24話 世界は危機、俺たちは?

「ラグナロクって事はアイツも出てくるんだろうか……」


「アイツ?」


「ガルムの事だろ? 出てきても俺たちがブッ倒してやるさ」


「相手のレベル次第ですけどね、ガルムは1匹だけなんですか?」


「あぁ、ただこの世界じゃどうだろうな……ガルムの群れとかあってもおかしくはないぞ」


 ガルム、冥界の番犬と呼ばれる大型の狼犬で、火属性が弱点のようだ。


 空は特に変な色をしているだとか月が落ちてくるだとかそういうものはない、綺麗な青空が広がっているというのが逆にどこか不気味さを感じさせる。


「天気はいいんですがね……」


「ほんとな、赤黒い空にでもなるのかと思ってた」


「不幸ってのに天気は関係ないぜ? 晴天の下でドンパチやってるってのは珍しい事でもないだろ」


 サラは銃を担ぎつつ窓から空を見上げていた、恐らく街の外では既に激しい戦闘が行われているだろう。

 冒険者、その中でもフリーランサーとして活動している冒険者からすれば普通に倒すだけの経験値も増加しているというのは非常に得だ、もしかしたら進むルートによる差を無くす運営からのバランス調整なのではないだろうかとも思ってしまう。


「エリスって本当にゲーム的な考え方するよね」


「仕方ないだろ? 実際そう考えた方が色々と楽だ」


 まともな精神でこの世界で暮らすのは難しいだろう、平和なように見えるがこの世界ではラグナロク発令以前でも人が死ぬというのは珍しい事ではなかった。

 俺の目の前で死んだのは襲撃してきたヤツくらいだが、帰ってこない冒険者というのはやはりチラホラと確認できた。


「自分の命は自分で守るってな」


「その通りだ、何かを守りたいならまずそれを守る為の自分を守れ、基本中の基本だ」


「みなさん準備は出来ましたか?」


「あぁ」


「さて、ひと稼ぎ行こうじゃねえか!」


 俺たちは家を出て魔物の討伐へと向かう、門を出て50mも進むと魔物の姿を確認することが出来た。


「ウジャウジャいやがるな、一掃してもいいが……」


「そうだな……カオリ、ラグナロクの間はソイツを貸すよ」


「いいんですか? レア物ですよねこれ」


 俺がこれまで愛用してきたロングソードをカオリへと渡す、サラに渡そうかとも思ったが中級剣術を持つカオリの方が効率よく使用できるだろう。


「俺は剣技重視だしな、ドレインブレードを使って範囲魔法を使う、その後MPを斬りまくって回収してまた範囲魔法って感じでどうだ?」


 カオリ達もドレインブレードを使う事は可能だ、剣に杖術強化の効果は乗らないが剣に魔法強化がついている為に自分でも魔法強化を持っている彼女であれば魔法の威力上昇はかなりのものになるはずだ。


「それに俺はまたレア物を見つければいいしな、折角のイベントだ、どいつかが落とすだろうよ!」


「わかりました……ファイアストーム!」


 無詠唱でドレインブレードを付与したカオリが周囲を炎で焼き尽くす、かなりの数の敵が焼き払われたようでアイテム欄に大量にアイテムが追加された。


「コイツ1人でいいんじゃねえか?」


「俺ら寄生みたいになっちまうなコレ」


「すごいです……詠唱もしていないのに……」


 勿体ない気もするが彼女にあの剣を託した方が良さそうだ、俺が使っている時は正直魔法強化の刻印は殆ど仕事をしていないように感じた、ドレインブレードや各種属性を付与する時には恩恵があるもののそんなものは手数を増やしてしまえばいい。


「しっかしビジュアルがすごいな」


 カオリは片手に杖、片手にロングソードと僕の考えた最強の装備、と言ったような状態だ。

 実際これで強いというのがどうにもむずがゆい。


「そういやお前日本人なんだろ? 日本刀とかどうなんだよ」


「刀なぁ」


 カオリの範囲攻撃を軸に街道を進んでいく、魔法制御が無い為に安全確認をしてから範囲攻撃をまき散らすというスタイルが現状メインだ。


「こう、弾丸とかスパッと斬るんだろ? ニンジャとサムライの国だもんな!」


「あぁ、でも存在が秘匿されてるからな……トップシークレットだぜ?」


「そんなカッコイイ人がいらっしゃるんですか!?」


「あー……おう!!」 


 夢を壊すような発言は避けよう、それにこの世界は常識に囚われてはいけないのだ。

 アイテム欄を覗いてみると武器や防具もそれなりにドロップしていたようでその中に日本刀や大太刀も含まれていた。


「真剣は殆ど触った事が無いんだよな……」


 試しにバスターソードを外し日本刀を装備してみる、すると左腰に刃が上向きの状態で装備された。


「おぉ……」


「抜刀術は知らないが……っと!」


 中級剣術のおかげか問題なく素早く抜刀することが出来た、思いの外常識というのは捨てきれないようで出来たという事が自分ではあまり信じられなかった。


「って事はだ」


 大太刀を装備してみると柄が右肩にあった、通常背負う場合は色々な理由があり左肩に柄がくるようにするものだ。

 試しに素直に抜いてみると不思議な事にすんなりと引き抜くことが出来た。


「もしもこの世界に武術の達人だとか物理学者だとかが来たら発狂するだろうな」


「常識は犬にでも食わせろ、だろ? 銃だって同じさ」


「カオリ、そのロングソードはお前にやるよ、お前が持っていた方が良さそうだしな」


「本当ですか!? ありがとうございます!!」


 大太刀は刀身だけでも140cmほどあり、全長は170cm近くある。

 14歳とは言っても俺の身長は既に170cm近くありほぼ俺と同じサイズという大型の武器だ。

 しかし意外にも重くて振りづらいという事は無く野外で振り回すにはリーチもありいい武器のように感じる、何よりもどこか懐かしさを感じさせられるのが好感を持てるところだ。


「狭い所では日本刀、外では大太刀で使い分けるか」


「期待してるぜ、サムライ!」


「おう、任しとけ」


 初日はカオリの独壇場と化して終わりを迎えた、範囲魔法で薙ぎ払い続けていた為に討伐数は非常に多く今日だけで不要な素材や武具の売却額も合わせて20万zほどの収益となり、全員のレベルが狩りの途中で1上がるという素晴らしい日だった。


「明日も稼ぐぞ!」


「「おー!!」」


 世界の危機を前に俺たちは平常運転で挑む事となった。

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