第三章 ヘブリッジ
38話 出発前夜
「過ぎてみれば案外冷めるもんなんだなあ」
「ま、大仕事つっても喉元過ぎれば何とやらって言うだろ?」
「でもこれで無事にラグナロクはちゃんと終わったんですよね!」
「他の国だとか地域でミスしていなければ……な」
恐らく黒水晶の破壊のイベントは他の国でも行われているだろう、もしもそこで討伐に失敗したのであれば街は破壊され、スルトかフェンリルか、何かしら大きな魔物がその地を支配する事となるだろう。
「レベル1ですら4人で神器解放してやっとだろ? レベルの上がった大物っていうのは正直考えたくもないってもんだ」
「全くだ、レベル10のスルトとか考えたくもないぜ」
「これからどうしますか? もうしばらくこの街に留まるか、旅に出るか……ですが」
「金も貯まったし俺は出発してもいいと思う、このまま居続けたら心地よくなっていつまでも旅に出られなくなりそうだしな」
丁度イベントも終了した今が出発するにはいいタイミングだろう。
「わかりました、持って行く物の準備がありますので出発は明日でいいでしょうか?」
「あぁ、サラは何かあるか?」
「んや、まぁ食い物とか買い溜めておくくらいだな、あと寝袋」
「じゃ、今から必要な物を買いに行くか」
「了解です、一緒に行きましょう!」
俺達は街へ買い物に出る事にした、干し肉やパン、ドライフルーツなど保存食は色々なものがある。
「現地で魔物とかの肉を調達して料理するのも手か?」
「安上りですしね、でも常に可食な魔物がいるとも限りませんよ?」
「それにゲテモノにかわりないだろ、それならまだ干し肉だとかの方がいいってもんだぜ」
物にもよるがもしも虫の魔物だとかの肉が可食で手に入ったとしても食いたいとは思えない。
ガチなサバイバル勢であれば抵抗はないのかもしれないが生憎俺はニートだ、カップ麺だとかは問題ないがゲテモノへの耐性は低い。
「出来るだけスムーズに街から街へ移動したいもんだな」
「ま、途中に何があるか次第だな、場合によっては長期間野宿の可能性だって否定はできない」
まだまだ俺たちはこの世界については知らない事の方が多い、街から街へ移動する際にプレイヤーキラーに襲われる可能性もあれば、何かしらのイベントが発生する可能性だって否定できないのだ。
寝袋と大量の保存食を購入して家へと戻る。
「しっかしこの世界にきて1か月かそこらだろ? それでこの密度ってのは中々濃い世界だぜ」
「ほんとにな、何もせずに過ぎていく日々ってのが恋しい所だ」
サラと俺は椅子にもたれかかりながら干し肉をつまみ食いする、噛み応えのある食感とちょっとキツい香辛料の味が口の中に広がる、まさにビーフジャーキーのそれといったものだ。
「でも暇な日々が訪れたらきっと俺たちはこう言う、刺激が欲しいってな」
「違いない」
苦笑いしつつ俺たちは干し肉を齧り続ける、食べ過ぎだとカオリに没収された時は少し抗議しようかとも思ったが実際結構な量を食っていた事に気付く方が早く明日また買いに行く事になりそうだ。
「しっかしピュートーン……パイソンといいスルトみたいな巨人といい、大物は神話の魔物とみてよさそうだな」
「いや、プレシオサウルスもどきもいたんだ、偶然じゃないか?」
「深く考える必要はないと思いますよ? 最低限の情報は私たちの能力看破でわかりますしね」
「それもそうか」
必ずしも神話のそれとは限らないのだ、もしかしたら神話のそれで弱点であったものがそうではない可能性というのも無きにしも非ずだ。
「とりあえず……次の目的地を決めよう、正直なところイベントが起きない限りは普通に依頼をこなしにいく以外に目的は無い、だから見てみたいとかそういう観光気分で決めていいと思う」
「だったら俺はエルフの国へ行ってみたいな、他にも色々な種族がいるのなら会ってみたいもんだ」
「私もエルフの精霊魔法には興味があります、エルフの国へ向かうという形で決定ですかね?」
「あぁ、異文化交流と行こうじゃないか」
世界地図を広げる、ヴァルディアは地図で言えば中央大陸のほぼ中央に位置しており、エルフの国であるアルフヘイムは中央大陸の北西に位置している。
「魔導ボードで順調に進めたとしても二週間ほどはかかりそうですね」
「長旅になるな、それに道中何か起きると考えるならそれ以上の期間がかかる……と見てよさそうだ」
「暇しなくていいじゃねえか、しっかしアルフヘイムか、捻りのないストレートな名前だな」
ちなみにドワーフの国の名前はスヴァルトヘイムであり、人間の国と呼ばれるのはここギムル王国ではなくミズガルズだ。
現状はこの三つの国が中央大陸の中で大国と呼べる規模を誇っている。
「ギムル王国もそんなに小さい国じゃないとおもうんだけどな」
「そりゃあな、その三つに比べたら小さいが十分デカいぜ? この国も」
「ギムル王国もそれなりの規模はありますからね、さて、アルフヘイムに行く途中に小国のヘブリッジを抜ける事になります」
アルフヘイムとギムル王国の間にはヘブリッジという小さな国がある、エルフを見るという意味ではこのヘブリッジでもお目にかかる事が出来るだろう。
「さて、明日の昼あたりに早速出発するか!」
「おう!」
俺達は準備を終えて各自部屋へと戻った、明日からはついに旅に出る事となる、野宿などの経験は無いが不思議と不安はあまりなかった。
俺は布団を深く被って眠りへと落ちた。
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