56話 ダンジョンボス
第5階層はどうやらボス部屋のようだ、そうだと思える理由は自分のすぐ後ろに上への階段がある事、そして目の前に大きな扉があるという事だ。
少し遅れてサラとカオリもこの階層に下りてきたようで、階段付近に2人の姿が何の前触れも無く現れた。
「2人共来たみたいだな」
「ここは……明らかに何かありそうなフロアですね」
「ボス部屋ってところか? エリスはあの先を覗いたか?」
「いや、戻って来られる確証も無いからな、それに俺はそんなせっかちじゃないぞ?」
彼女らがここに来るまで1分もかかっていない、ノンストップでボス部屋らしい所へと直行するようなタイムアタックのような事は俺はしない。
大扉は金属製なのだが、近付いてみるとほんのりと温かい、分厚い扉のように思えるが温まっているという事は中はかなりの高温である事が予想できる。
「炎系の魔物だろうか」
「デカブツなんだろうな、どうせ」
「ティウ、何か心当たりありませんか?」
「火だとか炎ってだけだと多すぎて何とも言えないな、アマテラス達は?」
「私も同じですね」
「私も、まぁみんな神器解放も溜まってるみたいだし何が出ても大丈夫なんじゃないかな?」
長期の戦いで俺たちの神器解放は使用可能状態になっている、とは言っても敵がそこまで大したことも無かった為に回復の為にこれを使用する、という事も無く温存状態にある。
その為に恐らくはやろうと思えば開幕3人神器解放による速攻も出来る可能性は十分にある、順当にレベルが上がっているのであればここのボスはレベル30かその辺りだろう。
「ま、準備する事も無いし行くか」
「そうだな、カオリは準備あるか?」
「いえ、ただ暑さによる消耗だけは避けたいですね……こまめな回復は忘れないようにしましょう」
俺たちは分厚い扉へと手をかける、強く押してみると扉は開く事なく俺たちの体が扉をすり抜けるようにして奥のエリアへと入ることが出来た。
そこにいたのはレベル35の体の所々に炎を纏った炎の獣だ、獣とは言ってもまるで牛が二足歩行しているかのようなビジュアルだ、体高は角まで4mほどもあり、手には大きな斧を持っているようだ。
周囲はマグマで覆われており、足場は大きな円状のものに俺たちがいる場所から中央へ行くための細い道が用意されている。
単純な強さは俺たちよりも上なようではあるが勝てない相手では無いようだ。
獣は中央で石像のように固まっておりサラが銃撃し、俺がレーヴァテインから矢を放ってみたりしたものの効いている様子は無く、そもそもこちらに気付いていないようにも見えた。
「多分こいつはあれだな、ある程度前まで進まないと戦闘が始まらないヤツだ」
「戻ることも出来るのでしょうか」
「そいつは試せばわか」
そう言いつつ扉を押したサラがその言葉を言い終える前に姿を消す、どうやら戻る事も可能らしい。
「戻れるっていうのは親切な設計だな、ま……帰らないだろ?」
「勿論です、ここの攻略の依頼ですしね」
「どうやら戻れるみたいだな!」
サラが再び扉から姿を現す、胸を張ってドヤ顔しているがどうにも締まらない。
暑さによるステータスへの異常などは無いようだが、単純に集中をかき乱す分には十分と言えるほどの暑さだ。
足場に見た所壁などは無いようだが、ファンタジーお約束の見えない壁があるようで空中に足を出そうとしても何かにつっかえてしまうようだ。
「吹っ飛ばされたりしても多分大丈夫だろう、多分」
「大丈夫だとしても溶岩遊泳はしたくないもんだ、とりあえず行くか」
俺たちは細い足場から獣の待つ中央へと移動する。
すると獣は俺たちに向かって大きく咆哮した、サラとカオリはその音量の大きさに耳を塞いでしまうが俺はその咆哮に合わせて絶対回避を発動させる。
「やっぱりこいつも攻撃判定か、先手は貰った!!」
レーヴァテインを大太刀へと変化させて連続で切りつける、火力は剣技を発動させた方が出るのだがその場合どうしても回避の行えない硬直時間がどうしても長めに発生してしまう。
その為に俺は強敵相手には補助魔法によるバフ以外は基本的に地力勝負だ。
「はあぁっ!」
振るわれる斧を低い姿勢で回避しながらカオリも獣へと肉薄する、振りそのものは大振りではあるもののその振られる速度は非常に速い。
「クソッ……思ったより攻撃しづらいな!」
「今のエリスならあの斧くらいは弾けると思うよ!」
「マジで言ってんのか? まぁ試してみる価値はあるか!」
ミネルヴァからの助言は普通に考えたらメチャクチャだ、獣の振るう斧の重さは見た目から推察すると数百キロあってもおかしくはなさそうなものだ。
俺へとヘイトが向いた際に振るわれる斧を弾くように大太刀を振るう。
すると鈍い金属音を立ててその斧が弾かれて獣が少しだけ体勢を崩す、その隙にカオリがアイスブラストを放ち、斧を持つ腕へとサラの銃撃が加えられる。
剣技であるカウンターを仕掛けても良かったのだが、恐らく次の攻撃をくらってしまいがちだ。結局のところ剣技をあまり使わずに堅実に攻めた方が無難であると俺はほぼ確信している。
ガアアァッ!!
銃撃が鬱陶しく感じたのか獣が大きく跳躍してサラへと襲い掛かる。
「ま、狙われずに済むって事はないよなあ」
サラはこれを横へとステップしながら回避する。
「余裕余裕、このまま倒せそうだぜ!」
「そうですね!」
快調のように思えるのは確かだ、しかしこの獣は分かりやすいまでに炎を使いそうな見た目をしているが今の所単純に斧を振り回すだけのデカブツだ。
炎の見た目のミノタウロスとでも言えばいいだろうか、わざわざこんなマグマのステージまで用意して炎魔法も使わないなんてことは無いはずだ。
「油断はするな! 相手の地力が本当にこんなもんか分かったもんじゃない!」
「つっても能力看破的にもこんなもんじゃないのか?」
攻撃を加えつつ相手の様子を見る。
相手の強さは自分達よりも上なはずだ、しかし現状相手のHPが削れている実感があまり無いというだけでそれ以外は正直こちらは苦労していない。
能力看破は大雑把な強さしか把握は出来ないものの、考えたくは無いが相手がまだ本気を出していないという可能性がある。
「とは言っても十分強敵だとは思いますけどね、一撃当たれば結構くらいそうですし!」
カオリが斧を弾きつつロングソードとレーヴァテインによる二刀流で攻撃を加える。
カオリの戦闘スタイルはロングソードと剣、もしくは杖状態のレーヴァテインによる二刀流が基本となっていた。これにより手数が増え、ロングソードの効果による魔法威力のブーストと高打点を狙えるものへとなっている。
ドレインブレードを付与し、斬撃を多く当てる事でMP回収量はまさにバケモノだ、今回魔法はアイスブラストを中心として戦っているようで既に4回ほどは氷塊を獣へとぶつけている。
「そのうち覚醒でもするんじゃないか? HPが半分を切ったらとか三分の一削ったらだとか、そういうのってお約束だと思うんだよな」
「イヤなお約束だな、そいつは……ま、ヤバかったら頼むぜ、アマテラス」
「使う時は全力でサポートしますよ」
俺たちにも神器解放という手がある、そして戦闘が10分ほど経過した頃についにその訪れて欲しくは無い時がきてしまった。
ゴアアアァァッ!!
獣が大きな咆哮をすると纏っていた炎が強まり、獣の全身を覆う。獣が振るう斧にもその炎が付与され、振り回すと火球としばらくの間斧が振られた空間に炎が残るようになってしまった。
しかしこれは考えようによってはそこまで削れたという事でもある、倒せないことは無いのだ。
「相手さんは本気になったな、より気を引き締めていくぞ!」
「おう!」
「勿論です!」
獣の放った火球によって出口への細い道は砕かれてしまい、戻る事は出来なくなってしまった。
俺たちは切れた補助魔法をかけ直してそれぞれ武器を握りしめた。
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