57話 ダンジョン踏破

 俺たちは覚醒した獣の攻撃を回避しつつどうにか攻撃を当てていく。


「こっちにも地味に攻撃が飛んでくるのが鬱陶しいな!」


「楽なボスなんてそうそういないだろ!」


 モーションはあまり変わってはいないのだが、時折獣の体から炎が噴き出す為に対応しなければならないものは増えていた。


「よっと……まだ回避できるだけいいですけどね!」


 カオリは身軽にジャンプしながら斧をヒョイと回避する、残った炎は剣を振るった際の風圧で散らす事が出来るようで器用に立ち回っているようだ。

 俺は相手に攻撃を当てては距離をとるというヒットアンドアウェイの基本戦術だ、攻めてもいいのだがどうにも被弾するというのは怖いものだ。


 ペースが落ちつつも攻撃を加えていく中、獣がついに今まで見せた事のない動きを取る。


 獣が不意に上へと飛び上がったのだ、斧の炎が大きく膨れ上がったかと思うとその斧を俺たちへと向かって投擲してきた。


「なっ!?」


「こんな事すんのかコイツは!」


「ティウ! いきますよ!」


「おうよ!」


 カオリが神器解放しこちらへと向かう斧へと肉薄する。


「はぁっ!」


 カオリが手にしていた大剣がその斧を無理やり弾き飛ばす。

 弾き飛ばされた斧は見えない壁へと当たったようで空中で爆発を引き起こす。


「一気に決めますよ!」


 そのままカオリは空中を駆けながら獣へと剣を振るう、空中で攻撃されると想定していなかったのか獣は苦痛を訴えるような声で吠えつつこちらへと降りようとした。

 しかしカオリはそれを許さず、頭に剣を突き刺すようにして獣以上の速度で地面へと急降下していた。


 その剣は獣へと突き刺さり、大きな音を立てて墜落する。


「ミネルヴァ!」


「アマテラス!」


 そこに俺とサラも続いて神器解放を行う、墜落した獣が立ち上がる前にミネルヴァの槍とアマテラスの天叢雲剣、そしてティウの大剣による猛攻を受けた獣は体を起こす事無く限界を迎えたようで、首をもたげたかと思うとそのまま地面へと伏し、光となって消えていった。


「カッケェよなあ……2人の鎧姿」


「そういうサラも様になってるけどな、カッコイイというよりは美しいって感じだけど」


「私はそういうの好きですよ、っと……ありがとうございました、ティウ」


 少し先に発動させていたカオリの神器解放が解除される、間もなくして俺たちの神器解放も解除され、いつも通りの見た目となった。

 光となった獣だが、その光は消える事無くふよふよと漂っていると思うと、足場の真ん中へと集まり始めて強い光を放ち始めた。


「第二形態とか言わねえよな?」


「可能性は否定できないが……」


 その心配は杞憂に終わる事となった、集まった光は1つの宝箱へと変化したようでこれがダンジョンのボス撃破報酬といったところだろうか。

 中身を確認してみると入手できたのは炎属性のバスターソードのようだ、性能は非常にいいのだがやはりレーヴァテインには劣る品のようだ。


 サラとカオリも炎属性の武器だったようで、それぞれ拳銃と杖だったそうだ。

 ちなみにドロップ品だが俺は素材だけのドロップであり、カオリは炎の斧を、サラは防具を入手したらしい。


 依頼の方はチェックマークが入っており、どうやら後は帰れば依頼は達成のようだ。


「これ以上奥は無いみたいだな」


「ご親切に上への階段はあるみたいだぞ? 戻ろうにも道はブッ壊れちまったしな」


「そうでもないみたいですよ?」


 カオリが後ろの道を指さす。

 どうやら道が復活しているようで従来のルートでも戻る事が出来るようだ。


「ま、新しい道があるならこっちでいいだろ」


「だな」


「そうですね、何があるかもわかりませんし、ボスを倒したからと言って油断しないようにしましょう」


 こうして俺たちは再び気を引き締めて前方の階段へと足を運ぶ。


 こちらへと下りてくる階段が黒いモヤによって邪悪な雰囲気を醸し出していたのに対して、こちらの階段は上の方まで視界が通っており、上からは光が差しているのが見える。


「上までダンジョンを探索しなおすかは自由ってところだろうな」


「結構親切じゃねえか、どうする? 正直消耗もそこまでしていないしな」


 神器解放は使用直後にHPとMPが全回復するという特性がある、今回大技も使っていない為にどちらも全員満タンという状態だ。

 正直更に稼ぐためにまた戻るというのも手ではあるが、稼ぐには少し敵のレベルが心もとないというのがこのダンジョンの欠点だろう。


「戻ろう、もっと敵のレベルの高いダンジョンがあったらその時は稼ぎがてら階層の往復でもしよう」


「分かりました、ではいきましょう!」


 俺たちは上り階段を進む、この階段もしばらく進むと意識が途切れるようで気が付いた時には最初のトーチカのような場所に俺たちは立っていた。


「攻略完了だな」


「あぁ、戻ろうぜ!」


 俺たちは魔導ボードに乗って拠点へと戻る。

 ダンジョンの難易度を見極める方法さえ分かればダンジョンは稼ぎにはもってこいのようなものに思える。

 ボスの攻略をせずとも稼ぎに美味い層を行き来して狩りをすればいいのだ。


 ギルドへと戻り、報酬を受け取る。

 ギルドはダンジョンの扱いについては上へと持って行くそうでそこでの会議次第ではダンジョン探索によるアイテム収集などの依頼が出るかもしれない、との事だ。


 恐らくダンジョンはフリーランサーへの救済処置のようなものだろう、魔物の湧きが多く、素材や宝箱からの武器、防具の入手といった要素がそうなのではないかと俺は勝手に推測していた。


「エリスさん、サラさん……これ」


 依頼を達成して浮かれていた俺とサラのテーブルにカオリが新聞を広げる。


 そこに書いてあったのはミズガルズとアルフヘイムの関係の悪化という記事だった、ひたすら開拓を進めようとするミズガルズがアルフヘイムにもその開拓の手をつけたいといった内容のようだ。


「うげ……戦争……か」


「あんまりいいもんじゃないな、今のうちにアルフヘイムを出た方がいいか……?」


「どうでしょうね、ただ人間だからという理由で追い出されたり迫害されるという事は無いと思いますけどね」


 人間の中にもアルフヘイムに賛同する者は少なくない、それと同じようにエルフの中でミズガルズの考えに賛同するという者も少なきは無いようだ。

 もし戦争が起きるとすれば自然保護派と開拓派による衝突というものになるだろう。


 俺たちは新たな不安を抱きつつ宿へと戻る事にした。

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