第14話 襲撃

「ん……?」


 朝起きると違和感を覚える、どうにもベッドが狭いようなそんな感覚。


「おぅ……」


 寝返りをうってみるとすぐ近くに金髪の美少女が眠っていた、静かに寝息を立てつつ俺のすぐ横で無防備に眠りこける少女だ。


「んー……?」


 幸か不幸か俺の頭は比較的早めに回り始めた、サラが俺のベッドに潜り込んできたのだ。


「――ッ?!」


 それに気付くのと跳ね起きるのはほぼ同時だった、それで起きたのかサラが目を擦りながら寝ぼけた声を出す。


「んー……おはよう、エリス」


「あ、あぁ、おはよう」


 いつもの男臭い感じは無く目を擦りながらこちらを見るのはまさしく美少女、中身以外は実際魅力的というか正直かなり好みなのだ、思考が若干暴走しかける。


「へへ、驚いただろ」


「お前なぁ……」


「お前チェリーだろ、反応でわかるぜ」


「うるせえほっとけバーカ!」


 ニヤニヤするコイツはやはりサラだ、一瞬でも惚れそうになったのが悔やまれる。


「ほら、イチャついてないで準備準備!」


「ミネルヴァ!!」


「まぁまぁ、落ち着いてください、馬車に乗り遅れたら自分で歩かないといけませんよ?」


「う……わかりましたよ」


 コイツら楽しんでないか?

 考えても仕方がない、装備を整えて荷物の最終確認をする、ここから先は本格的にこの世界で生活する事になる。

 大体の事は頭には入っているつもりだが正直まだ引っかかっている所が1つだけあった。


「行くぞ、エリス」


「あいよ、気を引き締めて行くぞ」


 俺は村の馬車乗り場へと向かう、これはバスのようなものだと思ってもらって構わない。

 料金はそれほど高くない、少なくとも田舎のバスや電車に比べればずっと安いものだ。


「全然数がねえな」


「そうだな、まぁ見た所田舎だしなぁ」


「慣れてんだな」


 1時間に1台ほどのペースで馬車が出ているらしい、丁度俺の住んでいた所の電車の本数と同じようなものだ、超がつく田舎はもっと酷いらしいというのは知っていた為に特に何とも思わなかった。

 適当に雑談したりBGMを使った音楽談義などをしつつ時間を潰す、乗り場に時計があるのだが5分ほど経っても中々来る気配が無い。


「来ねえな」


「こんなもんだろ、日本人は時間にうるさいって聞いたが本当なんだな」


「待て待て、終業時間にはめちゃくちゃルーズだったりするぞ?」


「おいおい、そんなんじゃデートの時間もまともに決められねえじゃねえか」


 ゲラゲラと笑いつつ待っていると馬車が姿を見せた、見た所冒険者や護衛のような姿は見えない。


「2人ともどこまで?」


「ヴァルディアまで頼む、料金は先払いか?」


「あぁ、払ったら乗ってくれ」


 自分の所持金から馬車代が引かれる、俺とサラはそれぞれ馬車に乗り込む。

 同乗者は若い男性ばかりだ、その中で見た目だけは美少女なサラは一輪の花といったところだろうか。


 馬車に揺られつつヴァルディアへと向かう、男たちはサラに話しかけられていた。

 彼女は意識しているためにまさに美少女だ。


「本当に見た目は可愛いんだけどな」


「私が作りましたからね、自信はありますよ」


「エリスも結構カッコイイと思うけどね、なんせ私が作ったんだから!」


「張り合わなくていいから、でもまぁ実際イケメンだよな俺」


 とんでもないナルシスト発言だが問題は無いだろう、馬車に揺られるて数時間、俺たちは森へと入った。

 どうやら同乗者もヴァルディアへ向かっているようで仕事を探すのだそうだ。


「しっかしこんな可愛い子と旅なんて羨ましいぜお前」


「エリスは頼りになるんだ! 私の事しっかり守ってくれるしね!」


「頼りになるのはお前もだろサラ」


「えへへー」


 俺の腕に抱きついてきた、周りの男達は口笛を鳴らしてニヤついていた。


 その時馬車が不意に止まった、ヴァルディアに着くにはまだ早い。


「休憩かな?」


「こんな森の中でか?」


 嫌な予感が頭の中を過る、この世界に転生する際に見た説明文、その中には悪の道も存在するという事が読み取れたのだ。

 もしも盗賊として生活するプレイヤーがいたら? という不安だ。


 次の瞬間馬車の中にボロ布を纏い剣を持った男が入り込んできた。


「大人しくしやがれ! 抵抗しなければ命は……」


 言い終わる前にサラが銃を向けて発砲した、その一撃で盗賊の男は胸を押さえながら光となって消えていた。


「エリス、行くぞ!」


「なっ……」


 人を撃ったというのにサラは顔色一つ変えなかった、つられるように俺は外へと出た。


 馬と馬車を運転していた主人が見当たらない、どちらも殺されてしまったのだろうか。


「へぇ、冒険者がいたのか」


 弓を手に、腰に剣を携えた男が丘の上からこちらを見下ろしていた。


「盗賊か!」


「盗賊? 違うね、僕は英雄になる男だ!」


「英雄だ? 略奪する英雄がどこにいるってんだ」


「多少の犠牲は必要だろ? お前らみたいなNPCなんてプレイヤーである僕の経験値になるのがお似合いさ!!」


 プレイヤーにNPC、彼が発する単語から推察するに恐らくは彼もゲームだと思ったクチなのだろう。


「サラ、多分アイツも……」


「あぁ、プレイヤー持ちなんだろうな」


「やらなきゃダメ……なのか?」


「向こうはやる気満々みたいだぜ? ゾロゾロと仲間も連れているようだしな」


 注意してみると草むらに盗賊が潜伏しているのが見えた、レベルは3、大したことのない雑魚な上に彼らはプレイヤーではないようだ。

 しかし丘の上で威張る男だけはレベルが見えない事からもプレイヤーである事は確定のようだ。


「警告する、今すぐに手を引けば見逃してやる! もしも強行するというのならこちらも抵抗するぞ」


「ゴチャゴチャうるせえんだよ雑魚が!! やれ!!」


「フロストバイト!!」


 一斉に盗賊が俺たちへと攻撃を仕掛けようとしたその時、サラが範囲魔法を発動させた。

 魔法の範囲内にいた盗賊はすぐに凍り付き、そして光となって消えていった。


「警告はした、お前はどうするんだ?」


「へぇ、雑魚とは言っても一瞬で吹き飛ばすのはすごいね、騎士団か何かのNPCかな?」


「俺たちもプレイヤーだ、覚悟は出来てるんだろうな?」


「そっちこそ、プレイヤーか……やっと美味しい経験値がやってきたってもんだ!!」


 サラは銃口を男へと向けて次々と言葉を紡いでいる、それに対して俺は剣は握ってはいるものの正直なところ怯えていた。

 よく殺すぞだとか、ふざけんな死ねと言った単語をふざけて口にする事は多いと思うが実際に殺し合いを体験した事なんてないのだ。


「エリス、ちゃんと敵を見て!」


「わかってる……でも!」


「和解の道もあるかもしれません、しかしいつでもその道を歩めるとは限りませんよ」


 ミネルヴァとアマテラスからかけられた言葉は信じる心だとかそういうものではなく、甘えられない現実を突きつけるものだった。


「ほらまず1人!!」


 俺へと矢が放たれる、中級剣術のおかげか体が反応し矢を打ち落とした。


「やるしか……ないのか!!」


「エリス! ボサっとしてんじゃねえ!」


 俺の中に闘志が湧き上がる、防衛本能によるものなのか、これもプレイヤーのスキルによるものなのかはわからない。

 しかしそれのおかげで俺は戦う覚悟を決める事が出来た、剣を握りしめて戦闘の中へと駆け出した。

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