33話 休日

 ラグナロクの終結が宣言されて数日、終結したものの俺たちはあまり街から遠くへは行くなとギルドから引き止められていた。

 どうにも集まった黒水晶の処理の為に助力して欲しいとの事だ。


「表向きは終結したもののまだ本当は終わっちゃいないってところだな」


「これで何かイヤな事が起きたらエリスの読み通りって事になりそうだな」


「不吉な事言わないでくださいよ、きっと大丈夫だと私は信じていますよ」


 俺達はカオリの家で武器や防具の点検をしつつ今後何が起きるかの予想をしていた。

 ちなみに俺の防具の中身は前進高品質の金属鎧へと変わっていた、魔物のユニーク防具も良かったのだが金で買ったこの防具の方が性能が良かったのだ、見た目は相変わらず皮鎧にしている為見た目に変化は無いのだが。


「しっかし北欧神話で俺が知ってるのってオーディンとかトールだとかその辺りだな」


「俺の事は知らなかったのか?」


「悪いけどティウだとかテュールなんて聞いた記憶もないな、フェンリルとかヨルムンガンドなら知ってるんだけどな」


「日本じゃマイナーだったんだなぁ……ま、仕方ねえか」


 俺もゲームでよく出てくるから知っているといった程度だ。


「フェンリルにヨルムンガンドか……どれもラグナロクで結構暴れてたよな、スルトも印象深いがエリスの言うボスってのにそいつらも出てきたりするかもな」


 サラが軽く笑いつつ背伸びをする、現状わかっているラグナロクでの被害、規模なのだが、どうやら世界全体で起こっていた事のようで各国が対応に追われたそうだ。


「なぁミネルヴァ、この世界にユグドラシルはあるのか?」


「んー、あったと思うよ?」


 サラの問いに対してミネルヴァが答える。

 ユグドラシルは北欧神話の中心とも言ってもいい大樹で、世界樹とも呼ばれていたはずだ。


「ありますね、ただ世界を司っているだとかそういうものではなくあくまで巨大な木……だったはずですが」


 アマテラスが付け加える、北欧神話の神だけではなく日本神話やギリシャ神話の神がいたりする為にその辺りはどの神話も同じような力なのだとかなんだとか。


「いずれは行ってみたいところだな、旅に興味が出てきたぞ」


「俺はついていくぜ、お前についていくって出会った時から決めてるからな!」


「私もご一緒してもよろしいですか?」


「仲間だろ? いいに決まってるじゃないか!」


 世界一になる為には世界を知る必要もあるだろう、腰を据えていてはそこの地域では一番になれるかもしれないが世界には到底届かない、ゲーム的に考えれば世界一の冒険者になるというのはかなり高難易度な実績であるはずだ、となればどちらにせよ一か所で燻っていてはいけないだろう。


「とは言っても現状がコレじゃあな」


「従う必要も無いと思うがな、いっその事それこそ他の冒険者に任せちゃダメなのか?」


「何も起こらないとは思わないっていう俺個人の勘さ、それに人助けも英雄としての仕事だろ?」


 何となくだがこの仕事は受けた方がいいと強く思っている、これが英雄適正によるものなのかゲーマーとしてのものなのかはわからないが、2人もそう思っているらしく恐らくは英雄適正による直感なのだろうかと思う。


「とりあえず今日はこのまま休みにするか、各自自由行動って事で」


「つってもする事無いんだよな」


「私は読書でもしましょうかね……そういえば近くに美味しい料理屋さんが出来たらしいですよ、行ってみてはどうでしょうか」


「カオリは行かないのか?」


「あんまりお腹がすいていませんしね、何かあったら部屋にいますので呼んでください」


 そう言うとカオリは自室へと入っていった、残された俺とサラは顔を見合わせて料理屋へ行く事にした。


「エリス、行こっ!」


「お、おう」


 サラは新スキル詐欺師という英雄適正とは真逆にありそうなスキルを獲得している、そのスキルのせいもあってか彼女の猫かぶりが俺ですら気を抜いているとコロッと落とされそうになってしまう。


「エリス、私の美貌にクラッときちゃった? エリス相手なら付き合ってあげてもいい……よ?」


「どつき倒すぞほんと」


「いやん積極的!」


 少し前かがみになりながら上目遣いで俺を見つめるサラ、ダメだこいつは俺の心にクリティカル発生だ。

 

「ほんと、普通の女の子だったらな……」


「何か言った?」


「いや、何も?」


 ベタな手法ではあるがそういうものは結構効くのだ、野郎の中身の女の子というのはそういう所を突いてくる辺り非常にタチが悪い、ふと気付くとナチュラルに手を繋がれていた。

 顔が熱くなるのを感じながらもとりあえず握り返す。


「折角の休みだ、美少女であるこのサラ様がしっかりエスコートしてやるよ」


「エスコートするのは男の役目じゃないのか?」


「おっと、これは俺も女として認めてもらえたって事か? 嬉しい限りだぜ」


「冗談キツイぜ全く」


「ま、私はエリス相手なら一生ついていってあげてもいいよ、運命ってやつだと思うしね!」


 詐欺師のスキルを発動させていないのか最後の発言には惚れそうになるという事はなかった。

 彼女の詐欺師のスキルは色んな意味で凶悪なようでやろうと思えば何でもないアイテムを価値あるように錯覚させたりという本当の詐欺のような事も可能なのだそうだ。


「んん、確かにこの店は美味しいね!」


「あぁ、だな」


 お互いの料理を勝手につまみ合う、詐欺師を発動していないサラであれば普段通りに接する事は可能なようだ、チェリーとは言ってもその辺は英雄らしく堂々と振舞える俺は褒められてもいいはずだ。


「なんていうかエリスって結構真面目だよね」


「そうですね、私としてはくっついてもらいたいんですが」


 アマテラスは恋愛系の神だったっけか? そんなはずはないはずなのだが。

 俺たちは何だかんだで傍から見ればデートと言って差し支えない程度には距離感も近い、ギルドでもサラはエリスの許嫁だとかよくわからない噂が流れているのを耳にした事も実はある。

 何の気なしにギルドへと立ち寄ってみると黒水晶収集の成績が貼り出されていた。


「お、こういうランキングみたいなのもあるんだな」


「みたいだな、つっても報酬とかは無いみたいだ」


 俺たちは上位20位入りをする事が出来たようだ、そしてどうしてもスルーしようにも気になる名前が7位にあった。


「ねぇエリス、7位の……」


「あぁ、何ていうか俺とすごく近い存在なのかもしれないな」


 そいつの名前は【卍暗黒の騎士卍】だ。


 彼はこの名前で良かったのだろうか、というか何て読むんだこの名前は、普通に【あんこくのきし】なのだろうか?


「あの人だよね」


「あぁ、レベルは分からないが強いってのが……何かこう、な」


 黒い甲冑を装備した剣士が壁にもたれかかりつつ腕を組んでいた、プレイヤーのようではあるのだが立ち振る舞いはまさにNPCと言っていい、というか俺がNPCと呼んでいるこの世界の人以上にNPCらしい。

 俺たちの視線に気が付いたのかその剣士がこちらへと歩み寄って来た。


「どうした? もしかして新米のプレイヤーか? だとしたらこのダークナイト様が色々と教えてやろう!!」


 どうやら卍暗黒の騎士卍と書いてダークナイトと読むそうだ、思ったよりも素直な読み方で助かった。

 プレイヤーと言う辺りレベル看破は持っているようだ。


「いや、俺たちはもうこのギルドに所属しているから大丈夫だ。」


「ん……もしかしてエリスとサラか?」


「あぁ、会えて光栄だよダークナイト」


「よくぞこの世界の危機の糸口を掴んでくれた! お前たちのおかげで悪は成敗された!」


 清々しいまでのキャラだ、年齢は同じはずなのだが兜で顔が隠れており声もそれなりに太い為に年上のような印象を受ける。


「明日辺りギルドから黒水晶処理の依頼が出されるらしい、複数パーティー参加の大掛かりなものになるようだ……もしよければ君たちにも受けてもらいたい」


 声を潜めつつ情報を流してくれたようだ、ネタ的な存在かと思ったがどうやら完全にそうだというわけではないようだ。


「明日? わかるのか?」


「あぁ、こう見えても俺はB級の冒険者だ、ギルドマスターから話を聞いていてね……それではまた会おう!」


 そう言うとダークナイトは元の位置へと戻っていった、本当にNPCみたいなやつだ。


「キャラの濃いやつだったな……」


「素が出てるぞサラ」


「おっと……濃厚な人だったね、にしても明日かぁ」


 濃厚な人ってあんまり聞いたことないぞその単語、明日カオリも連れてギルドに顔を出す事にしよう。


「とりあえず今日は休みだしさ、もうちょっと遊んで行こ?」


「仕方ないなサラは」


 俺たちは休日を満喫しつつも、次に起こり得るイベントを想像しつつ気持ちを引き締めさせられる事となった。

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