39話 ヘブリッジ
俺達はギルドに挨拶を済ませて門へとやってきた、冒険者とは言っても俺たちはギルム王国民だ。
ギルドカードがパスポートとしての役割も果たすようで、国外へ行くのはそれほど難しい物では無いようだ。
「また何かここに寄る事があったら顔を見せてくれ」
「あぁ、ありがとなダークナイト」
ダークナイトが見送りに来てくれた、ビル達は依頼に出ているようでギルドに姿は無かった。
「それじゃあ行こう!」
「おうよ!」
普段着のまま魔導ボードを取り出してそれに乗る。
静止状態だと少しフラつきはするがそれでもかなり慣れた方だ、ダークナイトの見送りを背に俺たちは北西へと向かってボードを走らせる。
街道はまさに平和だ、温かい日差しが俺たちを照らし、ほのかな土の匂いと草原の緑が非常に心地よい。
「街道をこのまま進んでいくか?」
「それもアリだな、刺激を求めるなら森の中にでも突っ込んだ方がいいと思うが」
「街道でも魔物は出ますしこのまま進みましょう、何か面白そうなものがあったら寄り道もいいですけどね」
街道を歩く人は多いわけではない、俺達は時速60kmほどで街道を進む。
馬車による移動に比べると格段に移動速度が速く、その速度のおかげで妙な輩にも絡まれる事は少ない。
「俺達が絡まれなくとも誰かしらが絡まれてる所には遭遇したりしてな」
「可能性はありそうだ、盗賊は普通にいるみたいだしな」
「その時はパパッと助けるまでですよ!」
魔導ボードは便利な事にスタミナだとか燃料の概念はほぼ無いものだ。
ほぼ無い、というのは普通に走る上ではそういうものは無いのだが、あまりにも速度を出し過ぎるとスラスターがオーバーヒートしてしまい一定時間動かせなくなってしまうのだ。
「しっかしほんと平和だな」
「つっても雑魚はチラホラ見かけるけどな」
レーヴァテインを大太刀へと変化させて魔導ボードに乗ったまま見つけた雑魚を屠る、街道に現れる魔物はレベル一桁の雑魚程度だ。
雑魚とは言っても一般人からすれば脅威ではある為に平和と言うには少し違うような気もするが、俺達のような力を持った者からすればそれでも平和だと感じてしまう。
「戦闘なんて歯ごたえが無いほうが私はいいと思いますよ、歯ごたえのある戦闘ってつまり死ぬ可能性があるわけですからね」
「もっともだ、ただ冒険心ってのはそれが分かってても危ない事をしたくなるもんだぜ」
「その気持ちもわかりますよ、この力は誰かを守る為にあるのでしょうしね」
街道を走っていると何組かの商隊や移動中の馬車を追い抜いたりすれ違ったりという事もあった、カオリから聞いて知ったのだが基本的に馬車や商隊の人間は弓などで武装しており、俺達が最初に襲われた時のような事は滅多にないのだそうだ。
「しっかし考えものだよな、誰かがそういう窮地に陥らないとこの力ってのは使えないっつーのは」
「戦いの世界だからこそ存在できるって感じはあるよな」
中継地点である宿場町に泊まりつつひたすら北西へと進む、特に問題も無く進む事が出来ておりヘブリッジまで残り僅かという所まで来ていた。
「正直なところ道中にお姫様が魔物に襲われて~、とか、上級貴族が云々とか無いかと思ってたんだけどな」
「そんな上流階級の人間がピンチになるような魔物は街道に出ないだろそもそも」
「まぁそれもそうか」
ヘブリッジとの国境は大きな川だ、これを渡った先がヘブリッジとなっており、俺たちは国境に跨る大きな橋の前へとやってきた。
「ようこそヘブリッジへ、ご旅行ですか?」
「いや、エルフの国に行きたくてな」
「エルフの国へ? 観光ですか?」
「そんなとこさ」
ギルドカードを入国審査官へと渡す。
「Bランク!?」
「何か問題でも?」
「いえ……14歳でBランクというのは中々聞いたことが無いものでして、申し訳ありません」
「私たちは強いからね!」
「良い旅を、ラグナロクの影響もあると思われますが、ギムル王国に比べるとこの国は魔物の数が多いのでご注意くださいね」
入国審査はアッサリしたものでその後すぐに入国することが出来た。
橋を渡り少し進んでみるとギムル王国と同じような景色が広がっていた。
「海外旅行ってした事無いんだが……こう、もっと異文化だぜ! って感じるもんじゃないのか?」
「こんなもんだろ? 遠方ならまだしも隣の国ってなれば少なくとも景色はそうガラッと変わる事は無いだろうよ」
言われてみれば確かにそうだ、どうやら魔物のレベルは街道でもレベル15とギムル王国に比べると強いものが徘徊しているようだ。
とは言っても英雄適正にレベル31、高性能な武器を手にした俺達からすればレベル1と差は感じない、再び魔導ボードに乗って北を目指す。
「っと、何かイザコザが起きてるみたいだな」
「無問題でスイッと行けるってわけではなさそうだな」
複数人の人間の冒険者と、身長140~160cmほどの小柄な耳の尖った少女が言い争っているようだ。
人間の方はNPCらしくレベルは20、少女の方はレベルをみる事が出来なかった為恐らくはプレイヤーだろう、しかしレベルは低いのかそれほど強いとは思えなかった、NPC相手でも負けてしまう可能性がある。
「あれってもしかしてエルフか?」
「長身で巨乳なんじゃねえのか……?」
「サラさん、まさかそんな理由でエルフの国へ行こうと……?」
「いいか? 胸っていうのは夢とロマンが詰まってるんだ、野郎の夢がな……だろ! エリス!」
「悪い俺貧乳派、まぁでも夢はあると思うぜ」
「二人ともセクハラで訴えられてもおかしくありませんからね?」
ミネルヴァによるとこの世界のエルフは色々な種がいるそうだ、小さい体躯のものもいれば長身な者もいるそうで、人間やドワーフも同じように色々といるようだ。
前世でも人間に欧米人だとか東洋人だとかで骨格が違ったようなものらしい。
カオリの冷たい視線を耐えつつもボードを降りてその口論へと歩みを進める。
「どうしたんだ? 小さい女の子を寄ってたかって」
「助けてください!」
「っと……脅してたのか?」
「待て待て待て! 誤解だ! 誤解だぜ!」
「でもこの子すごく怯えてるよ? 何したの?」
どうやら道を聞きたかったらしく声をかけたのだそうだ、しかしエルフの少女はそれを否定し、聞きたかったのではなく無理やり案内させようとされたと言う。
少女は震えておりこれが演技のようには見えない、恐らくかなり強引なものだったのだろう。
「とりあえずどこに行きたいの? 私たちが教えるけど」
「あぁいや、もう大丈夫だ」
「本当に? もしかして人身売買とかしてる悪い人だったりしない?」
「なっ……ガキだからってあんまり調子乗ると痛い目を見るぜ?」
「私たちの実力も見抜けないモブが何言ってんだか……さっさと失せな」
サラが鋭い目で男どもを睨む。
その目を見た男たちは流石に何かを感じ取ったのか捨て台詞を吐きつつ森の方へと歩いて行った。
「多分賊の類だろうな、あれ」
「あの、ありがとうございます!」
エルフの少女は俺達に頭を下げた。
緑色の髪をしており、小さな顔にぱっちりとした目、妖精を見た事は無いが妖精を大きくしたらまさにこんな見た目になるだろうと思える愛嬌があった。
「君はここの国の出身?」
「えっと、アメリカ出身で……いえ、この国の出身です!」
「記憶を引き継いでるみたいだな、良かったら街まで送ろう、色々と話もしてみたいしな」
どうにも子供らしさが強い、見た目もあるが立ち振る舞いもそれらしく、俺やサラのように前世が大人だったかどうかも怪しい。
「俺はエリス、こっちはサラとカオリだ、君は?」
「私はケイトです、街までよろしくお願いします!」
ケイトと名乗った少女と共に街道を進む、アルフヘイムに着くまでの寄り道となる事を俺は薄々と感じていた。
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