夏の日の
赤魂緋鯉
夏の日の
コンクリートの灰色が目立つ街の中に、オアシスのごとく緑と地面が見える小さな公園があった。
夕刻のオレンジ色に染まりつつあるのだが、依然威力が衰える様子の無い夏の太陽は、それらを容赦なく焼き続ける。
高校2年の女子高生・
「どうしちゃったのさ。柄にも無くたそがれてるみたいな顔して」
ベンチと木以外は何も無い公園を見つめ、遠い目をしている美月へ、実にフランクな調子で亜美は訊ねる。
ダンス部の彼女達は、両方とも中性的な顔立ちで、短髪の亜美はもちろん、長髪を後ろで縛っている美月すら、知らない人から男子だと間違われる。
「なんていうか、ここも
しみじみとそう答えた美月は、私だってそういうときもありますー、とわざとらしく唇を尖らせながら、実に楽しそうに反論した。
「昔はさー、ブランコとか回転ジャングルジムとかあって、そりゃあもうバカみたいに通って遊んでたんだけど、なんで無くなっちゃったんだろね」
「
「そんなの、気を付けて遊べば危なくないのにねえ」
「仕方が無いよ。テンション上がってると、そういうのがおろそかになったりするし」
「それ、私へウチの親が言ってたのと同じだよ」
そんな
「ん? 思い出って、美月、高校入ってからこっち来たんじゃなかったっけ?」
「ちっさいとき、夏休みにばあちゃんちへ遊び行ったときに良く来てたんだ」
「なるほど」
亜美は美月が祖母の家に下宿しているのを知っているため、その答えを聞いて合点がいった。
「そういえばさ、美月。ささっち、っていう
小5ぐらいのときまで、夏休みになるとその子とよく遊んでたんだよ、という亜美の話を聞いてすぐ、
「例の初恋の人だっけか。盆ぐらいに帰省してきてたっていう」
数ヶ月前の春頃、彼女がそう話していたことを美月は思い出した。
「そそ」
「うーん。私がそう呼ばれてたけど、相手男の子だったんだし別人だよねえ……」
「……? ……小野田なのにささっち?」
「ああ、言ってなかったっけ? 親が再婚する前は、
彼女は亜美の質問に答えると、再び心当たりが無いか、腕組みをして記憶を探り始める。
「だめだ。なんかヒントあったら分かるかも」
「どういうの?」
「たとえば服装とかさ」
「服装ねえ……。……麦わら帽子被ってたぐらいかなあ」
顔に比べてつばが大分でっかいヤツ、と聞いて、
「……あのさ亜美、その子さ、なんか派手な色のティーシャツ着てた?」
美月の脳内に、急にある人物の事が浮かんだ。
「あー、着てた着てた。ナイロンっぽい素材の黄色」
「で、下が地味な黒のハーフパンツ?」
「そうそう。どっかのサッカーチームと同じだ、って言ってた」
「なるほど……」
とつぶやいた美月は、1つ
「おおマジで? もしかして
「……それね、私だよ」
ウキウキで訊いてくる彼女へ、美月は少し苦々しそうな顔をして、そう切り出した。
「なんて?」
自分の記憶と美月の発言が
「そのささっちって子、私だよ……」
「ちょっとー、冗談止めてよもー。その子男の子だってば」
「中学上がるまで、私さっき亜美が言った理由でその
「いやいやいや。流石にそれでも分かるって」
と、にわかに信じられない、といった様子で言う亜美。
「亜美さ、そんとき真っ赤な野球帽被ってたでしょ? おんなじチームのユニっぽい服着て、靴はめっちゃ派手な赤いやつで」
なので美月は、当時、彼女がしていた格好を迷わずに挙げていった。
「――はっ!? えっ? ささっち……?」
「うん」
美月の顔をまじまじと見ていると、その目元に面影が残っているのに亜美は気がついた。
「どおりで初対面のはずなのになんか懐かしかったわけだ……」
「思い込みって恐ろしいねえ……」
「私の初恋、どうしよう?」
「なんなら、そのまま
「それマジで言ってんの?」
「ジョークで言うほど私は軽い人間じゃないよ」
「じゃあお願いいしちゃおうかなあ」
そう言った後、無言になった美月と亜美が見つめ合っていると、軽音学部っぽい女子高生4人組が、
2人はハッと正気に返って、お互いに顔を真っ赤にして逸らした。
公園の様子はすっかり変わってしまったが、やかましく鳴きまくるセミの声はそのままだった。
夏の日の 赤魂緋鯉 @Red_Soul031
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