31話 ガルム

「不気味なくらい何もねえな」


「そうですね……生き物の気配が全くありません」


 洞窟は広く、そして深いようで警戒品がら数分程は歩いていた。

 この洞窟も光る鉱石が洞窟を照らしており光源には困らない、まるでトンネルのように感じる。


「なんだかイヤな感じだね、アマテラスはどう?」


「まるで冥界のようですね……いい気分とは言えません」


「冥界か、やっぱ運命的なものってのはあるんだろうかな」


 ティウがヤケになったような口調で言葉を紡ぐ。


「冥界だとしたらガルムに気を付けるといい、コレで本当に出られちゃたまったもんじゃないけどな」


「そればっかりは神に祈るしかないさ、仮に出たとしても俺たちが守ってやるよ」


「頼もしい限りだ」


 サラらしいジョークだ、奥へと進んでいくと何かがこちらへと近付いてくる足音が洞窟の奥から聞こえてきた。

 その足音は軽い、まるで犬がこちらへと走ってきているような音だ。


 ヴォヴッ!!


 その足音の主は俺たちに噛みつくべく大きな口を開けて跳躍する。

 それに対応し素早くカオリと俺はカウンターを発動させてその相手の先制攻撃を無効化し、反撃する。


 ダメージにすればこれだけでも大きなものだったはずだ、しかしその相手は痛がる素振りも見せずに俺たちに深く唸っていた。


 それの大きさは体高2mかそれ以下ほどの狼犬で決して大型の魔物ではない、胸には乾いた黒い血が付着しており目は炎のようにオレンジ色に光っているように見えた。

 感じるのは明確な敵意だ、弱点は無くレベルは30、恐らくレベル1でも優秀なステータスを持っていそうな雰囲気がレベル看破を持った俺たちには更なる恐怖を植え付ける。

 どうやらこいつは水晶を所持しているわけではないようで奥から強い水晶特有の気配を感じる。


「藪をつついたらヘビどころかドラゴンが出てきた気分だな、サラ、カオリ、大丈夫か?」


「あぁ、大丈夫だ、ただコイツが強いって事はわかる」


「やるしかありませんね、全力でいきますよ!」


「ガルムだ……気を抜くなよ? コイツは強いぞ!」


 ティウのその言葉を胸に俺とカオリは自身に攻撃補助の魔法をかけて間合いを詰める。

 

 ガルムが軽く吠えると、ガルムの周囲から黒炎が放たれる、どうやら魔法を使えるようだ。

 

「させるかよ!! パワーバレル!」


 パワーバレル、インテンシファイの銃バージョンだ。

 放たれた弾丸がガルムの黒炎を相殺し俺たちへの攻撃の密度を減少させる。


「はあぁっ!!」


「くらいなさい!!」


 俺が槍を振るい残った黒炎を打ち消しつつカオリが杖を振るう。

 ガルムはその一撃で軽く吹っ飛ぶもののすぐに起き上がりこちらへと攻撃を仕掛けてきていた。


「コイツは骨が折れるってもんだな!」


「でも叩き続ければいつかは勝てます!」


 飛び掛かるガルムを横に避けつつ槍で突き刺す、突き刺した刃をそのまま上へと振り上げてガルムへと追加のダメージを与える。


 ガルムは小型の魔物であるが為にリーチの差を活かしやすい、しかしガルムは魔法を使いつつ俺たちへと攻撃を続けてくる。


 ガアアァッ!!


「クソッ……!!」


 稀にだが捌ききれずに牙を受けてしまう。

 ガルムはまさに攻撃力が高いタイプなのだろう、魔法攻撃力はそこまで大きなものではないが物理攻撃力はハードシェルを使用した俺のHPを一気に三分の一ほど削る程の威力だ。

 ハードシェルを使用していなかった初撃を受けた俺は半分とまではいかないがそれ近くのHPを削られ肝が冷えたというものだ。


「ハイヒール!」


 攻撃をもしも連続でもらえばすぐにゲームオーバーだ、それにこの中で一番HPが高いのは俺だ、それが意味するものはもしもカオリやサラがまともにこれを受ければ俺以上にHPを削られてしまうという事だ。


「エリス! もっと体術も使っていいと思うよ!」


「大丈夫なのか? あの攻撃力だぞ!?」


「しっかり見切れば大丈夫だよ!」


 ミネルヴァから指示が飛ぶ、確かに間合いが近すぎて攻撃が出来ないという場面は実際に何度も発生している、しかしもしも体術を使えるとなればその場面でも攻撃が可能という事になる。


「このっ!!」


 ガルムの噛みつきを体を捻って回避する、そしてすれ違いざまに思い切り肘をガルムの背骨を砕く勢いで真下へと振り下ろす。


 ギャンッ!!


 悲鳴のような声を出しつつ地面にガルムが叩き落とされる、そしてそのまま思い切りガルムへと蹴りを放つ。


「中々アグレッシブな攻撃だなエリス!!」


 体が小さい分吹っ飛ばすのはそう難しくないようでガルムは地面を転がる、そこへサラの追撃の弾丸が命中しさらにガルムのHPを確実に削っていく。


「普通のワンちゃんにはしないでくださいね?」


「するわけねえだろ!」


 冗談を言い合うだけの余裕は戻ってきていた、それぞれの動きも対ガルム用の連携と言っていいほどに役割分担をする事が可能となっていた。


「インテンシファイ! プロテクション! ハードシェル!」


「エリスさん、サラさん、試したい事があるんですがいいですか?」


「ん? 何だ? 試したい事って」


「そうですね……失敗してしまったら回復魔法をかけてください、成功すれば大ダメージを与えられるはずなので試したいんです」


「ハイリスクハイリターンってか、いいぜ、お前を信じるよ」


「仕方ないな、ワンパンされるんじゃないぞ?」


 着実にHPを削っている俺達ではあったがガルムは弱る気配を見せない、カオリには何か考えがあるらしく俺達に提案を持ち掛けてきた。

 どういうものか聞きたいところではあるがその余裕は流石にない、実際に見せてもらうとしよう。


 ガルムがカオリへと跳びかかろうと姿勢を低くしつつ黒炎を放つ、サラが黒炎を撃ち落とすも何発かがカオリへとヒットする。


「ヒール!」


 カオリは動く気配を見せない、削られたHPをヒールで回復させつつカオリを見守る。


 ガァァッ!!


「ヘビーインパクト!!」


 飛び掛かるガルムをまるで野球のスイングのように力強く振るわれた杖が捉え、そのまま一気に振り抜かれる。

 相手の勢いも合わさった上での大威力の技だ、カウンターを命中させるよりも打点は大きいはずだ。


 杖はガルムを貫通する事なくそのままガルムを洞窟の奥へと吹き飛ばした、ここで不思議現象であるダメージは入るが何ともないが発動していればカオリもガルムの攻撃をくらっていただろう。


「メチャクチャな事するなお前は」


「その辺の野郎よりも肝っ玉据わってんな、俺は好きだぜ? そういうの」


「自信はあまり無かったんですけどね、詰めますよ!」


 ガルムが吹き飛ばされた方へと向かう、あの一撃で弱っていて欲しい所だが正直まだピンピンしているようなそんな気がしてならなかった。


 奥へと進むと意外にもダメージを受けたせいか若干フラつきながら立ち上がるガルムの姿があった、しかし起き上がって少しするとすぐにまた元気になったようにこちらへと襲い掛かって来た。


「クソッ……どうしたらいいんだよ! アレでもまだ元気だってのかこのクソ犬は!」


「自信はあったんですが……」


「待てよ……?」


 こういう敵が死なないというバトルはRPGでは比較的よく見る方だ、大抵の場合負けイベントかギミックを使って倒したり弱体化させるというのが基本のはずだ。

 そしてギミックと呼べそうなものに心当たりがひとつだけだがある、黒水晶だ。


「先に水晶を壊すぞ! それで無理そうなら撤退だ!」


「仕方ねえな! ま、死んだらスーパーヒーローも何もねえしな!」


「わかりました!」


 あくまで黒水晶さえ破壊して欠片を回収できればいいのだ、最悪ガルムはもっと高レベルの冒険者に任せるのも手のひとつだ。


 ガルムの攻撃を躱しつつ俺達は嫌な感覚の方へと向かう、カオリは杖による殴打の印象が残りやすいが魔法の腕も確かだ、アクアアローという水で作り出した魔法の矢で黒炎を撃ち落としつつガルムへも攻撃を加えている。


「MP使いすぎるなよ?」


「大丈夫です、余裕は残すようにしていますから!」


「あったぜ! 黒水晶!!」


 言うと同時にサラは銃をぶっ放していた、見てみるとその水晶はかなり大きい物で直径は1mほどあるだろうか。


「コイツは壊すのに骨が折れそうだな……!」


「なっ……それどころではありません! ガルムが……!」


 ガルムの方へと目をやると31レベルと表記が変わっていた、レベルアップしたようだ。

 これが意味するものはガルムのHP、MPの全回復だ。


「とりあえずここまで来たんだ、こいつを壊すぞ!」


「は、はい!!」


「全力でぶっ壊せ! エクスプローシブバレット!!」


「パワースマッシュ!!」


「はああぁっ!!」


 俺たちはそれぞれの出せる力を一気に叩き込む、カオリがヘビーインパクトを使用しなかったのはその技の出の遅さを考慮しての物だろう。

 意外にも苦戦するかと思った水晶だが、意外にもアッサリと粉々に砕け散った。


 ガアアァァァッ!!


 それと同時にガルムの怒りにも似たような吠え声が洞窟内部に響き渡った。

 そして勢いよくこちらに飛び掛かるとほぼ同時にガルムの姿はまるで空気にかき消されるかのようにして消滅した。

 経験値は取得出来ていないようでどうやら逃がしたと見ていいようだった。

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