93話 音楽
「まさかマジで練習する事になるとはな……」
「ま、息を合わせる練習にもなるだろうし無駄にはならんだろうよ……んで、これどうやるんだ?」
「ギターに関しては詳しくは無いんだけどな……確かこうするんじゃなかったか?」
「お、出来た! サンキューエリス!」
平和となったアルフヘイムの草原で俺達はそれぞれ楽器の練習を行っていた、譜面はUIに表示する事が可能で、更には能力による補正も多少なりとも働いているらしく思っていたよりは楽なものではあった。
しかし、戦闘のように何となくやったら出来た、というものではなく相応に練習をすれば比較的上達が早い程度のものではある為に怠けると痛い目を見そうだ。
「難しいですね……ただ叩くだけかと思っていただけなのですが」
「選曲の問題もあると思うんだけどな、うん」
「結構形にはなってるしいいと思うけどなぁ、私は!」
ドラムのカオリは軽く汗をかいており、何度もドラムを叩いては首を傾げていた、初心者にいきなり上級者向けの曲を叩かせているのだから当たり前なのだが、何気にカオリも才能があるのか、はたまた能力補正なのか結構叩けてはいた。
「結構覚えてるもんだな、転生しても……というより前より上手く弾ける気がする」
「クリフはギターしてたのか?」
「趣味でな、つってもほぼ独学なんだが」
クリフは簡単にギターを操りピロピロと早弾きをしながら詰まる事もなく言葉を繋げる、指を滑らかに動かして音を奏でるその姿は美しくもあり、ミュージシャンとしての才能を感じさせるものがあった。
「エリスも何か弾いてみてよ! やってたんでしょ? ピアノ」
「ほんと少しだけな、それも昔の話だ」
「能力補正でむしろ昔より上手いかもしれないぞ、弾いてみろよ」
「じゃあ……」
俺はキーボードを出現させる、譜面は探してみるとすぐに見つかり、鍵盤の上に指を置いてみると何やら弾けそうな気分がしてくる。
もともとピアノに対してのスキルがあったおかげか、相応に難しい譜面だが自然と指が動く、正直生前ピアノに関してはまともに弾けると言えるほどの物では無かった為に無駄な努力だったと思っていたがこの瞬間は練習しておいてよかったと思えている。
「結構弾けるじゃねえか!」
「自分でも驚いてるさ、指がここまでちゃんと動くとは思わなんだ」
これまで俺が演奏した中でもトップクラスの出来だろう、とは言ってもプロの演奏のそれと比べればまだまだなものではあるが自分の中では納得のいくものであったのは確かだ。
「中々いい選曲センスしてるな、日本でも有名だったのか?」
「どうだろうな、日本はそこまでゲーム熱心な国じゃないと思うしなあ」
「そうなのか? 結構ゲーム大国なイメージがあったが」
「どうなんだろうなあ……他の国の事を知らないから何ともだ」
ゲームがどうかは置いておくとしてアニメなどの俗にいうオタク文化は発展しているのは確かだろう、とは言ってもそれも周辺国がかなり急速に伸びていた気がする為に日本というイメージはもう無いかもしれないが。
「もっと世界について勉強しておくべきだったな」
「分からないものはどうしようもないわ、私もこの世界に来るまでは家から出なかったし」
「結構アグレッシブに動いてたけど、ああいうのはこっちに来てからなの?」
「ええ、そもそも動けるような状態じゃなかったから」
そう言うカリーナの表情はどこか悲し気なものだった。
「悪い事聞いちゃったかな、ごめんね」
「いいのよ、話したくない過去ってわけでもないし」
「そういやエリス、この世界をゲームに例えてたが……ひょっとしてゲームをインストールしたりしたか?」
「まさかお前もそのクチなのか?」
「あぁ、暇潰しに無料だしとりあえず期待してみるかって初めてみたんだが……まさかこんな世界とは」
「神様の勝手に巻き込まれた災難だよな、ほんと」
この世界に来た人間に共通点は今の所見られない、この転生が救いになっている者もいればほぼ巻き込まれただけというような人間もいる、ただ一つ言える事はスキルによる補正で強さに酔う事は大部分のプレイヤーが感じているだろうという事だ。
「ま、今が楽しいからそれでいいんじゃないかな? 一人一柱神様がついてるわけだし」
「そうだな、まぁ……神もろとも道を踏み外した時が怖いけどな」
「今そういうプレイヤーに会ったらって事は考えたくないけどね、私たちの方が強いなら多少殴ればビビッて逃げるだろうけども」
「そこで逃がすべきか、倒してしまうべきかも悩みどころだけどな……またその時にならないと分からないんだろうけど」
「そんなことより練習しようぜ!!」
バートの声でしんみりした空気が吹き飛び、俺達は再び楽器の練習に打ち込む事となった。
ちなみにサラのボイストイレーニングは正直言ってかなり聞いていて心地よいものだった、それがデスボイスのものになるとバート以外は微妙な表情に一瞬なったのはもはやお約束となりつつあった。
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