共にしたい。それだけ、好きになってしまったから……それに、私にはもう時間が……」
言い終わらないうちに、詩帆は思わず円佳の頬を叩いてしまう。
「……冗談じゃないわ。あたしはあくまでただの友達だと思ってたし、普通の友達関係でありたいと思っていたのに……こんな事してまで、友達以上の関係なんて……」
詩帆は頬を抑えている円佳に背を向ける。
「あなたの過去の事情は気の毒だと思うけど……だからといってそんな関係まで望んでいないわ。第一、あたしはそういう人じゃないから!」
詩帆は逃げるようにその場から走り去っていく。
「詩帆!待って!詩帆!!」
円佳は自分がついしてしまった事への後悔に襲われ、痛む頬を抑えながらその場で泣き崩れてしまう。昼休み終了のチャイムが鳴っても、円佳はずっと泣き崩れていた。午後からの授業が始まると、詩帆は通常通りに授業に臨む。だが、円佳は教室に戻って来ない。一日の授業が全て終わり、放課後になっても円佳は教室に戻って来ないままだった。詩帆は円佳の事が気になって思わず探しに行こうとしたが、昼休みでの出来事と周囲の悪い意味での視線が頭に浮かんでしまい、断念した。
「だからって……だからってねぇ……」
詩帆にとって円佳のキスは経験した事のない形でのキスでもあり、口内に感触と味、そして匂いがずっと残っていた。一人で下校する詩帆にそっと後を付ける者がいる。絵梨だった。
「んん?まさかの気まずい空気感?これはちょっと様子見かな」
絵梨は密かに昼休みでの出来事も観察していたのだ。絵梨のスマートフォンの撮影動画リストには、詩帆にキスをしている円佳の姿も撮影されていた。
「円佳……一体どうしたっていうの?あんなに泣いて……」
その頃円佳は自宅の自室に閉じ籠もり、ずっと泣いていた。しかも早退しての帰宅であり、芽唯は円佳の様子を気に掛けるばかりだった。
電車から降りた時、詩帆のスマートフォンから着信音が鳴る。円佳からのLAINのメッセージだった。詩帆はそっとメッセージ内容を確認すると、「今日は本当にごめんね。怒ってる?」といったメッセージだった。詩帆はもうこれ以上ややこしくしないで、と思いながらも適度な返信を打ち始める。
『別に』
『ごめん……あんな事されたら嫌われても仕方ないよね』
『もういいよ。あんたがレズだって事は構わないけどさ。あたしはややこしい関係じゃなくて、普通の友達関係でいたいんだから』
言える事はこれくらいよ、と心の中で呟きながら返信を終えると、詩帆は溜息を付きながらスマートフォンを制服のポケットに入れる。その後の円佳からのメッセージは来ないままであった。
土曜日の朝―――詩帆は忠犬バチ公の銅像の前に向かうと、そこには達也がいた。
「よ。こうして会うのも久しぶりだな」
「本当ね。あんた最近バイト忙しいの?」
「まあな。進路相談もあるし、バイトで稼いでおかないと後で困りそうってのもあるからさ」
他愛のない会話を弾ませる詩帆と達也は街の中を歩き、カフェに入る。コーヒーとココア、パンケーキを注文すると、詩帆は席に座ったまま背伸びしてリラックスした。
「達也、あんた進路決まったの?」
「全然。最初は進学で考えたけど、金に余裕がないし奨学金貰っても返済の事があるからな」
「やっぱり?あたしも大体そんな感じよ」
お互い将来が決まらず、なかなか将来が見えて来ないという悩みを打ち明ける詩帆と達也。そんな二人の元にコーヒーとココアがやって来る。
「はー。適当にどこかの企業に就職するのが一番なのかしら」
コーヒーをすすりながらぼやく詩帆。
「いっそのところ働かないで二人きりで過ごしたいな……って思った事ないか?」
達也の一言にコーヒーを吹き出す詩帆。
「そ、そこまで思った事ないわよ!笑かさないでよ」
詩帆は少し顔を赤らめながら口を拭う。そんな会話を繰り返しているうちに、テーブルにパンケーキが置かれる。
「ところで……円佳だっけ?その子とは仲良くやれてるのか?」
パンケーキを頬張っていた詩帆は思わず手を止めてしまう。
「……少し、距離を置く事にしたわ」
達也は詩帆の険しい表情を見て何かあったのかと聞くと、詩帆は溜息混じりで色々あったのよと返した。詩帆の頭の中には体育館裏での円佳からのキスとその一連の出来事が焼き付いていたのだ。
その頃円佳は、ただ一人でスマートフォンの画面を眺めていた。詩帆とのLAINのメッセージのやり取りから、カレンダーのアプリに切り替える。カレンダーには翌週の月曜日に「入院」というメモがある。それは円佳の入院日であった。本来は昨日に即入院の予定だったが、円佳のせめてあと一日だけ学校で過ごしたいという要望に応え、入院日を延ばしてもらったのだ。
「詩帆……」
円佳は詩帆との会話の記憶を頼りに、詩帆の自宅へ向かおうとしていた。詩帆の自宅については学校内での会話で住所となる地名を少し聞いた程度だった。路地を歩いている途中、円佳は突然鳩尾部分から激しい痛みを感じる。鳩尾を抑え、蹲っていると吐き気に襲われ、血を吐いた。血の色は赤い鮮血だった。円佳は呼吸を荒くしながらも体の痛みを抑え、立ち上がってはフラフラと歩き始めた。
詩帆は達也と街を歩き、様々な店に立ち寄ったりといったひと時を過ごしていた。日が暮れ、散策を満喫した二人はひとまず詩帆の自宅へ行く事にした。
「お前の家に行くのも久しぶりだな。部屋は綺麗なんだろうな?」
「バカね、部屋くらい綺麗にするわよ」
二人が乗った電車は詩帆の自宅の最寄り駅に到着する。電車を降りて駅から出ると、突如詩帆が足を止める。
「どうした?」
「……いや、何でもないわ」
詩帆はまさかなと思いながら辺りを見回し、達也の手を引いて再び足を動かす。夕焼けの中、達也の手を引きながら自宅へ入っていく詩帆の姿を背後から隠れて見ている者がいる。円佳だった。
「うそ……まさかそんな……」
円佳は愕然とし、その場に立ち尽くす。
詩帆の両親に快く迎え入れられた達也は詩帆の自室に連れて行かれる。部屋に漂う女子独特の匂いに思わずドキッとする達也。
「お前の部屋、こんなとこだっけ?」
「こんなとこよ。てかあたしの部屋に来たのって何年振り?」
「さあ……中二以来じゃないかな」
達也は幼い頃から中学二年生の頃までは何度も詩帆の部屋を訪れた事はあったが、数年振りの訪問で部屋の環境が自分の知っているものと変わっていたという事もあってか、どこか新鮮に感じていた。
「ところで、明日どう過ごす?」
「面接よ。バイトの」
「バイトの面接?何か良さげなところ見つかったのか?」
「一応ね」
そこで詩帆のスマートフォンから着信音が鳴る。確認すると、円佳からのLAINのメッセージだった。メッセージ内容は「ごめんね」の一言だけであった。詩帆はやれやれと軽く溜息を付いて画面を消す。
「どうかしたのか?」
達也が覗き込もうとすると、詩帆は「何でもないわよ」と返し、部屋のカーテンを開けて窓の外を見る。
「……ねえ達也。あたし達の将来、どうなってると思う?」
窓の外を眺めながら言う詩帆。達也は詩帆の長い髪から漂う香りにドキドキしてしまう。
「こんな事言うと恥ずかしいけど……一緒にいれたらいいかなって」
達也が顔を赤くしながら言うと、詩帆がフフッと微笑みかける。
「バーカ。何赤くなってんのよ」
詩帆は達也の額を指で軽くつついた。
夜も更け、自宅に戻った円佳は自室で手紙を書いていた。
詩帆―――私は、あなたに憧れていた。一年前からあなたに片想いしていた。
同性しか見れなくなっていた私は、クールに生きているあなたに惹かれていたんだ。
あなたに助けられた時、私の中で大きな運命を感じていたんだ。
私にとっての運命の人―――詩帆、あなただったんだ。
でも、あなたには既に好きな人がいる。あなたは決して私と違うから、いて当然だよね。
迷惑かけて本当にごめんなさい。そして、思い出を作ってくれて本当にありがとう。
私は、あなたを愛してる―――
鷹塚円佳
手紙を書き終えた時、円佳は部屋の照明を消し、カッターナイフの刃を手首に当てていた。手紙には、数滴の血と涙が滴り落ちていた。
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