第12話 パイソンとの戦闘

「ドレインブレード! プロテクション!」


 俺は魔法を付与してピュートーンとの戦闘に入る、氷属性の付与もしたかったが微妙にMPが足りない、ドレインブレードのみでしばらくは攻撃し、MPが回復次第氷属性を纏わせる予定だ。


「まずは周囲の雑魚を一掃する! 少し視界が埋まるかもしれないが我慢してくれ!」


 そう叫ぶとサラが銃を掲げる。


「大気よ、我が魔力により凍結せよ――【フロストバイト】!!」


 サラを中心に一気に周囲のトカゲが凍り付いていく、中級攻撃魔法のようだ。


「ッ……案外疲れるんだな、これ」


「開幕ブッパとは思い切りがいいな!」


 俺は寒さは感じたが苦痛には感じなかった、ちょっと強く冷房の効いた部屋といった感覚だ。

 もしもパーティーを組んでいなければ俺ももれなく凍り付いていたのかもしれないと考えるとおっかないものだ。


「っと!!」


 ピュートーンにが尻尾を鞭のようにしならせて俺へと振りぬく、絶対回避は狙わず盾でその尻尾をガードする。

 絶対回避は強いように思える、いや実際強いのだが欠点がある、もしもタイミングがズレればその攻撃にヒットしてしまうのだ。

 決まれば間合いを離さず攻撃を続けられ、失敗すればダメージをもらうという諸刃の剣だ。 


 盾でガードしたものの僅かにダメージをくらったのか腕がジンジンする、あんまり受けすぎると左腕が使い物にならなくなる危険性があるというのは心臓に悪いものだ。


「エリス!」


「大丈夫だ!」


 周囲のトカゲは一掃されたとは言ってもあくまで魔法の射程内のものだけだ、まだ距離はあるが他のトカゲがまるでピュートーンを守るかのようにこちらへと近寄ってきていた。


「チャージスラッシュ!!」


 一気に剣の間合いへと詰め寄りピュートーンを連続で斬りつける、まだこの世界へと転生して一週間程度だが戦闘の動きに関してはかなり慣れたと思う。

 しかし未だに慣れないものがある、相手の行動の読みだ。


 通常こういったアクションもののようなゲームは三人称視点である事が多く、カメラがキャラよりも後方にあるが為に相手のモーションが見やすいのだ。

 しかしこれは現実、三人称視点というものは無く一人称視点だ、となれば当然見える範囲は狭いものになる為に相手の動きを見切る為に必要な部分というのがゲームのそれとは変わってくる。


「鬱陶しい尻尾だな!」


 ピュートーンは尻尾が体に対して非常に長い、むしろこっちが本体なのではないかと疑いたくなるようなもので、爪や噛みつきといった攻撃に混ぜて尻尾を振るってくる、大きなダメージでは無いが確実に俺の体力を削られていく。


「クソッ……! こっちもそろそろキツいぜ!」


 サラもトカゲを抑えてくれているようだが処理する数よりも近寄ってくる敵の数の方が多いようで苦戦しているようだった。


「一回撤退だ!」


「なっ……いいのか!?」


「相手も回復するかもしれないがこのままじゃジリ貧だ! 回復しない事を祈って退くのも無しじゃないはずだ!」


 この世界での自然治癒力というのがどんなものなのかは知らない、しかしこのまま無理やり戦ってもピュートーンかトカゲに圧倒されるのは目に見えている、ならば退くのがいいだろう。


「わかった!」


「行くぞ!」


 撤退途中に補助魔法が切れた、剣技も魔法も殆ど使わなかった為にMPはフルまで回復しているのが助かることろだ。

 BGMだが景気づけにと思って使ってみたが思いのほか効果がある、音楽の力はすごいと言うが実際気分が高揚し動きやすかったように感じる。


 俺たちはボスの元から離れ木を背に休息をとりながら作戦会議をする事にした。


「雑魚が鬱陶しいな、大した強さじゃないとは言っても脅威にはなりえる、無視するわけにはいかないよな」


「俺はいちいち近付かないと処理出来ないからなぁ……ミネルヴァ、何かないか?」


「そこで私に振るかなぁ!? うーん……悪いけど思い浮かばないよ、アマテラスは?」


「私も思い浮かびませんね……正々堂々とやり合うしか無いのではないでしょうか?」


 ゴリ押し正義というやつだろうか、出来るならそれは避けたいところなのだが……


「ん?」


 ポーションを飲んで、減ったHPを回復させながらアイテム欄を覗いてみると気になるアイテムがあった、下級トカゲのフェロモン腺というアイテムだ。

 いくつか拾っていたようで個数はそれなりにある、俺はそれをとりあえず手の中に取り出してみる。


「なんだそれ?」


「フェロモン腺だってよ」


 そうやり取りしていると何匹かのトカゲが現れた、俺が何かするまでもなくサラのライフルによって撃破され、大事に至る事は無かった。


「へぇ……使えるんじゃね?」


「だな、案外アッサリ解決したもんだ、収集癖も悪くないな」


 俺はドレインブレードのおかげで消耗は無いが、サラはMPを多く消耗してしまっているようだった。

 フロストバイトは使えても1回、もしも魔法攻撃を主として考えるのであれば使えないと思ってもいいだろう。


「そういや中級の攻撃魔法に単体に火力を出せるものって無いのか?」


 範囲攻撃だけという事も無いだろう、となればトカゲをどうにか出来るとすればフロストバイトを使う事は考えなくていいとも思える。


「氷属性ってなると……【アイスブラスト】があるな、どうせならサイコーの一撃をかましてやりたいな」


 【アイスブラスト】相手の上空に氷塊を出現させて叩きつけるという魔法だ。


 中級の補助魔法であれば俺も使用可能な為にわかるのだが魔法にもバフ魔法は存在する、サラはそれをしたいとの事だ。

 作戦としてはこうだ、俺がフェロモン腺を思い切り放り投げてトカゲを可能な限りピュートーンから遠ざける、そして俺がプロテクションとドレインブレードを使い可能な限り削り、そこにバフを盛りまくったサラがアイスブラストを叩き込むのだ。


「でもさっきエリス氷属性の付与忘れて無かった?」


「野暮なツッコミは無しだ」


 ミネルヴァの痛い所を突くツッコミを受けつつ腰を上げる。


 トカゲの群れをかき分けた先にピュートーンはいた、俺は作戦通りにフェロモンを投擲する。

 そして先ほどと同じように自身に補助魔法をかけて攻撃へと移る。


 トカゲは予想通りフェロモンに引き寄せられたようでピュートーンが孤立する、その時ピュートーンが俺の方を向いて体をのけぞらせた。

 次の瞬間俺の体に生暖かい空気が俺を包む、これがブレスか?


「ッ……マジかよ……」


 俺はそれを無意識に吸ってしまった、それとほぼ同時に俺の体中を鋭い痛みが走る。


 状態異常――毒だ


 痛みは感じるが体は自由に動かせる、前世では感じる事の無かった感覚に頭がパニックを起こしそうになる。

 しかしその痛みはすぐに取り除かれた。


「大丈夫か!?」


「あぁ、助かった!」


 サラが治癒魔法を飛ばしてくれたようだ、サラはこちらへと親指を立てると補助魔法の行使へと戻ったようだ。

 

 どうやら吸い込まなければ問題は無いようで俺は攻撃を続ける、俺も出し惜しみはしない。


「アイス……いや……【フリーズウェポン】!!」


 魔力が全部持って行かれた、正確にはほんの少し残っているが今の状態では剣技すら発動的できない状態だ。

 俺が使った魔法は中級の補助魔法なのだ、その分効果も大きく消費も大きい。


「はぁっ!!」


 思い切り両手で剣を持って斬りつける、大振りなそれはピュートーンを深く切り裂きピュートーンが苦痛のものと思われる咆哮をする。

 俺は剣を右肩から担ぐように構える、通称【雄牛の構え】と呼ばれるものだ。


「パワースラッシュ!」


 先ほどの一撃で吸収したMPを使用し剣技を発動する、パワースラッシュは名前の通り敵を思い切り叩き切る攻撃だ、MPの消費はそれほど大きくはないがシンプルで隙が少なくそれでいて大きいとは言えないがそれなりの威力の出せる技だ。


 瞬間的に魔力で身体能力が強化される、思い切り遠心力を使い振り下ろさてたロングソードが再びピュートーンへと叩き込まれる。


 シャアァッ!!


「なんの! まだまだ!」


 ピュートーンもただではやられない、俺の技の発動に少し遅れて前脚を俺へと振るっていた。

 その前脚が技の発動後の勢いにより動けない俺を捉え吹っ飛ばされる、しかし痛みはあまり無く回復する必要も無い、ひたすら斬撃をピュートーンへと加える。


「大気よ、我が魔力にて害ある者へと氷塊による鉄槌を! ――【アイスブラスト】!!」


 俺へと噛みつこうとしたピュートーンに巨大な氷塊が叩き落とされる、ピュートーンは度重なる攻撃によって作戦通り消耗させられていたようでその一撃で首を大きく天へと伸ばしたかと思うと、地面へと伏した。

 トカゲは戻ってくる気配はなくどこかへと散っていったようだ。


「地獄で眠ってろクソトカゲ」


「美少女が言うセリフじゃねえぞ、折角の美貌が台無しだぞ」


「きゃるん☆」


「どつき倒したろか」


 どうやら無事に討伐出来たようで依頼の欄にパイソンの討伐にチェックが入っていた。


「そういえば名前はパイソンだったな」


「そうだな、まぁどっちでもいいだろ」


 俺たちはドロップを確認する、俺はパイソンアームという手甲、サラはパイソンファングという短剣だったそうだ。

 見た目はレザーアーマーだが性能はきちんとパイソンアームのものへとなっており、俺は防御力の向上、サラは戦力補強となった。

 ちなみに貸していたバスターソードだが既に返却されている、出来る限り自分でどうにかしたいそうだ。


 サラはレベルが上がったようで疲れた様子は見られなかった、俺たちは軽く周囲を探索した後に村へと戻った。

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