第15話 未來の能力

 同時刻 私立翡翠高等学園 生徒会室


「とんだ邪魔が入ってしまったわね」


 神凪リサは困った顔で話す。


「はい。お嬢様、その上にかなりの強敵です」


 未來と紅緋を、追い立てるように帰した生徒会室には、和哉とリサと茜、そして浅葱と月白が残っていた。


「そんなことはどうでもいい! それよりも、話の続きだ。未來の心の中にいるのは何だ? あの能力はいったい何なんだ?」


 和哉は二人の会話を苛立ちだった声色で遮った。

 そんな和哉の様子にリサは苦笑する。


「どうでもいいってことは無いんですけど……分かりました。新君のことからお話しましょう」


 リサは一息ついてから話を続けた。


「正直に言いますと、私たちもよく知らないんです。少なくとも新君に何か宿っていることは知っているのですが、何かまでは……」


「どうして、未來に何か宿っていると知ったんだ?」

「それは彼の今まで生きてきた履歴を、全て調べさせていただいたからです」


「そんなこと出来るのか?」

「はい。うちの会社のデータベースで調べれば可能です」


「なんで未來を調べようと思った?」

「それは……えーと……その〜……」


 リサは突然、挙動不振になり、顔を赤らめて言葉も出てこなくなった。そんなリサを茜と月白はニヤニヤしながら眺めている。


「まるでストーカーだな」


 和哉はぽつりと呟く。


「ち、違います! 私は純粋に彼のことが好きなだけです!」


 リサは勢いで言った後、すぐに湯気が出そうな程顔を真っ赤にして涙目になる。


「………………」


 そんなリサを、和哉は氷のような冷たい目で見ていた。リサは涙目のまま咳払いを一つして話を続ける。


「私の個人的感情は置いておいて、彼に何か宿っていると思ったのは小学生時代のある事件があったからです」

「事件?」


「そうです。新君は小学一年生の時のある一日、行方不明になっているんです」

「誘拐されたのか? …………かわいいから……」


「詳細は分からないのですが、警察とか近所の人とか出てきて結構な騒ぎになって、結局二十四時間後にリビングで寝ているところを発見されたらしいです」

「で、その事件と、何か宿っている事とはどう関係があるんだ?」




 リサの顔の赤らみも消え、和哉と向き合って真剣な顔で話す。


「その日以降の新君は、別人のように知力、運動能力が飛躍的に伸びたのです」

「はぁ? でも今の未來は全てが普通じゃ……」


「そこなの。彼の能力が飛躍的に伸びた事で、周りが騒ぎ出した途端に彼の能力は普通に戻った。周りの人らは特殊な環境に置かれた為に、一時的に新君の能力が上がったのだろうと思ったようね」


「それで、あんたはどう考えているんだ?」

「私はその事件は妖魔界か、精霊界のどちらが起こした事だと思っているの。こちらの時間では二十四時間だけど、もし新君がどちらかの世界に連れ去られたとしたら?」


「一秒が約二時間だから……約二十年か……」

「そう。何のために二十年もの間どちらかの世界に行っていたのか? もしかしたら、その間に新君の心に何かが宿ったのか?」


 リサは頬に手を当てながら小首を傾げる。それを見て月白が答えた。


「どちらにしろ、少年のあの能力を見る限り、重要な秘密を心に抱えているに違いはないであろう。しかし、問題なのは、何故ジョーカーが少年のことを知っていたかだ」

「月白、あのジョーカーっていう奴って何者なの?」


 茜が月白に聞く。


「妖魔界序列十三位 ジョーカー。妖魔界の上から十三番目の地位にいる。ただ、自由気ままな男で誰の言うことも聞かない、その上に顔を道化師のメイクで隠し、素顔を見た奴もいないという位に正体不明な妖魔だ」


「それでジョーカーが未來に固執している理由はなんなの?」


 真剣な様子で話す月白に茜が迫る。

 そんな茜の頭を、和哉は手でつかんで自分の方に向かせた。


「ジョーカーよりも、ガキんちょ! おまえたちが未來に近づく理由はなんだ?」

「ガキんちょ言うな!」


 茜が和哉の手を払い退ける。

 その和哉の問いにリサが答えた。


「覚醒するかしないかは新君次第なんだけど、私たちはそれを見守らなければいけないと思うの」


「それで、覚醒した未來はお前たちの手で捕らえられ、お前たちの会社に連れて行かれて被検体になるのか?」

「私たちは違う!」


 和哉の言葉に、珍しくリサが声を荒げた。


「確かにお父様は、精霊や妖魔の持つ能力を科学で応用し、お金儲けに利用しようとしている」

「でも、私たちは違う。私たちは新君に覚醒して欲しいという気持ちと、同時に覚醒して欲しくないという矛盾した気持ちを持っている。何故なら、もし悪い方に覚醒したなら私たちはそれを排除しなければならない。それがどういう意味かは御代志君にも分かるでしょう」


「……分かったよ。とりあえずはおまえたちを信じることにしよう」


 和哉はリサの真剣な表情に、理解を示し穏やかに続けた。


「で、これからどうするんだ?」

「私は茜と月白で、妖魔界の動きとジョーカーの居場所を調べるわ。あなたと浅葱さんは新君を全力で守って欲しい」


「分かった。因みに未來のことを調べたって事は当然、俺のことも調べてあるんだろうな?」

「ええ、そうね」


 冷めた表情で問う和哉に、リサは固い表情で答える。


「何を調べたかは知らないが、絶対に未來には話すな!」

「わかっているわ。でも、あなたは本当にそれでいいの?」


「いいとは思っていない。いずれ機会があれば話すつもりだ」

「そう…………」


 リサは和哉の言葉を聞いて伏せ目がちに俯いた。


 生徒会室の窓から入っていた夕陽の光はすでに無くなり、話しているリサと和哉がどういう表情をしているのかさえ見えなくなっていた。

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