42話 魔法の練習

 俺たちは目を擦りつつ体を起こす、昨日は結局何を教えるかで夜遅くまで話し込んでしまっていた、すぐに眠気は消え、特に疲れの残りなども感じないがあまり無理はしない方がいいだろう。


「結局のところまとまったのが流れで決めるってのは……やっぱどうかと思うな」


「でもケイトの実力が分かんねえからどうしようもないだろ、やれそうだったらトントンと進むだろうし、問題があるなら多少は難航するって言ってたのはエリスだぜ?」


「そういやそうだったな、ま……まずは街の外れで様子見だな」


 この宿は朝食のサービスはない、部屋を出てカオリ達と合流してから適当な飲食店へと足を運ぶ。

 入った店は軽い喫茶店のようで、軽い飲み物と軽食を提供しているようだ。


「俺はミルクとホットケーキで」


「私はコーヒーとエッグトーストをお願いしようかな」


「私も彼女と同じでお願いします」


「私はエリスと一緒の!」


 それぞれがオーダーを済ませてリラックスする。


「エリスはコーヒー飲まないの?」


「どうも苦手でな」


「子供舌ってやつ? いつかはこの美味しさがわかるのかな」


「永遠に子供舌だと思うぜ俺は」


 俺はコーヒーや酒の類はどうにも苦手だ、前世でも子供舌とイジられはしたが開き直る事にしている、寿司はサビ抜きが正義、異論は認める。


「まぁ味は人それぞれ好みがありますしね、いいと思いますよ?」


「ダメだとは言ってないよ、でも何だか意外だなって思ってさ」


 運ばれてきたホットケーキはそれなりに分厚さがあり、意外とヘビーそうだ。

 切り分けて頬張ってみると甘い味と香りが口の中いっぱいに広がる、シロップの甘さも相まって思わずニヤけそうになってしまう。


「ねえエリス……私にもわけて?」


「なっ……」


 詐欺師のスキルを使いながらサラが誘惑してきた、このまま粘られると色々と問題になりそうなので一口サイズに切り分ける。


「あー」


 サラは口を開けて待機していた、お前流石にそこまでイジられると拗ねるぞ俺は。


「ったく……普通にお願いできないのか」


「んふー」


 口に入れてやると美味しそうにホットケーキを味わっていた、それを見てケイトがニヤニヤしている。


「らぶらぶですね!」


「はは、そういう関係じゃないからな?」


「エリスは恥ずかしがり屋さんだからね!」


 サラは俺に気でもあるのだろうか、妙にアタックが強いような気がするがこういうのは大抵ただの悪ノリであるはずだ。


「さて、今日は実戦練習だ、準備は良いか?」


「はい!」


 朝食を済ませて街の外へと出る、ケイトの防具なのだが見た目は子供らしい服となっている。

 中身は初期の俺と同じくキメラ状態のようだが、彼女の相棒が色々と面倒を見てあげているようで悲惨な状態にはなっていないようだ。


「さて、とりあえず戦闘の基本だけど……いつもはどんな戦い方をしてるんだ?」


「えっと、精霊さんを呼んで戦ってもらってます!」


「そういや精霊魔法が使えるんだっけか、そうだな……一回コボルト相手に見せてもらえないか?」


「はい!」


 街を出てコボルトの湧く地帯へと移動する、見つけるのは難しくなく街道を歩いているとすぐに街道の外れにコボルトが歩いているのが見えた。


「火の精霊さん、力を貸してください!」


 彼女がそう言うと、どこからともなく30cmほどの小さな火の玉が現れた。

 人型かと勝手に思っていたのだが、精霊にもかなりの種類があるらしくこれはその中でも下位の存在の物のようだ。


 下位とは言っても呼び出したケイトの能力値が高いおかげか、コボルトはすぐに炎に包まれて消滅していた、どうやらケイトは呼び出す事以外は妖精任せにしているようだ。


「こんな感じです!」


「なるほどな……自分で攻撃魔法を使ったりはしないのか?」


「はい、あまり勝手がわかっていないものでして……」


「強敵と戦う事になったら精霊任せっていうのも難しいだろうし、まずはそこの練習からしようか」


「お願いします!」


 精霊を大量に召喚してゴリ押しというのも考えたのだが、どうやら精霊は1体までしか顕現させられないらしく、どうしても精霊がカバーしきれない分は自分でどうにかする必要があるそうだ。


「とりあえずコレを的にしてファイアボールを撃つ練習だ、狙い方は自由でいいぞ」


 地面にラウンドシールドを設置する、これは街で買って来たもので的にする為だけに買った為壊れても別に問題は無い。

 魔法の狙いのつけ方は人それぞれだ、サラは銃で狙うように手を大抵顔の前に持ってくるのだが、俺やカオリは腰だめで狙う事が多い、最終的に当たればいいのでその辺は何でもいいのだ。


「ファイアボール!」


 彼女は両手を前に突き出してファイアボールを放った、しかしそれは盾を大きく逸れて地面へと着弾した。


「うぅ……やっぱり当たりません……」


「何度かやり続けてみよう!」


「頑張ります!」


 彼女はそうして何度もファイアボールを放つが当たらない、サラは腕を組んでその様子をじっと眺めている。

 サラは何かに気付いたようで手をポンと叩くとケイトへと声をかけた。


「ケイト、撃つ瞬間だけど目を閉じちゃってるよ、ちゃんと見てないと当たらないよ?」


「えっ……ありがとうございます!」


 流石はサラだ、確かに撃つ瞬間に目を閉じるクセがあるようだ。

 しかしクセというのは厄介なもので中々直そうと思っても直らないものだ、どうしても撃つ瞬間に目を閉じてしまっているが、サラが言うにはかなりマシになったとの事。


「あとフォームだけど、こうした方が狙いやすいんじゃないかな?」


「こうするのもアリじゃないか? 特に決まったフォームは無いし色々試してみよう」


「なるほど……やってみますね!」


 時間をかけてフォームや視線の改善を行いつつケイトがファイアボールを放つ、まだ初日ではあるが彼女の飲み込みは早く、盾の周辺に着弾するようになっていた。


「ファイアボール!」


 そしてついに盾にファイアボールが命中した、壊れてはいないようだがかなり耐久値を削られたようで一応リペアしておく。

 稀に命中するようになり、外れてもその殆どが至近弾というくらいには精度も上がって来た。


「レベルが上がって詠唱短縮が習得出来たら連射も出来るし便利だよ!」


「これからいっぱい練習しますね!」


「それじゃあコボルトで実戦練習してみよう!」


 残りのノルマ数のコボルトを精霊魔法無しで相手する、やはり動いている相手だと当てづらいようで命中率はそう高い物ではない。


「むむ……」


「そうだ! 補助魔法のアシストを使ってみて!」


「アシスト!」


 アシストは初心者用の魔法といったもので、偏差射撃や簡単な行動の補助を行ってくれる魔法だ。

 正直なところこの魔法はある程度ゲーム慣れしていたり、実戦経験があると邪魔でしかない魔法ではあるものの、感覚を掴むと言う意味では非常に良い魔法だ。


「ファイアボール!」


 アシストの効果でどこを狙えばいいのかがわかったのかファイアボールがコボルトへと命中し一撃で葬り去っていく、極端なステータスという事もあり攻撃力は文句なしだ。


「当たった! 当たりましたよ!」


「上手いっ! この調子で頑張ろうね!」


「はい!」


 この日はコボルト狩りで一日が終わる事となった、ケイトは筋がいいように思えるためすぐに成果を出すことが出来るだろう。

 俺とサラは再び実戦訓練の為の案を夜通し練る事となった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る