第17話 侵略

 朝食の時も一悶着あった。

 サーシャが『マサキ様、あ~ん♡ 』とやってきたのだ。

 それを見た鞘華が『私も! はい、あ~ん♡ 』とやってきて、それらを宥めるのに苦労した。


 そんな朝食を終え今はリビングでこれからどうするか話し合いをしている。

 エリーの話だとヴァギールが攻め込んでくるかもという情報だ。

 それに対しての対策会議である。

 

「やはり攻められる前に攻めた方がいいと思います」

「私もそう思うわ」

 

鞘華とサーシャが攻めた方がいいという意見だ。

 敵が攻めてきて街にまで入ってきたら犠牲者がでるかもしれない。

 犠牲者を出さない為にこちらから先制攻撃で相手を倒すのが理想だ。

 しかし、こっちの戦力はサーシャ一人だ。

 しかもレベルは多分1か2だろう。

 この状態で攻め込んでも負けるのは必至だ。

 まずは戦力を何とかしないと。


「攻め込むのはいいが戦力はどうする? 領地争奪戦での戦闘は奴隷しか参加出来ないし、今はサーシャだけが戦力だ。しかもまだレベルが低い」


 二人が『確かに』と頷いていた。


「戦力拡大の為に他の奴隷を買うのはどうだろう?」


 手っ取り早い戦力拡大として提案してみたが


「私は嫌! 前も言ったでしょ? むさ苦しいのは嫌なの!」

「私もちょっと……、他の男性と一緒なのは嫌です」


 二人から却下されてしまった。

 俺としても屈強な男達に囲まれるのは嫌だったので却下されても問題はない。

 そして、もう一つの案を提示した。


「サーシャのレベルを上げよう」


 俺の至極単純な提案に二人は


「レベルを上げる事自体には賛成です」

「付け焼刃って感じのレベルだと上げても余り意味ない気がするわ」


 今からレベルを上げてもたかが知れてる。

 二人は俺の想像通りの反応を見せる。

 しかし、俺には秘策があった。


「確かに、今からレベル上げしてもたかが知れてるかもしれないが、俺には秘策があるんだ」

「秘策、ですか」

「どんな作戦なの?」


 二人の注目を集めてから俺は言った


「俺が敵を倒す!」


 某マンガならドンッ! という文字が入る様に言い放ちサムズアップする。


「えっと……」

「はぁ?」

 

 二人の様子を見ると

 サーシャは何だかオロオロしている。

 鞘華は指でこめかみを押えている。

 何かおかしな事を言っただろうかと考えていると

 

「それって秘策でも何でもないじゃない! 普通のレベル上げでしょ! 」


 サーシャも申し訳なさそうに頷いている。


「最後まで聞けって。これには普通じゃあり得ない程簡単かつ高レベルになる仕組みがあるんだよ」

「へー、そうなんだ! すごいね!」

「ちゃんと聞いてくれって。この秘策はな……」


 ガチャッ!?


 俺が秘策について説明しようとした所で勢いよくドアが開き、その勢いのままエリーがリビングの中央までやって来た。

 エリーがノックも無しに入って来た事に驚いたが、それ以上にエリーの表情が強張っている事に気づいた。

 いつも笑顔…とまではいかないが、エリーがこんな表情を見せるのは初めてだ。

 嫌な予感を感じながらエリーに尋ねる。


「どうしたんだ? 何かあったのか?」


 エリーは俺達を一瞥して


「ヴァギールの兵が攻めて来ました」


 その言葉を聞き、俺達は顔を見合わせた。

 鞘華がエリーに問う。


「敵は今何処にいるの?」

「先ほどアルカナ領の草原地帯に入ったとの事です」

「マズイわね。もう少しで街まで来ちゃうじゃない」


 街に入られたら犠牲者が出るかもしれない。

 街に到着する前に決着を付けないと。


「よし、俺達も草原に向かおう。絶対に街に入れちゃダメだ」

「そうね、行きましょう」

「はい、頑張ります」


 俺達は敵を迎え撃つ為に草原へと急いだ。


 草原に到着したがまだ敵の姿は見えない。

 俺達も敵を発見すべく草原を進んでいる。

 小高い丘を超えた所で足を止め、待ち構えるようにした。

 鞘華が近くにあった岩に腰掛けながら

 

「どうやって追い返す?」


 最もな意見だ。

 しかし、何も考えずにここまでやって来た訳じゃない。

 

「大丈夫だ、秘策がある」

「さっき話してたやつ?」

「さっきとは違う秘策だよ」

「今度はまともな作戦なんでしょうね?」


 ジーッと見つめながら聞いてくる。


「サーシャのプログラム解除ができたから上手くいくと思う」

「私がどうかしましたか?」

 

 自分の名前が出た事でサーシャが反応した。


「今回はサーシャは此処で立ってるだけでいいぞ」

「え?」


 立ってるだけでいいと言われ、ぽかーんとしている。

 俺の言葉を聞いて鞘華が


「プログラム解除と今回の戦闘にどんな関係があるのよ?」


 そう聞いてくる鞘華に対して俺は誇らしげに説明する。


「領地同士の争いには奴隷しか参加できないって事は知ってるよな? だから俺達はサーシャを引き取った。そのサーシャにプログラム解除ができたのは今朝の事で確認してる。そして、攻めてきている兵は皆奴隷だ。なら、その奴隷達のプログラムを解除しちゃえば襲って来なくなる可能性がある」


「なるほどね~、でも、解除しても襲ってくるかもよ? サーシャが正樹に夢中になったみたいに」

「大丈夫だと思う。サーシャには自我を与えたけど敵はプログラムを解除するだけで自我は与えない。鞘華の言う所のただの人形になる」

「それじゃあこの場にサーシャ要らなかったんじゃない?」

「これも領地争奪戦だからサーシャが居ないとこの作戦ができない」

「そっか、サーシャは戦わないけど一応戦闘だものね」

「そういうこと」


 俺の作戦を鞘華に伝え、納得したようだ。

 でも、鞘華の言う通り戦闘だ。

 サーシャには此処で立ってるだけじゃなくて最前線にいて貰った方がいいか。


「サーシャ、やっぱり戦闘の最前線にいてくれないか?」

「わかりました」

 そういって数歩歩いて、俺と鞘華を背負う位置に移動した。

 サーシャが振り向き


「敵が見えてきました!」


 敵を視認した事を伝えてくる。

 俺はサーシャにそのまま待てと指示したあと鞘華も近くに来るように伝える。

 

 敵は俺達を捉えた様で、真っすぐこちら目掛けてやって来る。

 数はおよそ三十といったところだろう。

 先頭のリーダーとおぼしき奴隷は背が高く赤髪の坊主頭をしていた。

 果たして会話は出来るだろうか? 誰の命令で動いているのか聞き出したい。

 俺達と対峙した瞬間に攻撃を仕掛けてくる可能性もある。

 

       ≪敵の攻撃を受ける確率0%≫


 念のためにスキルを使っておく。

 そうこうしている内に敵が目と鼻の先まで来ていた。

 サーシャは昨日渡した銅の剣を構えている。

 鞘華も半身になり、何かの構えのような立ち姿だ。


 敵は俺達と二メートル程の間を空けて立ち止まる。

 リーダーとおぼしき赤髪の男が声を上げた。


「お前達アルカナの奴だよな? 領主は何処にいる?」


 俺が領主と気づいていないみたいなので色々聞いてみる事にした。


「領主に何か用ですか?」

「あぁ? マサキって奴を殺せって命令が出たんだ。領主なんだろ?」

「マサキは領主ですが殺すなんて……、一体誰の命令なんですか?」

「んなの決まってんだろ、タクミ様だよ」


 エリーの話は本当だったのか。

 巧が俺を殺そうとするなんて……。


「巧…様はどうしてその様な命令を?」

「さぁな。噂じゃタクミ様の恩人の頼みだとか聞いたが俺らには関係ねぇ。命令されればそれを実行する。ただそれだけだ」


 巧の恩人?

 まさか将嗣の事か?

 この世界に転移させて欲しいと頼まれたと将嗣が言っていた。

 だとしたら……!?


 考えを纏(まと)めようとしていた所を太い西洋の剣の様な物が俺の鼻先を通った。


「チッ、仕留めたと思ったのによ」

「マサキ様!」

「正樹大丈夫?」


 今俺は攻撃されたのか。

 スキルをあらかじめ使っていなかったら今の一撃で死んでいた。


「ああ、大丈夫だ」

 鞘華とサーシャに無事を伝え


「いきなり攻撃するなんてどうしたんですか?」


 赤髪の男に問いかけたが「はっ!」と鼻で笑い


「お前がマサキなんだろ? 聞いていた特徴そのままだ」


 最初から気づいていて、敢えて会話する事で隙を作らせたのだろう。


「しっかし、隙を突いた一撃を躱されるとは思わなかったぜ」

 

 そう言いながら赤髪の男は剣を二度三度振るう。

 しかし俺には一切当たらない。

 その事に違和感を感じたのか攻撃が止んだ。


「お前、何をした?」

「何も。見ての通りただ立ってるだけだよ」


 俺の言葉に激昂したのか、今度はサーシャ目掛けて剣を横薙ぎする。

 しかし、サーシャにも攻撃が当たらない。

 

「どうなってやがる!」


 赤髪の男が叫ぶ


「お前達じゃ俺を殺せない。一端引き下がってくれないか?」


 いくら攻撃が当たらなくても戦闘はなるべく避けたい。

 そう思い提案を口にしたが、赤髪の男はニヤリと笑い


「周りを見てみろ」


 言われ周囲を見渡すと、丘を背に、ぐるりと囲まれていた。


「かかれーー!」

「「「うおおおおおお!!」」」


 赤髪の男の合図で俺達を囲んでいた男達が一斉に攻撃を仕掛けてきた。


 ある者は剣で

 ある者は槍で

 ある者は弓で


 あらゆる方向から攻撃が襲い来る。

「マサキ様!」

「きゃあ!」


 サーシャと鞘華も攻撃されているが当たる事はない。

 サーシャは俺を心配してか名前を呼んでいる。

 鞘華は攻撃される度に悲鳴を上げている。

 

 しばらくして攻撃が止んだ。

 攻撃しても無駄だと悟ったのかもしれない。

 赤髪の男が叫ぶ。


「お前ぇ、一体何をした!」

「ただ立ってるだけだけど?」

「んな訳ねぇだろ! こんだけの数の攻撃がカスリもしないんだぞ!」

 

 かなりご立腹のようだ。

 怖い顔がますます凶悪な顔になる。

 怖い! 早く帰りたい!


「攻撃も当たらない事だし、このまま引き返してくれないかな?」

「そんな訳いくか! 争奪戦は決着が着くまで帰れねぇんだよ!」

 

 え? そうなの?

 確認の為サーシャを見ると頷いた。

 どうやら本当らしい。

 

「決着ってどうなればいい訳?」

「どっちかの奴隷が戦闘不能になるまでだ。そんな事も知らねぇで領主やってんのかよ」

「戦闘不能って事は意識を失ったりとかでもいいんだよな?」

「そりゃそうだが、基本は殺し合いだ」

「なるほど」


 ここに居る敵全員を気絶させればそれで良い訳だ。

 俺達を囲っている敵を端から順にみる。

 その行動が癪に障ったのか、赤髪の男が叫ぶ。


「てめぇ、何やってやがる! 自分の状況分かってんのか!」


 敵を一通り見て、数を確認した後


「お前らの後ろの方に大きな岩があるだろ?」


 取り囲んでる敵の後方にある大きな岩を指さす。


「あの岩がどうしたってんだ」

「今からあの岩を真っ二つに割ってみせる」

「冗談だろ。そんな事できるわけねぇだろ」


   ≪岩が真っ二つに割れる確率100%≫

 

 スキルを使うと同時に指をパチンッと鳴らす。



 ピシピシパキ、バガァーン!?


 まるで指を鳴らしたのを合図に岩が大きな音を立てて真っ二つに割れる。

 その光景を見ていた赤髪の男と部下達は驚愕していた。

 

「今のをお前たちに食らわせる」


 単純な脅迫だがこれで戦意喪失してくれればいいのだが。

 

「お、おい、冗談だろ? あんなの食らったらひとたまりもねぇぞ」


 案外効いているみたいだ。


「なら、戦意喪失って事で負けを認めてくれないかな?」

「そうしたいのはやまやまだが、戦意喪失は戦闘不能とは認められない」

「そうか、なら仕方ないな……」

「待ってくれ! 殺さないでくれ!」


 怯えた表情で必死に命乞いをしてくる。

 俺はゆっくりと手を上げ、皆に見える様に指を鳴らした。


 パチンッ!


 ドサドサドサッ!


 敵が次々と倒れていく。

 そして全ての敵が倒れた所で鞘華とサーシャが駆け寄って来る。


「マサキ様凄いです!」

「ホントに殺しちゃったの?」


 尊敬の眼差しで見つめてくるサーシャと、鞘華は俺が敵を皆殺しにしてしまったのではないかと心配している。


「みんな恐怖で気絶しただけだよ」

「ふぅ、よかった」

「それに今のはスキル使ってないしね」

「そうなの?」

「まあね。最初に大岩を真っ二つにする時指を鳴らしただろ? 指を鳴らす事で大岩が割れた様に見せた。そして、次はお前たちに使うと宣言して指を鳴らす。すると大岩の時の様に自分も真っ二つになるんじゃないかという恐怖でみんな気絶したんだよ」

「へー、そういう仕組みだったのね」


 俺がからくりを説明していると、いつの間にかサーシャが俺の腕に抱き着いていた。


「さすがはマサキ様です。益々好きになりました」

 

 そう言いながら腕に胸を押し付けてくる。

 それを見た鞘華が


「抜け駆けはダ・メ・よ~!?」


 そう言いながら俺からサーシャを引きはがす。


「それより、敵は皆気絶した訳だけど、俺達の勝ちでいいのかな?」

「はい、勝ちました。後は煮るなり焼くなりマサキ様の自由です」

「自由っていわれてもなぁ。普通はどうするんだ?」

「殺すか牢屋に入れて拷問ですね」

 

 どっちもやりたくないなぁ。

 

「とりあえず、牢屋に入れておこう」

「マサキ様がそういうのなら従います」


 巧について色々話して貰わないといけないしな。

 それにしても、こいつらをどうやって街まで運ぼうか。


「こいつらが目を覚ましたら、また襲って来たりするかな?」

「決着が着いているのでその心配は無いと思います」

「なら、こいつらが目を覚ますのを待って街まで歩かせよう」


 一応スキルを使って俺に逆らえない様にしておくか。



 しばらくして赤髪の男達が目を覚まし街の外れにある罪人を収容する場所まで歩かせた。

 スキルを使ったせいか、やたら低姿勢で自ら檻の中へ入っていった。

 一通りの事を済ませ、遅い昼食を食べた後、俺達は再びリビングに集まっていた。



「マサキ様があれ程の力を持っている事に驚きました」

「正樹が本気出したらもっと凄いんだから」


 やたら俺を持ちあげる二人。

 最後の方はどちらの方が俺を好きかの論争になってしまっていた。

 そういうのは俺の居ない所でやって欲しい。


「まぁ、今回はなんとかなったけど、本当に攻めてくるとはな」

「だから言ったじゃない。攻められる前に攻めましょうって」

「そうだけど、やっぱりサーシャにはレベルを上げて貰いたい」

「どうして?」

「唯一戦闘が出来るからだよ」

「でもそんな簡単にレベル上げられないでしょ?」

「普通はな」


 俺には秘策がある。

 上手くいけばサーシャはレベルをカンストしてしまうかもしれない。



 「朝にも言っただろ? 秘策があるって」

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