第17話 クラス担任

 朝礼前 私立翡翠高等学園 職員室


「新君、先生は別に駄目だと言っている訳ではないんだよ」

「……はい」


 ジョーカーが襲ってきた翌日、僕は紅緋の宿る指輪の件で、クラス担任の加藤先生に職員室に呼び出されていた。


 翡翠学園の教室は、例外無く外窓が大きく、自然光が差し込みやすく作られている。また、壁は白色と白緑色を使って屋外のような開放感を醸し出している。

 職員室も同様の作りで、朝の光が窓から入って来て清々しさを醸し出していたが、多くの先生たちはそんなことを気にも止めず、朝礼の支度の為、忙しそうに動き回っていた。


 そんな光景が目に映る中、僕は担任の加藤先生の前に立っている。


「先生、数日前から気になっていたんだが」

「はい」


「その指輪の色は学校にはめてくるには、少々派手すぎるとは思わないか?」

「そ、それは……はい」


「それならば、学校にいる時くらいは外してくれないか? 私が預かっておこう」


 加藤先生は爽やかに笑いながら手を出す。


「すみません。それは出来ません!」

「ん? どうしてだ?」


「それは、少し訳があるので……どうしても、手から離すことが出来ないんです」

「うーん。困ったな」


 いや、困ったのは僕の方だ。こればかりは説明も出来ないし、自分の身から離すわけにもいかない。

 しかし、先生を納得させるために何か良い言い訳を考えないと。


「この指輪はたくさんの思いが詰まったものなんです。だから、むやみに外したりは出来ないんです」

「そうか……まあ校則違反では無いのだからいいんだが、あまり目立たないようにしなさい」


「はい。分かりました。では、失礼します」


 そう言って僕は職員室を後にした。



 新 退室後 職員室


「加藤先生、新君は大人しくて良い子ですし、あれくらいのお洒落は宜しいんじゃないですか?」


 加藤に年配の女性の先生が優しく話しかける。加藤はにこやかに笑った。


「はい。そうですね。御助言ありがとうございます」


 そう言いながら右手で、シガレットケースからタバコを取り出し、左手でライターを手繰り寄せる。そしてタバコに火をつけて口元に運んだ。


「うるせぇんだよ。クソババアが……」


 誰にも聞こえない小声で呟いた。その声に呼応して、何処からか加藤の耳にだけ聞こえる声がする。


「早く喰いたい……」

「分かっている。そうあせるな!」


 加藤先生の口から吐き出された煙が、朝の清々しい空気を汚していた。








 朝礼前 私立翡翠高等学園 一年一組




「それで、新君は何で先生に呼ばれていたのかな?」


 クラス委員長の東雲楓は僕の顔を覗き込むように聞いてくる。


「えーと、それは……」


「なんでもいいだろ!」


 僕が答えに困っていると隣から和哉が助けてくれた。


「楓! お前は余計なことを詮索し過ぎだ!」


「えーっ! だって、クラス委員長なんだからみんなの事をしっかり把握しておかないといけないでしょう?」


 楓は和哉の言葉に少し膨れっ面になりながら反論する。


「まあ、お前の立場も分からないではないが」


「でしょう! だ・か・ら、新君! お姉さんが聞いてあげるから言ってみなさい」


 楓は興味津々の様子で一段と僕に顔を近づいてくる。そんな楓に和哉はうんざりした顔をしながら言った。


「楓、調子に乗りすぎだ!」


 和哉がそう言った瞬間、時間の流れが変わった。


「和哉!」


「ああ、妖魔だな」

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