神様、辞めさせて頂きます。

茶摘 裕綽

プロローグ

「開け」


 国王が腕を伸ばしそう唱えると、手のひらの先から虚空が音もなく、紙のように破けた。


 空間がめくれあがり現れたのは異世界へのゲート。

 人がくぐれる最小限、最小幅。その先には闇しか見あたらない。


 これをくぐれば、いよいよこの世界ともおさらばだ。未練は何もない。この先には人間としての自由で楽しい生活が待っている。


 だが、その前にやるべきことが一つ残っていた。


「怖じ気付いたのか?」


 俺は怪訝そうに訊いてくる国王に向き直りしっかりその目を見すえ、覚悟を示す。そして懐から取り出したそれを差しだし、


「辞表届け?」

「はい、一身上の都合により――」


 今までの感謝を込めて高らかに宣言した。


「――神様、辞めさせて頂きますっ!!」


 それから程なくして、俺は暗闇の中へと飛び込んだ。


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