転生した世界はまさにゲームのような世界だった。

36話 巨人との戦闘

「カウンターなんて仕掛けられそうもないな……！」

　試してみない事には何とも言えないのだが相手の攻撃は非常に派手で一発だけの判定なのかどうか怪しいとも思える。

　カウンターで防げるのはあくまで一発だけで、もしも連撃されればひとたまりもない。

「はあぁっ！！」

　プレイヤーは基本的に足を狙って攻撃を重ねている、しかし人によっては地面を強く蹴って跳躍し、相手の筋肉を足場にして胸などを攻撃する者もいた。

　この巨人は強い熱気を持っているものの体が燃えているというわけではなく相手に肉薄するのはそう難しいというわけではない。

　しかしただ普通に歩くだけでもそれは攻撃として立派なものであり、腕を叩きつけた際には地面から火炎が噴き出すというまさにファンタジーな攻撃を繰り出す厄介者だ。

「くらいやがれっ！！」

　俺は巨人の体を登り、思い切り首に槍を突き刺し、連撃を加える。

　弱点はどうやら水属性のようではあるが全力で攻撃しても効いている気配が無い、相手の動きに合わせて足場を移動しつつ攻撃を回避する。

　武器を引っ掛けながら走るだけでも攻撃になるというのは便利だが決定打を中々与えられない。

「炎の巨人スルトよ！ 我が剣技を受けよ！ ダークネススラッシュ！！」

　ダークナイトが剣を振るい巨人を切り裂く、渾身の一撃であろうそれも、巨人を怯ませる事は無く巨人はヴァルディアの方へと歩き続けている。

「一先ず足……ダメ元で膝の裏とかアキレス腱に攻撃を集中させてみよう！ この巨体だ、部位耐久も細かく設定されている事を祈ろうぜ！」

「「「OK！！」」」

　名も知らぬ冒険者がそう提案する、俺や他の冒険者も他に案も浮かばない為それに賛同し下へと向かう。

「おらぁっ！！」

　俺は肩から飛び降りて槍を下へと向けながら一気に下を目指す、マトモな精神であればこんな行為はしようと思わない所ではあるが幸いにも恐怖心よりも立ち向かう勇気の方が俺の中で勝っていた為にその行動に迷いは無かった。

　膝裏に槍を突き刺しながら着地しそのまま引っこ抜くように槍を無理やり振り上げて連撃へと派生させる。

　落下ダメージは無いようで体に痛みは無かった。

「無茶しやがるヤツもいたもんだな！ 落下ダメージはあったか？」

「無いみたいだ！ 検証した報酬をくれてもいいんだぜ？」

「考えてやるよ！」

「ったくもう、もう少し冷静に行動してよね！」

　ミネルヴァに叱られたが生きているから問題は無い、俺が飛び降りた後ピンピンしているのを見て大丈夫と判断した冒険者が次々と上から飛び降りてきた。

　20人総出で足へと集中攻撃を重ね、それが功を奏したのかついにその巨人が地面へと倒れた。

「ブン殴れ！！」

　全員が最大限のバフを積んでこのチャンスに一気に攻撃を仕掛ける。

「ッ……離れろ！！」

　そう叫んだのはダークナイトだ、そして次の瞬間辺りが炎に包まれる。

「なっ……！？」

「あづっ！？」

「うわああぁぁっ！？」

　肉薄して攻撃していた俺たちの体を炎が包み込む、どうにか味方の回復魔法と自前のポーションを使い耐えきったものの何人かの冒険者は行動不能にまで陥ったようだ。

「起きろ！」

　光となって消えていないという事はまだHPは残っているはずだ、俺はポーションを掴んで倒れている冒険者へと投擲する。

「悪い……！ 助かった！！」

「エリス！ 大丈夫！？」

「クソッタレ、まだまだバリバリ元気じゃねえかよ……毒も入らねえみたいだしな」

　カオリとサラが俺の元へと合流した、MPはドレインブレードのおかげで全員殆ど減ってはいないようだが、MP補給の為に全員が近接戦闘に近いスタイルで戦闘している。

　その為サラは今回銃では無く短剣であるパイソンファングで戦っているようだ。

「もう少しマシな武器は無かったのか？」

「コイツが何だかんだで一番強いんだよ、切り裂きながら魔法で攻撃ってのが今回のメインさ」

　巨人が立ち上がるのを眺めつつ状況を報告し合う、巨人は俺達を脅威として見なしたのか明らかに攻撃が激しくなっていた。

「こんな大きい魔物……倒せるのでしょうか」

「俺達はヒーローだぜ？ 倒せないわけがない」

「それに敵として出てきてるんだ、状況的にも倒せない敵なんて出てくるはずがないと俺は思うぞ」

　ラグナロク終結宣言による大幅なレベルアップなども考えるとあれはコイツを倒す為のものとしても見れなくはない、神器解放のスキルが鍵となると俺は勝手に思っている。

　神器解放だが、かなり攻撃を加えたにも関わらず、ゲージはまだ7割ほどしか溜まっていなかった。

「俺は8割くらいはいってるぜ、カオリはどうだ？」

「私はエリスさんと同じで7割程度ですね、溜まり次第発動させていいと思いますよ」

「コイツは絶対ここで倒すぞ、いいな！」

「はい！」

「おう！！」

　俺達は再びそれぞれ動きやすい位置へと散開した、連携を組んでもいいがこれだけ大きい魔物であれば各自やりたいように暴れた方がダメージも乗せやすいだろう。

　そしてしばらく攻撃を続けている時、ダークナイトが高らかに叫んだ。

「俺の漆黒の力を見るがいい！！ はあああぁぁっ！！」

　そう言うと彼の甲冑が刺々しいデザインへと変化し、手には巨大な漆黒の大剣が握られていた。

「冥界の王ハデスの力を思い知れッ！！」

　彼の相棒はハデスらしい、またまた俺でも知っている大物の男神だ。

　周りからは歓声が上がりダークナイトが空中を駆けながら巨人をひたすら切り刻む。

「ミネルヴァ、神器解放って空も飛べるのか？」

「基本的には出来るんじゃないかな、神としての権能を一時的に付与するようなものだよ」

「チートにチートを重ねていくスタイルだな」

　切り刻んだ後に漆黒の大剣を巨大化させて思い切り巨人へと叩きつけた、その大剣の大きさは巨人とほぼ同じサイズであり、その一撃を受けた巨人は地面へと倒れた。

「冥界で眠れ、炎の巨人よ！」

　ダークナイトの姿はいつも通りのものへと戻っていた、周りの冒険者は歓声をあげつつダークナイトへと近寄っていく。

「コイツ……光にならねえぞ？」

　俺や一部の冒険者はその違和感に気付き巨人を見ていたその時だ。

　巨人が立ち上がり咆哮した、その音量はビリビリと体を痺れさせ、周囲のが音を立てて揺れる程のものだ。

　そして巨人は周囲の熱を集めて一振りの剣を作り出した。

「嘘だろ……俺の神器解放でも仕留めきれないってのか……？」

　ダークナイトはそう言いつつも武器を握りしめていた。

　周囲の冒険者からも嘆くような声が上がる、しかし巨人が武器を取り出し咆哮までしたという事は確実に相手も消耗しているという事でもある。

「攻撃は無意味じゃない！ 街の為！ 俺達が生きる為にもコイツは倒さなければならない！！」

　俺は叫んでいた、自らを鼓舞する為に。

「私たちは主人公になる適性を持っている、そんな私たちが倒せないわけないでしょ！！」

　サラが俺の横に立って冒険者へ向かってエールを送る、オラついた口調では無く落ち着いた口調だ。

「少なくとも私たち3人は立ち向かいます、これ以上は厳しいという方はさがってください、私たちがどうにかしますので！」

　カオリが杖を軽く振って巨人へと攻撃を加えつつ前へと駆け出す、それを見た冒険者がカオリに続くように一斉に巨人へと向かう。

「主人公は俺だ！！」

「こんなボスくらいブッ倒してやる！！」

　全員の動きのキレはまだまだ衰えていない、流石は全員主人公の適性を持っているだけはある。

「カッコつけキャラは俺だけだと思ってたんだけどな」

「こんな世界だ、カッコつけたくなるのはお前以外にだってゴロゴロいるはずだぜ？」

「それもそうか……っと、素で話をしちまった、これは黙っててくれるか？」

「おうよ、期待してるぜ卍暗黒の騎士卍」

「素直に記号から読むんじゃねえ、恥ずかしいだろうが！」

　ダークナイトと共に巨人へと向かう、まだこの戦いは続きそうだ。