92話 終戦

「おい、あれってエリス達だよな?」


「勝ったんだ!! ミズガルズの怪物に!!」


 バート達を連れて歩く俺達を見たアルフヘイムの兵たちが称賛の声を俺達へと飛ばす。


「俺達の仲間をブッ殺しやがって……そんな悪魔ブッ殺してしまえ!」


「そうだ! 生かしておく価値なんてねえ!!」


 中にはバート達への怨嗟の声も投げかけられる、バート達は特にその言葉を気にしている様子は無かったがやはりこういう声はかけられて気持ちのいい物では無いだろう。


 言い返してやりたいところだが、彼らがこちらの兵を大量に殺したというのは紛れもない事実だ、その事を恨むなとはそう簡単に言えたものではない。

 正直俺も彼らの立場ならああやって酷い言葉を投げかけた可能性というのは十分にある、バート達はそれだけの事をしたのだ、そして俺達が負けていた場合もこうやって声をかけられていたと考えてもおかしくはない。


「エリス! 勝ったんだな!」


「あぁ、どうにかな」


 シーグルが俺達の姿を見ると同時に駆け寄ってきた、厳格な彼だが今回のこの勝利はそんな彼を少し砕けさせたようであった。

 彼はすぐに咳払いするとバート達を見て言葉を続けた。


「お前達が件の……お前達に殺された同胞は多い、だがそれもお前達の国の為……いや、エリス達と同じくそう国から依頼されてやったんだろう、だからこそ俺はお前達を恨みはするが否定はしない」


「人権剥奪までされたらどうしようかとは思ったが話の分かる隊長さんで助かったよ、俺達はどうなるんだ? お前達について一緒に戦えとでも提案されるのか?」


「いや、その必要は無いだろう、じきに戦争は終わるはずだ、それまで捕虜として生活してもらう事にする」


「確かに俺たちは強い、だが俺達たった3人が落ちただけであの国が攻撃をやめると思うか?」


「思うな、こちら側のエリス達、そちらのバート達、この2組のパーティーは規格外の中の規格外とまで言われている事を知らないのか?」


「話には聞いたことがある……敵側からもこう言われてるって事はマジだったんだな」


 バートは空を見上げる、澄み渡る青空が広がっており空だけを見れば今戦争中であるという事がウソのように思えてくる。


「終戦までバート達の見張りは俺達がしよう、脱獄されてまだ戦争が続くなんてなったらまっぴらだ」


「頼めるならお願いしたい、正直これ以上犠牲者は出したくはないというものだ」


 こうして俺達は前線からは下がる事になった、後方の落ち着いた兵士たちは前線の気の立っている兵士とは違い、バート達には好意的で彼らが闇討ちされるというような事は無かった。


 決戦から1週間後、ミズガルズ軍の敗北と言う形で終戦の知らせが俺達の元へと伝えられた。


「ゲーム的に言えば負けちまったか、残念残念で済むんだけどな」


「人が死んでるからな、まぁ殺しまくってた俺達が言えたもんじゃないが……勝っても心の底から喜べるってわけでもないんだな」


 俺とクリフはよくゲーム談義をするようになっていた、クリフはよく対人ゲームをしていたらしく攻め方や考え方が俺とはかなり違っていて話して面白いものだ。


「ヴォオオォッ!」


「すげぇな、まるで魔物だぜ!」


「美少女の出す声じゃねえよなあ……」


 サラのデスボイスを聞いてバートははしゃいでいる、サラは本格的にメタルをやるつもりなのか唐突にデスボイスの練習をし始めたりする事が増えていた、詐欺師のスキルと組み合わせれば変な利用方法が出来そうだという考えが俺とクリフの間で出た時は笑ったものだ。


「っと、無力化状態も解除されたみたいだ」


「報酬も自動振り込みか、かなりの額が入って来たな……」


「こっからエリス達はどうすんだ? 多分しばらく次のイベントまでインターバルがあるだろ」


「そうだな……どっかダンジョンでも探して攻略するか、適当に旅するのもいいな」


「あんまりここから出たくないんだけどなぁ……美人さんいっぱいだし、ぐへへ」


「もう十分堪能しただろ、てか自分の見とけ」


「自前のってどうも興奮しないんだよね、こう、分からない?」


「分からんわ」


「まぁでも一回くらい演奏してから街を出たいじゃん? バンドメンバーはいつでも募集しているよ!」


「じゃあ俺ギターでもしようか、面白そうだし」


 クリフが笑顔で応える、生前ギターを趣味で弾いていたらしく実際聴かせてもらったが彼のギターはかなり上手いように感じられた。


「となるとキーボードがエリス、ドラムがカオリで……カリーナがベース、バートがギターってとこだね!」


「自然に混ぜられたわね……」


「楽器はサッパリだがやってみるか! 殺伐としてたんだ、パーッと行こうぜパーッと!」


 こうして両軍のエースによるバンドが結成され、盛大に冒険から脱線し始めるのであった

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