第二章 ラグナロク
第22話 退屈な日々
この世界に転生して2か月ほどが経過した、俺のレベルは21、サラとカオリはレベル20へと上昇していた。
5レベルごとにスキルを習得するのか俺は【発動短縮】【剣技強化】を習得し、サラは【精密射撃】【弱点看破】、カオリは【詠唱短縮】【ナビゲーター】を習得したようだ。
冒険者クラスは全員Cクラスとなっており、Bまでの道は思っていたよりも長いものになりそうだ。
「何て言うかあんまり変わんないよな、元の世界と」
「刺激はあるんだがな」
「私の前世はどんな人だったのでしょうか……」
「良い人だったんじゃないか? カオリは優しいしな」
「だな、違いねえ」
結局カオリにも過去の話をする事となった、カオリは驚いてはいたが受け入れてくれた。
冒険者というものにでもなれば、ファンタジーの主人公のようになればと憧れていた日々が叶ったと言っても過言ではないこの世界だが、俺は正直なところ既に飽き始めていた。
刺激には満ちているもののある程度パターン化が可能なのだ。
ギルドの依頼は復活する周期が早いため、ある程度の稼ぎが可能となっている、その為に同じ魔物を効率的に狩り、稼ぐという事が可能となっているのだ。
これは良く言えば簡単にある程度の金を稼ぐ事ができ、レベルアップも依頼達成のボーナスも含めると非常に楽なものとなる。
しかしそのせいで完全に俺の中で冒険者という仕事がバイトくらいの感覚にまで落ちてしまっていた。
金は貧乏生活をついに脱却し貯金は10万zほどはあった、魔物はレパートリーが凄く多いかと言われると案外そうでもない、よくあるそのまんま攻撃力とか体力とかその辺を強化してやったぜスタイルのようだ。
「エリス、怠けるのはよくないよ?」
「わかってるさ、でも何かこうイベントとかそういうのだとか世界の危機だとか無いと気が引き締まらないだろ?」
ミネルヴァは呆れたように俺の周りを漂っている。
ただ安心して欲しいのはちゃんと依頼はこなしているという事だ、あくまでノリ気ではないだけであって実戦になればちゃんとスイッチは入るのだ。
「世界の危機なんてものが起こったら悠長な事も言っていられませんよ?」
「だな、まぁ言っても動かなくなったら俺が叩き起こしてでも連れ出してやるよ」
「そうならないよう気を付けるさ、怠けすぎると主人公適正を剥奪されるかもしれねえしな」
体を起こしてストレッチをする、このマンネリ感の正体はおおよそ見当がついていた。
楽をしようと一定の依頼と魔物を集中的に狩っている為に刺激が少ないという点だ、今の俺が冒険者らしいかと言えば決してそうではない。
ヒーローではなく強いモブというのが今の俺にはピッタリなはずだ。
「平和な日常の為に今日も頑張りますか!」
「その意気ですよエリスさん!」
「よし、それじゃ行くぞ」
今日も依頼をこなしにギルドへと向かう、俺たちが普段対象にしている魔物はゴブリンロードやレッサーオーガといったレベル帯の中でも弱すぎるわけではないがどちらかと言うと弱いという魔物が中心だった。
これを選ぶ利点としては強さとして中途半端なものである為に人気のない依頼なのだ、その為に安定して周回をする事が出来る。
「今日はギーヴルだ」
「大物だな」
ギーヴル、冒険者試験で戦った宝石の埋まったワイバーンだ。
Cランクのギーヴルは丁度試験の時に戦った9レベル前後の個体が対象となっている。
防具も若干ではあるが周回のおかげでいい物へと変更しており試験の時よりは楽なはずだ、とは言っても強敵である事にかわりはない。
「カオリは後方から支援してもらう形でいいか?」
「はい、近距離であのレーザーは撃たれたくないですからね……でもいいんですか?」
「俺には絶対回避があるからな」
絶対回避の強みは動きのクセさえ覚えてしまえば安定して決められる事だ、特に大ダメージを受けるような技というのは印象に残りやすい。
「サラはいつも通り頼む」
「おうよ」
「それじゃ行くぞ!」
今回の依頼は目的地が遠くある為に魔導ボードを貸してもらえる事となった。
これを簡単に説明するならば宙に浮くスケートボードで時速にして100kmは簡単に出せるという代物だ、いい物になれば300kmで走ることも出来るという噂を聞いたことがある、冒険者や騎士団の為のバイクだとか車のようなものだ。
「こんなのが借りれるなんてな!」
「こんな面白いもんがあるなら効率とか考えなくていいんじゃないか?」
「ちょっとフラつきますね……」
魔導ボードに乗ってギーヴルがいると言われる場所へと向かう、少し浮いている為低速では若干フラつくがある程度速度が出てくると安定して走りやすくなる、この辺の感覚は自転車と近いものがある。
悪路もものともせず進める為にいつもとは比べ物にならないスピードで現地へと向かう、ちなみにジャンプする事も可能だ。
「ヤッホー!」
「サラ! あぶねえぞ!」
サラはこういうのが得意なのか様々な技を決めていた、街を出た時から既に金属鎧の見た目へと変わっている為に今この瞬間を写真にでも撮ればたちまち情報量の多い写真が完成するだろう。
しかし楽しい時間というのは長くは続かない。
「いやがったな」
綺麗な湖のほとりにそれはいた、どうやら水浴びをしているようでこちらに気付くと威嚇の咆哮を放った。
「いくぞ!!」
発動短縮のおかげで剣技発動時に技名を宣言する必要が無くなり剣技使用時の隙が少しだけ短縮されるというメリットがあったが、これは思うにPvP向きのスキルだ。
チャージスラッシュを発動させて一気に間合いを詰める、それを見たギーヴルは額の宝石から光線を放って俺を迎撃しようとする。
「生憎初見ってわけじゃねえんだ!」
魔力を放出してチャージスラッシュの動きを無理やりキャンセルし、薙ぎ払われる光線を回避する。
「ライトニングアロー!」
「思いっきりいきますよ!」
2人から魔法による援護射撃が放たれギーヴルの意識が逸れる、更にそこにライトニングウェポンとドレインブレードを発動させて斬撃を加える。
「はぁっ!!」
尻尾へと攻撃を集中させる、鬱陶しい尻尾は切断するに限る。
俺の戦闘スタイルは若干変化していた、基本的に盾は装備せず必要と感じた時だけ装備するようにしている。
面倒くさい行為ではあるが慣れると苦には感じないもので、盾が外れる分重さが軽減され動きやすくなるというメリットがある。
「っぶねえな!」
尻尾の攻撃を剣で弾く、威力の高すぎる物は弾けないがある程度までであれば剣でも攻撃を弾くことが可能だ。
レベルが試験の時よりもかなり上がっている事や経験のおかげもあって苦労する相手では無くなっているようだ。
「よーしよし、動くんじゃねえぞ……ここだ!」
サラの射撃は精密射撃のスキルによってさらに正確なものへ進化していた、そしてその射撃によってギーヴルの額の宝石を撃ち抜く。
そしてギーヴルの額から宝石が失われる、これで光線は封じられ、度重なる斬撃によって尻尾も切断された。
「我が魔力は怒れる雷! 害為す竜を焼き殺しなさい――サンダーボルト!!」
カオリの詠唱によって強化された特大の雷が爆音と共にギーヴルへと落ちる、詠唱短縮により無詠唱でも魔法の発動が可能になった彼女だが、やはり詠唱する価値は十分にあるようだ。
その一撃によってギーヴルは力尽き、それぞれがドロップ品の回収とその内容を確認する。
「ギーヴルもこれくらいなら余裕だな!」
「だな、これからは色々依頼を受けてみるか」
「待ってください、何か揺れていませんか?」
「「ん?」」
気を付けてみると地震のようだ、しかしそう大きい物ではなくすぐに収まった。
「おい……アレ」
「何だよ……って……」
「こっちもです……!」
湖から大量の魔物が溢れ出てきていた、湖だけではなく森からも大量の魔物が湧いているようでただ事ではなさそうだ。
「一回帰るぞ!」
「邪魔な魔物はどうすんだ!」
「なぎ倒せ!」
俺たちは魔導ボードをアイテム欄から取り出してヴァルディアへと急いだ。
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