34話 雑務
「ダークナイト? あぁ……あの変わった方ですか」
「知ってたのか?」
「はい、私用でギルドに行く事もあったのですがその際に声をかけられまして」
「なるほどな、実力は確かみたいだから頼りには……なると思う」
俺たちはダークナイトの情報を頼りにギルドへと向かっていた、家で待機していてもイベントが発生するならば何かしらの形で知る事が出来ただろうが、そこまでだらけるのも気が引けてしまう。
「そういやサラ、複数パーティー参加って言われてたけどどうすんだ? 素を出すのか?」
「あー、まぁ状況次第だな、何か起きれば素が出るとは思うぜ」
「サラさん素は結構キツいですもんね、私も正直驚きましたよ……でも元強盗だとかっていうのは今では信じられますよ」
「はは、まぁそういうノウハウも全く活かせない事が無いっていうのが……良い事なんだろうか」
「ま、こんな世界だからな、倫理観だとかも案外違うと思うし問題ないだろ」
この世界でも死は重い、しかし大抵の場合は葬式などは行われず前世に比べるとどこか軽いように感じてしまう所もあるにはある。
「とりあえず行こうぜ、正義の味方ってのも悪いもんじゃねえ」
「あぁ、サラの活躍に期待だ」
「何か起きるみたいな言い方ですね……ま、行きましょう!」
ギルドに着くと受付がこちらに手招きをしてきた、どうやら何か用事があるらしい。
「黒水晶の処理のパーティーを募集しているのですが、ダルコさんがエリスさん達に受注を希望されています、どうされますか?」
どうやらダークナイトの言っていた事は真実のようだ、ダークナイトの姿はギルドには無い。
「受けるよ、そのつもりでここに来たしな」
「ありがとうございます、出発は明後日の朝です、それまでに準備の方をよろしくお願いします」
いきなり出発というわけではないようだ、出発までCランクの一部の冒険者とBランク以上の冒険者に同行依頼として貼り出すらしい、募集人数は20人とかなり多い。
「まるでレイドだな」
「レイドですか?」
ゲームで大型モンスター等を通常以上の人数で討伐するようなモードの事を指す事が多かったはずだ。
正直なところあまり用語に自信はない為に割と適当に言っている節もあるにはある、しかしこの徹底ぶりはまさにラスボスか何かを彷彿とさせると感じたのは俺だけだろうか。
「とりあえず確実に明日まではする事が無いな、適当な依頼でも受けるか?」
「私はフリーに狩りでもいいと思うな、お金にはそんなに困ってもいないし」
「街の掲示板を確認してみるのもいいかもしれませんね」
「掲示板をとりあえず見てみるか」
冒険者だからと言ってフリーランサー向けの仕事が受けられないわけではない、ただ正直なところフリーランサー向けの仕事というのは美味くないのだ。
その為に金を稼ぐという意味では冒険者はフリーランサーの仕事を受ける事は殆どない。
俺たちはギルドを出てヴァルディアの掲示板を確認する、大きな街という事もあって依頼の数は多いのだが、どれも低レベル向けの仕事だ。
「報酬は大したことないなぁ」
「たまにはこういうのも悪くは無いと思いますよ? 世界一を目指すのであれば人からの信頼も大事だと思いますし」
「ま、それもそうだな、手分けしてやっていくか」
サラはあまり気が乗らないようだが何件かの仕事を受ける事にしたようだ。
俺も人がやりたがらないような仕事をピックアップして受けていく、ドブ掃除や店で何か買ってくる等プレイヤーがやるような仕事では無さそうだがだからと言ってNPCもやりたがるかと言われればそれはほぼ無いだろう。
「各自気が済んだらカオリの家に戻るって形でいいかな?」
「俺はそれでいいぞ」
「では頑張りましょう!」
俺たちはそれぞれ受けた仕事をこなす為に街へ散った。
「ん?」
慈善活動をしている際に見知った姿が目に入った。
どうやらダークナイトもこういった活動をしているようで近隣の住民と楽しそうに会話をしているようだった。
「めっちゃいいヤツじゃないか」
どうせなら☆聖騎士☆とかにしてホーリーナイトとでも名乗ったほうが良かったんじゃないだろうか。
「さて、仕事仕事」
BGMの魔法を使いイヤホンで音楽を聴くようにしつつドブを掃除する、鼻が曲がりそうにもなるがそこは英雄らしく気合で耐える。
ドブ掃除というのは思いのほか面白い物で色々なアイテムが埋まっていたりする、ただここで俺の物にして盗賊スキルでもつくと厄介そうなので近くの衛兵の詰め所にでもまとめて持って行く予定だ。
「今回は何聴いてるの?」
「あぁ、ハードコア系の曲さ、ほら」
「へぇ、独特な音だね」
「多分それはシンセだな、この世界はどっちかと言うとクラシックっぽい音楽の方が多いみたいだけど軽音楽は無いのか?」
「んー、あるにはあったはずだよ、ただ一般的じゃなかったはずだよ」
BGMを垂れ流しにしてこの世界の音楽を聴いていた事もあったが、全体的にクラシック調のものが多く、中でも三重奏や四重奏の音楽が多いように感じた。
音楽知識に詳しい友人のおかげで少しだけ分かるようにはなったが彼は今どうしているのやら。
「案外未練みたいなのってあるもんだな」
「完全にスッパリ割り切れる人って殆どいないと思うしね」
「ま、前の世界よりこっちの方が俺は好きだけどな」
前であればこんなドブ掃除なんて適当に済ませて終わりだっただろう、今ではキチンとしようと思えるくらいにはマトモになる事ができたと考えれば大きく成長できたと自分を褒めてもいいだろう。
「あら、こんなに綺麗にしてもらって……ありがとうねぇ」
「なんだか楽しくなってな、こんなもんで大丈夫か?」
「えぇ、フリーランサーの方のおかげで街も平和で暮らしやすくしてもらって助かるよ」
「俺は冒険者さ、フリーランサー程街に尽くしてはいないさ」
「冒険者だって外でしっかり魔物を倒してくれるから街が平和なんだよ、そんな冒険者さんに中の面倒まで見てもらえるなんて幸せだねえ……ダークナイトさんだけかと思っていたよ」
ドブ掃除の依頼を出していたおばあちゃんとベンチに腰を掛けて会話をする。
ダークナイトは定期的に貼り出されて長い依頼を受けては街の為に尽くしているようだ、まさにこの街での主人公といったところだろう。
フリーランサーは主に街の中の仕事を、冒険者は外での仕事をといった認識が一般的なようだ。
「彼は頼りになるいい冒険者だ、彼の事をこれからもよろしくしてやってほしい」
「あなたの名前は何だい?」
「そういえば教えて無かったか、エリスだ」
「エリスね、いい名前だねぇ」
「はは、ありがとな……それじゃそろそろ行くよ」
「またね、エリスちゃん」
おばあちゃんから報酬を受け取りその場を去る、ドブから出てきた物をしっかりと衛兵に託してカオリの家へと戻った。
今日だけで7件ほどの雑務をこなす事が出来たが、報酬は1000zもいったかどうかというところだ。
「ま、たまにはこういうのも悪くないな」
街の人はいい人ばかりだ、変に横柄な人というのは少なくとも今日は出会わなかった。
これからも余裕がある時はフリーランサー向けの不人気な依頼も受けてみようとそう思えたのが今日の収穫だろう。
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