とあるクラウドファンディング

ゆにろく

とあるクラウドファンディング

◆クラウドファンディングとは……不特定多数の人間が個人や組織に対して資金の援助を行うことを言う。


とある漫画家は若者に大人気の漫画雑誌で連載を持っていた。 その漫画は世界中で名作と名高く、全米だけでなく世界中の人間が涙したという。 しかし、その作品には欠点が存在した。 50年間連載し現在124巻という長期連載を続けるも一向に物語の終わりが見えてこないのだ。

ある時、その漫画に1ヶ月の休載が決まった。 ファン達は「先生もお歳だ……。 正直なところ俺達はこの名作の最終回を見れるのだろうか……」と不安な気持ちになっていた。 そんなとき、ネットニュースにこんな記事が掲載された。


『大物作家、老衰の危機! クラウドファンディング開始』


これが、世界初、人類初の『寿命』を集めるクラウドファンディングであった。


その漫画は前述の通り、老若男女、多くの人間に愛され、その中には22世紀で最先端の科学技術に携わる研究者もいたのである。 その研究者は寿命の研究をしており、自分の研究成果はこのために合ったと確信し、寿命を他人に譲渡する装置を開発した。 無論、この研究者はかなりのオタクであった。 すぐに、漫画家に了承を取りに行った。 漫画家はその提案を快諾した。 彼は彼で自分の作品を完結させてから死にたいとのことだった。


ともかく、その発表を見たファン達はとても喜んだ。


「俺みたいな凡人より天才漫画家が生きた方が良い!! とはいえ、死にたくはない……。 取り敢えず俺の寿命の1時間投資してみよう」

「投資が集まれば作品が完結する前に先生がこの世を去るということがなくなるぞ! よしっ! とりあえず俺の寿命の1日分を投資するぜ!」

「あぁ、なんという幸運! 先生のために私は1年を投資するわ!」


そして、世界中の漫画ファンから寿命を集め、漫画家の寿命を伸ばす試みは成功した。 およそ1000年の寿命を漫画家手にしたのである。

「いや、流石にこんなにはいらんよ」

「といわれましても、返すのはかなり難しいかと」

「ふーむ。 まあそれは漫画を完結させてから考えよう」


──50年後。


ファン達の予想しないようなことが起きていた。


「なんてことだ。 まさかワシが生きてる間に完結しないとは……。 あぁ、あの寿命を返してくれー。 そうすればまだ一巻くらいは読めるかもしれん……」


漫画家は寿命を得たことで更に物語の風呂敷を広げたのである。 そのせいで、当時漫画家に寿命を投資した者達は最終回を読めずしてこの世を去ることとなる。


「せ、先生。 私はあのクラウドファンディングを発案した研究者です」

「あぁ! 君か! 本当に助かった!! あのときの寿命のままでは私の作品を書ききることができなかっただろう!」

「……というと、もう作品は完結するのですね!」

「あぁ、そうだとも! もう完結は見えている! 私が死ぬ前にしっかり完結するぞ!」

「本当ですか! ……ここだけの話、後どれくらいなんでしょう? 正直私も、もう長くはないので……」

「仕方ないなぁ。 君は私の作品の恩人だからね、特別に教えよう。 後──」


研究者は200年という言葉を耳にした瞬間ショック死した。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

とあるクラウドファンディング ゆにろく @shunshun415

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ