27話 湖の底

「金もかなり貯まった事だし全員魔導ボードを買わないか?」


「いきなりだな、でも悪い案じゃねえな」


「一応理由を聞いてもいいですか?」


 黒水晶探しの前に俺はカオリの家で魔導ボードの購入を提案していた。


「魔導ボードがあればより広い範囲を探索できる、移動が速くなるおかげで狩りのペースも上げられるだろうしな」


「確かにな、ただ魔導ボードは高いぜ?」


 安いものでも30万zはする、高いものとなれば数千万zといったものも存在するそうだ。


「とりあえず50万zくらいのヤツを買おうかと思ってる、全員かなりデカい出費になるから無理に賛成する必要は無い」


「俺はいいぜ、金は使わねえと経済は回らねえしな」


「私も構いませんよ」


 俺たちの今の所持金はそれぞれでも100万z近く持っている、ラグナロクが始まってからというもの所持金のインフレが恐ろしい事になっていた。


「ありがとう! さて魔導ボードを買った前提で今日の行動を考えてみたんだが」


 黒水晶のハッキリとした位置の掴み方はまだ把握できていない、しかし心当たりのある場所というのは存在する


「俺たちがギーヴルと戦ったあの湖の中、多分あそこに1つある」


「湖の中? どうしてそう思うんだ」


「思い出してみて欲しい、あの時魔物が出てきたのは森と」


「湖の中ですね! ……あ、ごめんなさい」


 俺の言葉を遮ってカオリが答えていた、これがサラであったら考えていたがカオリは普通の女の子、しかもこれまた美少女だ、笑顔で許そう。


「キメェぞお前」


「はー、うるせえ!」


 ゴミを見るかのような目でサラに見られた、イケメンスマイルがキモいわけがない。


「欠点としては最悪水中で戦う必要があるって事だ、それと……」


 依頼リストを確認する、見てみるとギーヴルの討伐依頼が達成欄から消えていた。


「ギーヴルが復活してるって事だな」




 俺たちは魔導ボードを購入し、ギーヴル討伐の依頼を受けて湖へと向かった。

 ギーヴルはまだ湧いてから時間が経っていないからかこの前と殆ど同じ強さで、大して消耗する事も無く数分で屠ることが出来た。

 サラがギーヴルの宝石を入手したようで少しだけ盛り上がっていた。


「ギーヴルの宝石か、高値で売れそうだぜ!」


「装備にも転用できねえかな、魔力を注いでビームって感じで」


「2人とも嬉しいのはわかりますが本命はこちらなのでは?」


 カオリが杖で魔物を殴り飛ばしていた、この辺りの魔物は大してレベルが高くは無い、雑魚に至ってはレベル8や9が殆どで2桁の数字がほとんど見られない。


「ミネルヴァ、水中って息とか大丈夫なのか?」


「ん、基本的には問題ないよ? 声も出せるしね」


「そいつぁいいな、苦しい中色々するってわけじゃないってのは楽だ」


「しかし動き方に関しては独特のものになります、プレイヤーのスキルで大抵の事は可能ですが陸とは完全に別と思ってくださいね」


「それじゃ、行ってみるか!」


 俺たちは湖へと飛び込んだ、どういう原理なのかはわからないが水中で息をしても水が入ってくるという事は無かった、動き方は基本は前世での潜水と同じようだ。

 回避行動は少し鈍るものの不可能では無いらしい、絶対回避は水中では狙わない方が良さそうだ。


「コイツは酷いな……」


「水だけは綺麗だな、中は酷いが」


「水の中では魔法があまり使えないみたいですね……これは厄介です」


 カオリは魔法を行使しようとしたそうだが上手く発動できなかったそうだ。

 湖の中は魔物が大量に泳ぎ回っており、魔物同士で殺し合いが行われているようだった。

 勝った魔物がまた別の魔物と戦いレベリングされていく、その様子は見ていて気分のいい物では無かった。


「見た所ディープワンに殺人魚、ラブカに河童……ってところかな?」


「名前に統一性が無さすぎる……」


「仕方ないでしょ、文句は私じゃない別の人に言って欲しいよ」


 ミネルヴァが目に入った魔物の中で分かるものを口にしていく、西洋からリアル、妖怪まで色々とゴチャ混ぜになっているようで情報量のパラダイスだ。


「ま、とりあえず奥に進むしかないんだろ? 撃破しつつ進もうぜ相棒」


「言われなくてもそうするつもりさ、カオリ、準備は良いか?」


「いつでもいいですよ、ひとまずは底を目指しましょう」


 俺たちは深い所へと潜っていく、水中の魔物は深く潜るほどレベルが高くなっているようで徐々に雑魚の処理も厳しい物となってくる。


「クソッ……数が多いな」


 サラは銃を撃ちつつパイソンファングを振り、どうにか敵を処理していた。


「殆ど魔法が使えないってのは痛手だな!」


「ペース配分に気を付けないとやられてしまいそうですね……!」


 幸いにも不思議な事に深い所まで来ても周囲はぼんやりと明るく視界にはそう困らなかった。

 しかし視界良好かと言われればそうでもなく、周囲20mほど見えるかどうかといったところだ。


 俺たちは武器を振りつつゆっくりとだが確実に底の方へと潜っていく、途中どうしてもダメージを貰ってしまうが補助魔法と回復魔法は使用できる為に消耗はそう大きなものとはならなかった。


 湖はかなり広く、そして深いようで潜り始めてから10分ほど経つと何故か魔物と出会う頻度が減った。


「底ってわけじゃねえのか?」


「壁にへばりついてるとかそんなもん探したくねえぞ」


「もう少しだけ潜ってみましょう、何かあるかもしれませんし」


 更に潜り続け、ついに湖底へと着く。

 こんな巨大な湖だ、海では無いがクラーケンとか出てきてもおかしくはないだろう。


「何もねえな」


「あぁ、でも……ん?」


 洞窟で感じた嫌な雰囲気が近付いてくるのを感じる、サラとカオリもそれに気付いているようでその方向をじっと見ていた。

 そしてそれの輪郭がぼんやりと現れ、徐々にその姿が露わになっていく。


「おいおい、何の冗談だコイツは」


「マジかよ……」


「弱点は電気属性でレベルは15……レベルは私たちより低いですが強敵ですよ!」


 現れたのは体長8mほどのプレシオサウルスだ、しかし見た目はファンタジックなものになっているようで背ビレと思わしきものが刃物のように尻尾まで並び、図鑑で見た記憶よりも長い尻尾を揺らしていた。


 ゴアアアァァァッ!!


 プレシオサウルスが咆哮すると俺たちのすぐ横を水のレーザーのようなブレスが放たれた。


「コイツが水晶を飲み込んでいるみたいです! やりますよ!」


「お、おう!」


「ったく、恐竜狩りなんて未来のスポーツだと思ってたぜ」


 俺たちはプレシオサウルスへと間合いを詰めた。

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