41話 懐かしい味
「なぁ、ケイトだがこれから先もパーティーに入れてやるってのはダメなのか?」
「難しいと思うぞ、レベル差がありすぎるってのは自分の力不足を感じたりしやすいもんだ」
フリーランサーとして活動すれば俺たちで彼女のレベリングをする事も可能だろう、しかし少しの差ならまだしも20以上の差となれば追いついてもらうにはかなりの時間がかかってしまう、自分達の事も考えなければならないのだ。
「だから基礎を教える、つってもゲームでの……だけどな、現実的な基礎はサラ、お前がやってくれ」
「あぁ、任せろ」
俺たちはベッドに座り今後の話をしていた、サラは美少女ではあるが立ち振る舞いが完全に男である為に詐欺師でも使われない限りは割と慣れたものだ。
ベッドは丁度良い硬さで、値段の割には非常にいい宿をとる事が出来たようだ。
「しっかしこの世界、ほんとよくわかんねえよな」
「ん、というと?」
「確かに魔法の世界なんだがどこか現実っつーか、なつかしさを感じないか? 水道といい照明といい、特に食い物」
「食い物?」
「ここに来るまででチラッと見たが寿司屋があったぜ、こんな世界で寿司、何かおもしれえよな」
「マジかよ」
この世界は食についてはあまり困る事は無い、前世とそこまで大差がないのだ。
しかし寿司はヴァルディアでは見なかった、一度その寿司屋とやらに行ってみる事にしよう。
今日はこの後自由行動とするらしい、俺たちは何かケイトの訓練に良さそうな依頼も探して欲しいと言われ、寿司屋に行くついでに掲示板を見る事にした。
「らっしゃい!」
「ん……? あんたプレイヤーか?」
「おう! でもレベルは3だ、冒険するよりも寿司作ってた方が性に合う」
店主をしているのは非常に若いエルフの男性だった、店にはそれなりに人が入っており寿司は回っていない。
「回らない寿司……財布大丈夫だろうか」
「はは、安心してくれ! 寿司は回って無いが財布には優しいぜ、食ってくか?」
「あぁ、頼む」
久しぶりの日本の味を堪能するとしよう、席に着きお品書きを見てみるとカリフォルニアロールだとかレインボウロールだとか日本ではあまり見た事のないものが多いようだ。
「あなたアメリカ人?」
「よくわかったな!」
「奇遇だね、私もアメリカ人だったんだ、彼は日本人」
「日本人!? 本場の人の口に合うかは不安だが……まぁ食ってみてくれ!」
出てきたのはカリフォルニアロールだ。
「向こうの寿司は食った事が無いが……いただきます」
出されたからには食おう、若干敬遠していたというのもあるのだが、これが意外と美味い。
日本の寿司と比べると味が濃いようにも感じるがこれはこれでアリだ、普通の握り寿司も出されたのだがそちらはまさに普通の寿司だ。
「美味いな! 食ったのは初めてだがコイツはいい!」
「よっしゃ! 寿司職人のスキルは日本人にも通用するな!」
そんなスキルもあるのかよ、完全にフレーバーじゃないか。
しかしどうやらそうでもないらしい、冒険者として見るならば確かにフレーバーだが寿司職人を目指す側からすれば主人公お約束のチートスキルだ。
「ほんとなんでもアリだなこの世界は」
「冒険者として過ごすのもいいんだけどな、俺はこっちの道を進みたかったんだ」
「応援してるぜ」
アクションRPGだと思っていたら寿司職人シミュレーターでもあったというのは驚いたが、これはゲームのようであるのであって現実なのだ、どうにもその辺の意識がまだ曖昧だ。
「鍛冶職人とかもいそうだな、いずれはドロップ品よりもそいつらが作った武器の方が優秀になりそうだ」
「それはそれで一興だよね、私たちはその中でも世界一の冒険者にならなきゃね!」
「俺も応援してるぜ、折角の人生だ、色々試していこうぜ」
この寿司屋のプレイヤーは同じプレイヤーのよしみとして値段を負けてくれた。
たらふく食って2人で3000zというのは俺からすれば十分に安い物だ。
「さて……次はフリーランサー向けの依頼だな」
「あんまり簡単すぎるのも選べないしな、あのステータスなら背伸びしても大丈夫そうだと思うぜ」
「いや、まずは慣れる為にも弱いのから行こう、丁度コボルトの討伐依頼もあるしな」
この街にはあまりフリーランサーがいないのか掲示板には大量の依頼があった。
そしてその中に盗賊団の撃破というものもあった、報酬金額は50万zと高くそれなりの難易度がありそうなものだ。
「この盗賊団ってさっき会ったやつか?」
「可能性はあるな、これが卒業課題って感じでもいいかもしれないぜ」
「それはあの子の努力次第ってところだな、対人戦闘が出来るようになるかは怪しいだろうしな」
敵NPCとは言っても人は人だ、先ほどのように一定の条件を満たせば撤退させる事も出来るようだが毎回それが出来るとは限らない。
この世界で殺人をせず冒険者として生きていくというのは難しいだろう、幸いまだ1人しか出会った事は無いがプレイヤーキラーだっているのだ。
「主人公適正がもっと性格だとかへの補正が強けりゃなあ」
「それじゃあもう操り人形みたいなもんだろ、良い所も悪い所も含めて人は人だ、ガラッと変わっちまったらソイツは死んだも同然だぜ」
「そういう考え方も出来るか、その考えだと俺はもう死にぞこないだな、誰かの為に動くなんて生前じゃまず無かった」
「俺だってそうさ、こんな善人みたいな事はガラじゃなかった、でも俺たちは相変わらずソレっぽさはあるだろ? だからまだ死んではいないさ」
色々と難しい考え方をしているようだ、とりあえずコボルトの討伐依頼を受注し宿へと戻る。
「何ですか? これ」
「寿司だ、珍しいかもしれないが美味いぜ?」
「美味しいです!!」
土産に持って帰って来た寿司を不思議そうな顔で眺めるカオリと、笑顔ですぐに頬張り感想を言うケイト、カオリも一口齧ってみると黙々と食べ始めた。
「明日の戦闘練習だが、相手はコボルトだ」
「私の精霊魔法でやっつけちゃうよ!」
どうやら戦闘に関してはやる気満々のようだ、可愛いワンちゃんだとかで戦意喪失してしまうのが若干心配ではあったのだが、彼女はレベル10だ、それを考えると戦いに対して嫌悪感を抱いているというわけでは無さそうだ。
「基本的な動きからまずは教えるぞ、多分大丈夫だとは思うけどな」
「受注とか冒険者ギルドとかについてはカオリが教えるの?」
「えぇ、こちらでその辺りは教えますよ、実戦の動き方は近接をエリス、遠距離はサラにお願いしますね」
殆どカオリに丸投げしてしまっているような気もするが、下手に気を利かせるよりもこの世界に一番順応している彼女に任せるのが一番だろう。
カオリはケイトを優しく撫でつつレベルや魔物、魔法に騎士団など様々な事の話をしていた。
俺たちは部屋へと戻りベッドへと寝転びつつBGMを適当にかける。
「明日からは俺たちも先生か」
「素が出ないようにしないといけねえってのが辛いところだ」
「提案したからには責任持てよ、俺もある程度はカバーしてやるからさ」
「そいつは助かる、先に風呂借りるぜ」
「あいよ」
俺たちの仕事は明日からだ、ボランティアのようなものだが悪い気はしない。
ケイトはレベルこそ低いが上級魔法を使用できる為に魔法による戦い方は多種多様なものになるだろう、風呂に浸かりつつ明日の練習メニューを考える。
「エリス、そういや魔法ってとりあえず一番強いやヤツをぶっ放してるんだがそれでいいのか?」
「ケースバイケースだと個人的には思うな、初級魔法を弾幕みたいに展開するのも結構強かったりするしな」
サラも同じことを考えていたのかそれぞれベッドに寝転がりつつ明日の練習について話しつつ夜は更けていった。
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