第22話 リーン

 俺が席に戻るとリーンがお礼を言ってくる。


「私等の為にありがとうございます」

「お礼なんていいよ、一緒に食べた方が美味しいだろ?」

「マサキ様は優しいのですね」

「俺は俺のしたい様にしてるだけだよ」

「それが出来る人は少ないです」


 そう言ってリーンが少し暗い表情を見せた。

 過去に何かあったのだろうか? だがここでそれを聞いても何も出来ない。

 話題を変えなないと。


 「リーンは好きな事とか無いの?」

 「特にありません。あっ、でもマサキ様と一緒にいると落ち着きます」

 「ありがとう」


 話題を変えるつもりが、かえって気を使わせてしまったな。

 こんな時気の利いたセリフとか言えればモテるんだろうなぁ。

 そんな事を考えていると


 コンコンッ


 と、ドアをノックする音が聞こえた。


 「きっと食事を持って来たのでしょう。私が出ます」


 そう言ってリーンはドアを開けた。

 食事を持って来たメイドから台車を受け取り戻って来た。


 テーブルの横に台車を止めて食事を配膳する。

 普通に配膳しているだけなのに妙に色っぽく見えてしまう。


 リーンの醸し出す雰囲気がそうさせているのだろうか。

 配膳が終わり、リーンも席に着く。

 

「それではお召し上がりください」

「いただきます」


 リーンは最初こそ遠慮がちに食べていたが、最後の方は俺と他愛ない会話をしながら楽しそうに食べていた。


 食事が終わり風呂に入ろうとしたらリーンに止められた。


「マサキ様、もしかしてお一人で湯浴みするおつもりですか?」

「ソオヘに居る間は問題ないんだろ?」

「そういうことではありません。今日は私がお世話をしますと言ったのお忘れですか?」

「もしかして、リーンも一緒に入るのか?」

「当然じゃないですか。色々お世話しますと言ったではありませんか」

「いや、でも……」

「私ではダメですか?」

「とんでもない! ただ照れくさいなって思って」

「慣れてください。それでは準備しますので先に入っててもらえますか?」


 リーンに促され仕方なく風呂に入る。

 しばらくしてリーンも入ってきた。


 リーンの身体に思わず見入ってしまう。

 胸は張りがあり、お椀型をしている。


 腰のラインも想像していた以上だ。

 くびれから腰にかけての曲線が堪らない。

 足もスラッと長く、身体全体で誘惑している様に錯覚してしまう。


「それではマサキ様、こちらにどうぞ」


 言われるがままに椅子に座る。

 サーシャの時の様な洗い方ではなかったが、タオルを使わずに全て手で全身を撫でていく。


 手が背中から前へ移動し下半身も丁寧に洗われた。

 当然俺の分身は大きくなってしまったが


「逞しいですね。でももう少し我慢してください」


 と耳元で囁かれ、理性が壊れそうになった。

 いつものように今度は俺が背中を流すと申し出るとやんわりと断られた。


 そんな生殺しの入浴を終えて今はベッドで休んでいる。

 リーンも俺の隣に座っている。


「さっきはありがとう」

「いえ、私の方こそ折角のご厚意を断ってしまってすみません」

「気にしなくていいよ、俺もいつもの癖でやろうとしただけだから」

「はい」


 何だか雰囲気が暗くなってしまたな。

 今度こそリベンジだ。


「そうだ! マッサージしてくれないか?」

「アソコのマッサージですか?」

「ち、違うよ! 普通に肩とか揉んで欲しいだけだから!」

「ふふ、冗談です。かしこまりました」


 そう言って俺の後ろに座り、肩を揉み始めた。

 さすがと言うべきだろうか、凄く気持ちいい。


「どうですか?」

「凄く気持ちいいよ」


 しばらく肩や腰を揉んで貰った。

 風呂では駄目だったけど肩を揉む位なら大丈夫だろう。


 「今度は俺がリーンの肩を揉んであげるよ」

 「嫌!」


 完全に拒絶されてしまった。

 さっきまではいい雰囲気だっただけにショックを隠せない。


 「あの、ごめ……申し訳ありません」

 「い、いや、俺も調子に乗りすぎたから」


 気を使わせない様に精一杯の笑顔を作る。

 しかし、リーンの表情は暗いままだ。

 俯き、暗い表情のままリーンが話し出す。


「本当にマサキ様が嫌という訳ではないんです。ただ私の背中を見られたくなくて」

「それで風呂でも断ったのか」

「申し訳ありません」

「理由を聞いてもいいかな? 俺、これでも領主だから何か力になれるかもしれないし」


 少しの沈黙の後リーンが語り始める。


「私は幼い頃に母親を亡くし奴隷になりました。奴隷の生活に特に不満はありませんでした。一生奴隷のままで終わると思っていたのですが、ヴァギールの領主がタクミ様に変わり、その生活も一変しました。タクミ様は奴隷に厳しい方で、毎日が苦痛の連続でした。そんなある日、私がタクミ様の目に留まり、タクミ様に買われました。タクミ様は色好きな方で沢山の女性を側室に迎え入れていました。すぐに私もその中の一員になったのだと気づきましたが、また地獄の様な日々に戻りたくないという思いから、タクミ様を受け入れる決心をしました。そして私とタクミ様の初夜の時、タクミ様は私の背中を見てその場で奴隷の立場まで落とされ、売りにだされました。そんな私を買って頂いたのがこの宿のオーナーです。そのオーナーに恩返ししようと頑張ったのですがこの有様です」


 必死に背中を隠していたのはまた奴隷に落とされてしまうんじゃないかという恐怖からだったのか。

 しかし巧の奴やりたい放題だな。


「もしよかったら背中を見せてくれないか?」

「ダメです! 背中を見たらマサキ様もきっと私を軽蔑します!」

「軽蔑なんてしない! 領主の名に懸けて誓う。それじゃダメか?」


 リーンは自分の身体を抱いて震えている。

 当たり前だ。トラウマをもう一度晒せと言っているのだから。


 しばらくしてリーンが立ち上がり俺に背中を向けた。

 そして着ていた服を徐々に脱ぎだす。


「これが私の背中です……」


 服が全部脱ぎ捨てられ背中が露わになった。

 その背中には大きな火傷の痕があった。


「この火傷の痕はいつから?」

「小さい頃家が火事になりその時についた物です」

「……」

「軽蔑しましたよね……、私はこれで失礼します」


 そう言って部屋から出ようとしたリーンを無理やり引き止めて後ろから強く抱きしめた。


「言っただろ? 軽蔑なんてしないって」

「ですが、こんな傷がある女は嫌ですよね」

「嫌だったらこうして抱きしめたりしないよ」

「……」

「今まで辛かったな。でも俺の前では強がらなくていい! 俺はこんな事で人を嫌いになんてならないし、軽蔑なんかもしない!」

「……ぐすっ」


 一旦抱きしめていた腕を離しリーンをこっちに向かせる。

 リーンが火傷のせいでどれだけ辛い思いをしてきたのかは分からない。

 だけど俺に出来る事がまだある。


「背中の傷を消してみせる」

「そんな事出来る訳ない……!」

「俺はアルカナ領の領主の正樹だ。任せろ!」


  ≪火傷の痕が消える確率100%≫


 俺はそう念じてスキルを使った。


 「あつっ!」


 リーンの背中が淡く光る。

 そして光が消えると、火傷の痕も消えていた。

 よかった、成功したようだ。


「無事に傷が消えたよ」

「そんな、嘘よ!」

「なら自分の目で確かめてごらん?」


 リーンを壁に掛けられた鏡の前へ誘導する。


「鏡で確認してみてよ」


リーンは半信半疑で恐る恐る背中を鏡に映す。


「えっ!?」

「どう? ちゃんと消えてるだろ?」

「そんな、一生消える事は無いって言われてたのに……」

「俺には特殊な力があってね。その力で傷を消したんだ」

「こんな奇跡のような事が……」

「これからは自分に自信を持って自由に生きればいい。アルカナに行ってエリーって子に俺の名前を出せば良くしてくれるはずだ」

「マサキ様……私は自由になってもいいのでしょうか?」

「今まで理不尽な扱いを受けてきたんだ、もう自由になってもいいとおもうよ」

「マサキ様、私……私……」


 リーンは今まで我慢してきた分もとばかりに泣きじゃくった。

 俺はそんなリーンを優しく抱きしめて、泣き疲れたリーンと一緒に眠りに落ちた

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