第25話

「リューちゃん用事はすんだ?」

 自分の腹をさすりながら満足気な顔でイーシャが現れる……こいつ食ったな。自分の分だけではなく未だドリンクを一口しか手を着けてなかった俺のモーニングセットも食いやがった。

「……ご馳走様でした~」

 俺の食い物の恨みを込めた視線から言いたいことを察したのだろう。にっこりと笑顔でそう付け加えた。


「それで……こんなところで何してるの?」

「ああ、こいつらが──」

「高城の『友人』で同じ空手部の田村です」

「同じく高城君の『友達』の伴尾です」

「僕は隆君の『親友』で空手部の副主将をしている櫛木田と言います。どうぞよろしく」

 俺を押し退けて前に出る三人……友達まではともかく親友は無い。それに必死すぎる満面の笑みが気持ち悪いわ。

「えっと……よろしくね」

 イーシャは三歩下がって挨拶した。あまり人見知りするような子ではないのだが、こいつらに対しては人見知りして正解だ。


「リューちゃん、この人達って?」

 俺の耳元に小声で話しかけてくる。

 言いたいことは分かる。確かにイーシャは美少女と呼んでも誰からも異論は出ないほど顔立ちは整っているが、ほんの少し前までは小学生だった彼女は余り男に言い寄られると言う経験はしていないはず。何故なら日本人離れした容貌と既に百七十位はある彼女は男子児童には手に余る存在だった。


「女にもてなさすぎて必死なんだよ」

「必死です!」

「命がけで必死です!」

「だから、どうかチャンスを」

 俺の言葉に三人は潔いほどに同意した。


 こいつらにとっては、逆にイーシャの日本人離れした容貌が、空手部ということだけで自分達に怯え敬遠する女子達の態度によって植え付けられたトラウマを余り刺激しないのもあるだろうし、しかも同じ学校では無いので、無条件に嫌われることも無いと言うのも大きい。だから必死にもなる。その気持ちは分かるがはっきり言って気持ち悪い。


「でも……そんなに見た目とか悪くないよね……うん、普通かちょっと良いくらい?」

 そう言いながら眉を顰める──眉は顰(ひそ)めて、顔は顰(しか)める、同じ漢字で意味もほぼ同じなのに日本語ってやつは難しい──多分、誤解してるな。こいつらの内面に何か女性に持てない重大な欠陥を抱えているのでは無いかと……

「こいつらの名誉のために言わせてもらえば、普段は性格もおおむね普通だし、変な趣味も無いぞ」

 同じ十字架を背負うものとして一応フォローだけはしておいてやる。実際変な趣味を持っているのは、今この場には居ない紫村だけだし。

「じゃあ、どうして?」

「……何が悪かったのかなぁ。どうして中学で空手部になんか入ったんだろう」

「そもそも、小学校の頃に空手をやったのが拙かった」

「他にも部活は沢山あったのに……」

「初志貫徹でバスケ部に入っておけば……」

 俺達四人の心の傷が疼いた。


「へぇ~空手部ってそんなにすごいの?」

 空手部の話を聞いたイーシャの感想には胡散臭いという思いが込められていた。

「でも『こうやの七人』とか話を盛ってない? 幾らなんでも武器を持った二十倍の敵を相手に素手でじゃ勝てないよ」

 そうだよな、普通は信じられる話じゃない。S県外の人間なら当然の反応だ。


「それじゃあイーシャ。試しにこいつを投げてみてくれ」

 俺は伴尾を指差す。

「俺か? まあ、俺が一番弱いし妥当か……」

 伴尾は俺の意図を察した上で、全く気にした様子も無く冷静に認めた。

「リューちゃん。私は一応柔道の日本代表だよ」

「大丈夫。イーシャには絶対怪我をさせないから……つかさせたら今日がこいつの命日だ」

「そうだな」

「確かに」

 俺の言葉に櫛木田と田村が同意する。

「お前らな」

 余りの友情の篤さに伴尾が感激している。皆まで言うな。お前の気持ちは俺達がちゃんと理解している。


「違うわよ。怪我をさせたら私が困るの。そんな不祥事を起こしたら来月の大会には出られないし、それどころか学校を退学になるかも──」

 だがイーシャは納得できないようだ。

「大丈夫。万一伴尾が投げられて骨でも折ったら、俺がその上から複雑骨折させてイーシャは無関係ってことにするから」

 打撲・捻挫は怪我の内には入らない。これ空手部の常識……うん実に嫌な常識だ。

「いや待て、普通にお前が俺を骨折させたことにすれば良いだろう。何で複雑骨折まで──」

「万一、中学一年生の女子に投げられて骨折しましたなんて大島に知られたら……どうなる?」

「主将。複雑骨折でお願いします。ぜひお願いします……あまり痛くしないで」

 伴尾は即答し深々と頭を下げた。


「……どうやら私舐められてるみたいね」

 イーシャの声色が変わった。今までの街中にいる軽い女の子のような雰囲気は消えて殺気すら漂わせている。

 自分を完全に格下扱いする俺達に日本代表としてのプライドが傷つけられたのだろう。

「リューちゃん、私、本気で行くけど良いのね?」

「いつでもどうぞ」

 構えも取らず伴尾がイーシャを挑発する。

 次の瞬間、イーシャは滑る様に『田村』の懐に飛び込んで、彼の着ているジャケットの襟へと両手を伸ばす。


 完全な不意打ちだった。田村は「うぉっ?」と声を上げて驚きの表情を浮かべ、逆にイーシャは勝利の笑みを浮かべる。

 だがイーシャの笑みはすぐに凍りつく。彼女の腕はまるでワイパーに取り除かれる雨粒の様に、田村の左腕に右上から払われて、同時に右腕で右下から払われる。しかも田村の右手の親指は彼女の右腕の手首の内側を押さえ、残りの四本の指が甲を掴み、そのまま捻ってイーシャの右腕の手首を内側に返して固めている。田村は意表を突かれながらも難なくイーシャの攻撃をさばいたのだ。


 田村はそのまま掴んだ腕を引いてイーシャの体勢を崩す。そこから右手の方へと左足を踏み込んで投げに入る。もし低い位置で手首を固めたまま投げれば彼女は自ら飛んで地面に転がることになるだろうが、田村は高い位置で投げに入った。

 イーシャが柔道の日本代表だと知っての判断だろう。イーシャならば重心が高い位置で投げたら、自ら飛んで前転宙返りをして足から着地することも出来るはずだと考えたのだろう……紳士だな田村。


 ふわりとイーシャの身体が自らの跳躍で宙に飛び、両足を抱え込んで身体を回転させ足を地面に向ける。そして彼女の短いスカートの裾がふわりと浮き上がり、白い下着に包まれた中学一年生とは思えないボリュウムを持つ形の良いヒップを全て晒し出しながら綺麗に着地を決めた。


「白だ!」

「純白だ!」

「まぶしい程に白!」

 誰が紳士だ? 変態だよこいつらは!

 ガッツポーズを取る田村の向こう側で、イーシャが顔を真っ赤にして自分のスカートの裾を押さえ、を泣きそうな目で俺を見た。

 その瞬間、俺の頭は真っ白になる。


 手加減なしに動いた俺は、一瞬で喜び浮かれれる三人へと間合いを詰めると懐に飛び込み腹へ一撃を加えた。

 さすがに殴る力は加減している。精々小学校低学年の児童が頭を叩かれて「痛いよぅ、オカァーサンッ!」と泣き叫ぶ程度の威力だ。しかしガードするどころか腹筋を締めるという最低限の防御すら間に合わないタイミングで攻撃を加えられたことで、空手部の基準で言うと「優しく撫でる」というレベルの打撃でも、拳は柔らかなままの腹部に簡単に、そして深々と突き刺さり甚大なダメージを与えた。

 意識して腹筋に力を入れない状態で軽く腹を殴ってみれば、想像できない程にあっさりと拳が腹にめり込む感触に恐怖すら覚えるはずだ。そして決して強くない筈の打撃が内臓にダメージを送り込むのが分かるはずだ。

 ただし一度試せば身体が痛みを憶えてしまい、その後どんなに意識して腹筋の力を抜いても、腹に拳がめり込んだ瞬間に腹筋に力が入り二度と成功することは無いので、試す時はしっかり噛みしめる様に体験して貰いたい。


 路上で蹲り、朝飯前で胃袋が空なためゲェーゲェーと胃液を吐く3人を見下ろす。

「おい下種ども、何が白いって?」

「……な、なんでもありません」

「な……なんにも……見てません」

「調子……こきました。も、申し訳ありません」

「謝るならイーシャに謝れ!」

 余りにもあっさりと一蹴された事で心を折られた3人は痛みに呻きながらも素直に謝った。


「う~ぅ、見られた」

 未だ立ち上がれない三人を放置して路地裏を出たが、肝心のイーシャの機嫌は未だ直らない。

「……ごめんな」

 俺もしっかり見てしまったので謝罪する。

「あぅ……べ、別にいいのよリューちゃんになら」

 真っ赤になって恥ずかしそうに、そんな事を言われても罪悪感が増すだけだよ。

「ありがとうな」

「どういたしまして」

 やっとイーシャは笑ってくれた。


「でも本当に凄いんだね」

「うん?」

「リューちゃんの空手部のこと。タイミング的にも完全に掴めると思ったのに組みに行った手を一瞬で切られて投げられるなんて……あれって、確か合気道の小手投げとかいう技に近かった気がするんだけど?」

「さあな、俺達は空手部だから合気道とか柔道のことはあんまり知らないんだ」

「ちょっと、知らないで私を投げられるはず無いよ」

「いやぁ、うちの部の顧問がね……」

 大島は俺達が組み手や型の練習をしていると、突然「隙あり!」とふざけた事を叫びながら襲ってきて空手とは関係の無い技を掛けてくる。ほとんどが締め技や関節技で、極められて苦しむ俺達を笑いながらからかい、タップしても一分くらいはそのまま技を掛け続ける。

 次に多いのは投げ技で、やる気の無い時は打撃を加える……やる気が無いならするなよ。


 そんな訳で俺達は、大島が掛けてくる技を身をもって体験し自分のものにしている。技を理解して習得しなければ大島が掛けて来る技に対応できないという理由で止むを得なくだが……

 だから俺達はそれらの技を正式に習った訳ではなく、当然技の名前もどんな武術の技なのかも知らない。そう説明するしかなかった。


「空手部なのに、何で関係ない技を教えてるの?」

「いや教えてはいない。奴は単に自分の楽しみとして部員へ技を掛けているだけのドSだ」

「……なんか色々と大変な部活なのね」

「分かってくれるか?」

「うん。でもリューちゃんも強くなったから良いんじゃない? 私を投げた、た……何とかさんも凄かったけど、リューちゃんの動きは人間の動きとは思えないほど速かったよ」

 拙い、本気を出しすぎてしまった。ここは何とか誤魔化さないと……ちなみに田村だからね。

「それな──」

「格好良かったな……ますます惚れちゃったよ。優しいリューちゃんも良いけど、どうせなら私より強くなって欲しかったんだから」

 イーシャに何か別のスイッチが入った。本気で拙い、話題を変えないと。


「……だけど、イーシャのスカートは短すぎると思うんだけど、だから投げられて中が……」

 イーシャの中学校の制服はさすが東京の学校だけあっておしゃれで、うちの学校の中途半端で野暮ったいブレザーとスカートの制服とは違っている。だが一番の違いはスカートの短さだろう。しかもそれが生足なのだから、俺も思わず目が行ってしまうのを時々抑えられないことがある。

「でも皆……リョーちゃんだってこんな感じだったでしょ」

 そう言いながらスカートの裾を摘んで見せるが……はて?

「涼のスカート……スカート?」

 そもそもスカートだったのかさえも印象に残ってない……でも制服姿だったからスカートのはずなんだが……?

「もっとリョーちゃんに関心を持ってあげてよ。これじゃリョーちゃん可哀想だよ」

「可哀想なのかどうかは分からないけど、確かに今のままってのは拙いよな……しかし、スカート?」

 首を傾げながらイーシャのスカートに視線を送るが、どうにも涼が同じスカートをはいているイメージが思い浮かばない。完全記憶さえも涼は対象外なのかと思うと自分の心の問題の根深さに呆れ返る。


「もうリューちゃん。さっきからチラチラと……見たいなら見たいとはっきり言えば見せてあげるから」

 見たくないと言えば嘘になるが、見たいと言ってしまった時のことを考えると怖い」

「失礼だよ」

 しまった。またもや考えてることを口にしてしまった。これは間違いなくシステムメニューの弊害だ。システムメニューを展開中は人前で踊ろうが叫ぼうが時間停止中なので、調子に乗って思いついた事を口にしながら考える癖がついてしまっている……独り言を言いながらの方が考えがまとまるんだよ。


「……どこから口に出していた?」

「見たくないと言えば嘘になるからだけど」

 考えている内に思わずじゃなく、最初から独り言かよ……ある意味凄いな俺。

「見たいならいつでも言ってね。リューちゃんにならスカートの中くらい見せてあげるから」

 罠だ。これは孔明の罠だ。この世の中に魅惑的に見えない罠なんて存在しない。つまり俺は今、完全に魅惑されてしまっているのだ……思わず唾を飲み込み、ゴキュリと喉が鳴る。


 その音を聞いたイーシャは、中学一年生の女子が決してするべきではない色っぽい目付きで俺を一瞥し、口元に笑みを湛える。

「……どうせ、将来もっと凄いものを見せてあげるんだから」

 それは少し前まで小学生だった君が言って良い台詞じゃないでしょう!

「……ちょっと引くわ。さすがに無理」

 胸の高さで両の掌をイーシャに向けて首を左右に振る。

「どうしてぇ?」

「がつがつし過ぎだよ」

「あれ~? ママが言ってたのと違うよ」

「何を言われたんだ?」

「引かば押せ。押さば押し返せ!」

「色んな意味で間違ってる……はぁ」

 そう言いながら、もうゴールインしちゃえば良いじゃないか? そんな風に考える自分が脳内会議の中に一定議席を確保している。

 だけど親戚の、しかも年下の女の子に口説かれてなし崩し的に受け入れるというのは男の子としてのプライドに関わる。

 俺にも恋愛というものには憧れがある。恋とは自らが追いかけるものでありたい。探して見つけ出すものでありたい。大切に育て上げるものでありたい。そして破れてもなお、心から好きだと叫べるものでありたい。そんな心を強く震わせるような激しい恋をしてみたい。

 好きだと言われてOKして恋愛成就? そんなのは恋をしていない。恋をされただけだ。自分で何一つ行動すら起こしていないのだから……うん。自分でも分かってるよ。恋愛に幻想を抱きすぎてるって。実際に恋をした事も無い童貞だからそんなことを考えるのだと、全部分かってるよ。だが現実を気づかされるにしても、自分自身で体験してその事に気づきたい。ぶっちゃけると夢から覚めるまでの間くらい夢を見させてくれ! ってことだ。


「でもさ……どうして俺なの?」

 そうだ仲の良い従兄妹同士だとは思うが、ここまで真剣に童貞を狙われるほど好かれている理由が分からない。

「えっ……そんな事いわれたら照れちゃうよ」

「だって、今日会ったのだって二年ぶりだよね。その前までだって一年に一回会うくらいで……」

 俺が中学に上がった年のお盆の時期に墓参りついでに、伯父さんの家というか母の実家に遊びに行ったきりで、その当時まだ五年生だったイーシャにとっては恋愛感情とかは未だ早いと思う──

「私がね、リューちゃんの事を好きになったのは六歳の時だよ」

「ろ、六歳……?」

 その発言に衝撃を受ける。俺が六歳の頃なんて、まだ恋という概念すら理解していなかったはずだ。家族以外に対しては、好きとか嫌いとか好悪の感情しか人間関係には存在しない猿に毛の生えたような精神構造だったはず。

 つまり俺が人類に進化する前にイーシャは既に恋愛感情に目覚めていた……なんという圧倒的な敗北感。


「うん。私ってリューちゃんやダイちゃんに会うまで、他の子供から女の子扱いされたこと無かったの。ほら子供って自分と違ってる相手を排除したりするでしょ。私は見た目がこんなんだし、それに昔から背が高くて……だからリューちゃん達に可愛がってもらって凄い嬉しかったんだ」

 イーシャを可愛がったという件には心当たりがある。当時、柔道を始めてますます好戦的になった涼に手を焼いていた俺は、初めて会った従妹に行き場の無い妹愛をぶつけて力の限り可愛がったのだった。

「ダイちゃんは歳が離れてて、少し距離感があったけどリューちゃんは本当に優しくて……乙女心が舞い上がっちゃった?」

「舞い上がったのかよ」

「うん。すぐにママに『私リューちゃんと結婚する』って言っちゃったし」

「………………」

 言いたいことは沢山あったのに、何故か言葉が出ず口だけがパクパクと動く。

「ママも応援するって言ってくれたんだ」

「……………………」

 子供の戯言と流したんだ。多分……

「だからほとんど毎年、リューちゃんたちを家に呼んでたでしょう」

 全然流してない!

 確かに関東──と呼んで良いのか微妙だが──と北海道である。普通なら母の実家とはいえ毎年のように顔を合わせに行くには、余りに距離がありすぎるはずだ。実際、俺とイーシャは俺が3歳の時に一度あって以来、再会したのは5年後だった。ちなみに最初に会った時のことはイーシャどころか俺もよく憶えていない。


 背中の背骨の窪んだ溝を冷たい汗が流れて落ちる。彼女は狩人だ。己の半生を掛けて慎重に俺に狙いをつけ追い込んできた狩人だ。そしてじっと時を待ち続けていた彼女がついに動きを見せた。つまり仕留められるという絶対的な自信の元に狩りの仕上げに入ったのだ。

 オラ何だか怖くなってきたぞ。どうする俺? インターネットの匿名掲示板で相談するか? 【相談】俺、ハーフで可愛い従妹に童貞を狙われてるんだけど【助けて】……うん。一瞬で「死ね!」で埋め尽くされるな。これが他人事なら俺だって「もげろ!」と呪いの言葉を吐くだろう。


 もう少しイーシャが、その肉食獣的な部分を抑えて控えめに可愛くアプローチしてくれれば、速攻で陥れられる自信がある。むしろ俺の方からアプローチを掛けたかもしれないぐらいに可愛いし、従妹であるという部分を差し引いても好意を持っているのだから。

 それが俺にとっての幸せなのかもしれない。

 しかし、そのもう少しがままならないのが人生という奴なんだろう。


「でも今までは、そんな素振りは見せてなかっただろう。どうして今日、いきなりなんだ?」

「えっ……えっとね……」

 いきなり俯いて口ごもる。耳や首筋が真っ赤に紅潮してきて両手を胸の前でもじもじとさせている。これは完全に照れているな。

 あれだけ恥ずかしいことを平気で口にしていたイーシャが可愛らしく照れる姿に湧き上がる感情……これが萌えというヤツなのだろうか?

「二年近く会ってなかったから……久しぶりに見たら背も伸びて肩幅も広くて……か、格好良くなってて」

「格好良い?」

 この数年、女子からは怖いとしか言われたことの無い俺だ。自分の外見をそんな風に言われるとは既に夢想することさえなかったので、嬉しいよりも驚く。そしてイーシャの目は大丈夫なのかと心配にすら思う。

「うん……顔も、前よりもずっと引き締まってワイルドって感じで、ますます好みになって……」

 自分のコンプレックスが肯定され、涙が出るほど嬉しいのだが、単にイーシャの感覚が普通の日本人の女の子とは少しずれているだけなのではとも思う。

「思わず……抑えが効かなくなっちゃった」

 そこは抑えようよ、人として……本当に恋愛に関して、この子は肉食獣なんだと実感した。

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