第26話 最初の一歩
リーンを連れて行くか行かないかの問題で思わぬ時間を食ってしまった。
既に昼近かった為、近くの食堂で食事をする事になり、現在食事中である。
食事をする前に、リーンから改めての自己紹介があり、鞘華とサーシャは今更揉めるような事無く、無事に食事にありつけた。
テーブルにはパンとビーフシチュー、サラダ、ドリンクがそれぞれ並んでいる。
食事に関しては現実の者が出てくるので有り難い。
皆が食べ終わったタイミングで俺が口を開く。
「俺達はグラムスに向かっていたけど、ソオヘからはヴァギール、マラスにもいけるらしい。どうするべきだと思う?」
ソオヘはアルカナ、グラムス、マラス、ヴァギールに囲まれていて、どの領地に行くにしてもソオヘを経由しなければならない。
現実で例えるなら電車の乗り換えに近いかもしれない。
「一気にヴァギールに攻めちゃうのはどう?」
最初に意見を出したのは鞘華だった。
「ヴァギールは最後だ。ヒロインを集めなきゃならないしな」
「うぅ、そうだった……」
ヒロインを集めるという言葉で鞘華のテンションが若干下がった。
次に意見を出したのはサーシャだった。
「やはり当初の目的通り、グラムスに向かうのが最善だと思います。アルカナ領はグラムスの兵士に侵略されかけました。早い段階でこちらが攻めなければ、またグラムスに侵略されてしまいます」
「なるほど。要はアルカナが舐められるって訳か」
俺がサーシャの言葉に納得していると、リーンが人差し指をピンッと立てて言う。
「マサキ様、それだけじゃないのよ? 一回攻め込んでいるから、きっとアルカナは弱っているだろうと思ってるのよ」
リーンの言葉にも納得だ。
侵略を防いだとしても、こちらが無傷ではないと思うだろう。
戦力が回復しない内にもう一度攻め込む事は戦略として当然だろう。
「なら、最初の目的通りグラムスに向かうとしよう」
会計を済ませ食堂を出る。
ここから街中を流れる川を渡り、真っすぐ行くと街を囲む城壁がある。
その城壁にグラムス領に入る為の門があるらしい。
俺達はひとまずそこを目指して歩き出した。
川にはいくつも橋が架けられており、近くの橋を渡る。
渡った先は広場になっていて、噴水や女神の様な石像があり、子供たちが遊んでいる。
広場を抜けると、『この先グラムス領入り口』と書かれた看板があり、看板の指し示す通路を進んだ。
しばらく歩くと、ソオヘに入った時の様に関所の様な物が見えてきた。
それを見て重大な事に気が付いた。
グラムスに何の用で向かうのか聞かれたらどう答えればいいのだろう。
俺は慌てて三人を呼び止めて質問を投げ掛けた。
「グラムスに何の用だって聞かれたらどうすればいいんだ?」
「攻め込みに来ました! じゃダメなの?」
鞘華はまた直球で行こうとしている。
しかし、鞘華の意見にサーシャとリーンが同意した。
「サヤカ様の言う通りで問題ないと思います」
「私もサヤカちゃんの案でいいと思うわ」
俺が二人とも鞘華の案に賛成している事に驚いていると、リーンが説明する。
「そもそも~、アルカナはどうやって侵略されたか覚えてる?」
「そりゃ、奴隷の兵士達が攻め込んできたんだよ」
「うん、そうね。ではその奴隷達は何処から来たでしょうか?」
「グラムスから来たと証言させた」
リーンは分かり切っている事ばかり聞いてくる。
俺達がグラムスに向かうのは、グラムスから攻め込まれたからだ。
「じゃあ、その奴隷達はどうやってソオヘを通過したでしょうか?」
言われて初めて気付いた。グラムスの奴隷達はどうやってソオヘに入り、どうやってアルカナ領に入ったのだろう?
「サヤカちゃんは分かるかな?」
俺が悩んでいるとリーンは鞘華にも質問した。
「えっと、普通に通過した?」
鞘華がそう答えるとリーンは指を指し
「せいか~い!」
と言った。
普通に通過した事が正解なのか?
俺が更に混乱していると、今度はサーシャが説明してくる。
「昔から領地同士の争いが絶えません。そんな中でソオヘは中立国として存続してきました。領地から領地に攻め込むにはソオヘを必ず経由しなければなりません。例えば、マラスがグラムスに侵攻しようとします。その時にマラスの兵をグラムスに攻め入るからとソオヘが入国を断ると、ソオヘがグラムスの味方だとマラスに誤解されソオヘに侵攻する事態になります。そうならないように、ソオヘは領地に攻め入る者を止めたりしないのです」
「それなら何でソオヘに入る時、あんなに厳しく入国審査してたんだ?」
「それは昨日宿のオーナーが言っていた通り、中立国という事を良く思っていない連中が、犯罪やテロ等を起こさせない為でしょう」
領地同士の争いには関与しない代わりに、中立という立場でいるという事か。
「ですので、普通に攻め入る為に行くと言っても問題ありません。それに領主であるマサキ様直々に赴くので、止められる事等ありえません」
「なるほど。それならこのまま進むとしよう」
俺達は関所に向かい再び歩き出した。
数分歩くと関所に着いた。
城壁に重々しい扉が付いていて、その横に砦の様な建物がある。
そして砦の横に小さな詰め所があり、そこで身分証の確認や持ち物検査等をやっていた。
俺達が詰め所に近寄ると、二人の衛兵がやって来た。
「身分証の確認等するので、こちらまで来てください」
一人がそう言い、俺達を先導する様に前を歩く。
もう一人は俺達の後を着いてくる。
二人で挟み込む事によって、逃げられない様にしているのだろう。
やがて詰め所に着き、中に入る様に促され、中に入る。
中には数人の衛兵が居り、その中でもリーダーと思われる初老の衛兵が説明を始めた。
「国を出る際にも身分証の確認と荷物の検査をさせて貰います。荷物を全てそこのテーブルに置いてください」
言われた通りに荷物を置こうとすると、サーシャが衛兵に向かって言い放った。
「こちらの方はアルカナ領の領主、マサキ様です。領主にそんな事をさせるのですか?」
サーシャに言われ、初老の衛兵が何やら慌てて紐で閉じられた紙の束に目を通す。
すると、初老の男は慌てて持っていた剣をテーブルに置き、深々と頭を下げて
「アルカナ領の領主とはつゆ知らず、ご無礼の数々誠に申し訳ありません」
「いや、気にしてないから頭を上げてください」
「はっ!」
騎士らしく返事をして頭を上げ、一度敬礼をしてから質問してきた。
「今回はどのようなご用件でグラムス領に?」
ここに来る前に話し合った通り正直に話す。
「アルカナ領がグラムスの侵略を受けたから、その報復に行くところだ」
「そのような事情でしたか。今、門を開けますので少しお待ちください」
そう言って初老の男は他の衛兵に門を開ける様に指示し、しばらくして門が開いた。
「私たちは中立の立場故ここまでしか出来ませんが、道中お気を付け下さい」
そう言って再び敬礼する。
そして俺達は門を通り、グラムス領に足を踏み入れた。
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