アーマード・ハンター
雅 清(Meme11masa)
第1話
荒野を進む三つの影。
ひび割れた大地、アスファルト、蜃気楼。熱風、枯れた水場、廃墟。つむじ風。
緑の豊かさはそこに無く、あるのは風化した残骸のみ。
アスファルトの道路は北の大都市と南の町を繋ぐ唯一の道であったがこの一帯が危険区域に指定されて以来、封鎖されていた。
それでも時折、この道を使う者がいた。大半は逃亡中の犯罪者か違法な運び屋だった。彼らは監視の目も無いこの道を悠々と走って行ったのだろうか?
だが焼け焦げた車がその無謀な賭けの結末を物語っていた。やがて荒野を横断する者はいなくなった。
その三つの影は道路を久しく利用する者達だった。この広大な荒野の長い道を歩いていた。
丘の向こうから強大な砂の壁が現れた。砂嵐だ。
高層ビルをゆうに超え、飲み込まれたものは暴風と砂塵によって方向を失う。それは道路を歩く三つの人影を一瞬にして飲み込んだ。
「なぁ、この辺りなのは確かなんだよな?」ジェリコが気怠そうな声で言った。
三人は一メートル先も見えない砂嵐を物ともせず歩き続けた。
「ミヤコの集めた情報はいつも正確だ。お前も一緒に整理したんだ、よく知ってるだろう? 必ずこのあたりにいるはずだ」先を歩くマックスが振り返らず言った。
「そうは言ってもよ。もう四日も空振り続きだぜ? ガセ情報だって疑ってもいいころだぜ。きっとどこかの同業者が金であの町長を買収して嘘の情報を流したんだ。そいつらは今頃、楽して稼いだ金で派手にやってる頃だろうぜ。あぁきっとそうに違いねぇ。誰かのいんぼーだ。いんぼー」
ジェリコの安い陰謀論にマックスは答えず、黙っていた。
「ジェリコは早く酒が飲みたいだけだ、気にするなマックス。ジェリコはなんだったら先に帰っていても構わない。俺とマックスだけでも片づけられるからな」
ジーンはそう言ってジェリコの肩を軽く叩いた。金属を叩いた時の軽い音が聞こえた。
「そうしたら金は俺だけ無しって事にする気だろ? そうはいくかよ」
彼らは犯罪者でも違法な運び屋でもない。だが、おおよそまともな理由があってこんな場所に来たのでは無いことは確かだった。
砂嵐が去り、再び三人は太陽の下に照らされた。
彼らは鎧を身に着けていた。人の科学が生み出した機械仕掛けの鎧。灼熱の太陽を受け、ユラユラと立ち昇る熱気を纏うパワードスーツだった。
茶色い塗装の施された軽AM装甲。頭部前面に設けられた二つのレールを機敏に滑る二つのカメラ。腕や脚を覆う黒いラバー状の人工筋肉。
顔も、腕も、脚も、そして胴体も。その全てが装甲に保護され、人の本来のシルエットは隠された。
ズシリと重い足でアスファルトを叩くようにして音を響かせながら歩いていた。
右肩と頭部左側面には行書体を思わせる書体で白く書かれた「壱」「弐」「四」の文字。
それぞれの手には点火型杭打ち機とAPアサルトライフル。携行型M4重機関銃とシールド。E03式超電磁加速銃。どれも強力な装備であり、生身では到底扱えない重量を持っている。
彼らここに狩りに来ていた。
狩りの対象は動物ではない。動物を狩るには彼らの得物はあまりにもオーバースペックだ。
では相手は人間か? それも違う。
確かに彼らは以前、テロリストや賞金首を相手にしていたがこんな武器では対象はバラバラだ。賞金を貰うのにわざわざ遺伝子照合をしなければならなくなってしまう。余計な時間と手間がかかるだけだ。
狩猟対象は兵器だ。AIを搭載し、自動で動く自立型兵器。その中でも狩るのは制御不能の狂ったやつだ。
なんらかの原因で放置され野放しになり、人々を無差別に襲う無慈悲の殺戮マシーン。この世界に残された大戦の爪痕だ。
彼らは金と引き換えであればどんな兵器でも狩った。西の密林の溶けるように擬態する軽量多脚戦車を。東の山岳地帯の空を占拠する鳥型戦闘爆撃機を。
彼らは傭兵。そして自らを装甲猟兵と名乗った。
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