相坂姉弟の除霊奇譚
千羽はる
相坂学人の除霊譚
第一話 睨んでくるのはどちら様
今日も、睨まれている。
じっとりとした視線にも慣れてきたけれど、いい加減、アルバイトとして一か月も経過したのだから先方にも慣れていただきたいものだ。
かといって、この場でそう文句を言うわけにもいかず、相坂
「はぁ……」
「あれ。学人君。今日は学校大変だったの?」
視線とは違う方向――学人の正面から、店内に漂う花の香りのように優しい、気づかわし気な声が投げられる。
げんなりした顔を慌てて取り繕うと、気持ち明るい笑顔を作って声の方向に振り向いた。
「あ、いえ。別にそういうわけじゃないですよ。管理人さん」
そこにいるのは、化粧っけに乏しいものの、おっとりとした包容力と可愛らしさを持つ女性。
顔立ちは飛び切り美人というわけではない。
だが、話すと不思議と強張っていた肩の力を抜かせてくれる、不思議な雰囲気を醸し出している。
管理人さん、と呼ばれたその女性は、行っていた花束を作る作業を止めると、腰に手を当て、リスのように頬を膨らませた。
「もう、管理人さんは止めてよ。私は沙也です。鏑木沙也。学人君の下宿の管理人であることはそうだけど……他人行儀すぎるよ? もう家族みたいなものなのに」
「あ……すみません。」
学人は、癖っ毛の頭に思わず手を当てて彼女に謝る。
だが片思いをしている相手を名前で呼べるほどの度胸が、学人にはない。
彼女、
同時に、大学に入学して以来、学人が下宿しているのはこの花屋の二階なので、学人にとっては下宿の管理人でもある。
彼女は、情けなく頭をかく年下の青年に、仕方ないと肩をすくめた。
「学人君はお姉さんと違って慎ましいよね。お姉さんは結構ガンガン行くタイプなのに。」
「いや、あんな姉と一緒にしないでください。」
「ええ? いいお姉さんだと思うけどなー。何時だって相談に乗ってくれるし、優しいし」
「それはきっと、相手が管理人さん―じゃなかった―鏑木さんだからじゃないですかね。兎も角、実の弟には滅茶苦茶な人です」
「そうなの?」
「そうです。ええ、もう本当に」
三つ年上の沙也は、同じく三つ上の学人の姉の友人だ。
――そして〈今回の相談者〉の、一人でもある。
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