第13話 思いと覚醒?
「未來、私に任せて!」
指輪のままの紅緋が僕に話し掛けた。
「でも、あいつの言いなりになるのは危険だよ!」
「大丈夫! 私に考えがあるから」
確かにジョーカーっていう妖魔は強い。だから紅緋には危ない事をして貰いたく無いし、させたくも無い。でも、この現状を打破する方法を紅緋が思いついたのなら!
「紅緋! お願い!」
僕は真っ直ぐに右手を突き出し、紅緋を呼び出す。紅緋はいつものように紅いローブーツで軽やかに舞い降りた。
「で、考えっていうのは?」
「まあ、見てて!」
そう言うと紅緋は一回、二回、三回とバク転をし、後方に下がり浅葱に声をかけた。
「浅葱ちゃん! 私が元いた場所にエナジーウォールを出して!」
「えっ、どうするつもりなの! 紅緋!」
「いいから、いいから」
心配そうな浅葱に対して、ニコニコ笑っている紅緋。
「どうなっても知らないわよ!」
「エナジーウォール!」
浅葱は元紅緋がいた辺りに、青緑色の透明な円盤状の壁を作り出す。その間に炎の短剣を出していた紅緋は、左手を曲げ顔の前に肘を突き出し、炎の短剣は腰の後ろに隠して勢い良くエナジーウォールに突進していった。
「まずいな! 未來、紅緋を止めろ!」
和哉が厳しい顔で僕に言う。
「えっ、どうして?」
「エナジーウォールは外側だけで無く、内側もエネルギー障壁になっているんだ。あのままエナジーウォールにぶつかると紅緋の身体にも影響が出るぞ」
僕は和哉の言った事に驚き、慌てて紅緋の方を見ると、紅緋は既にエナジーウォールに到達していた。肘を支点にエナジーウォールがドーム状になり、ジョーカーの放ったボールの爆発の影響を受けずにジョーカーに向かって行く。
確かに、紅緋の考えたアイデアは現状を打破することが出来た。
しかし、その代償としてエナジーウォールは接している紅緋の肘を火花を散らしながら削り取り、耐え難い痛みを紅緋に与えている。
「紅緋!」
僕はいてもたってもいられず紅緋に向かって走り出す。
「あ、あの馬鹿! 生身の人間が行ったら死ぬぞ!」
和哉も僕を止める為に走り出すが、止めた手が届かずに僕は紅緋のいるドーム状のエナジーウォールの中に入った。
「えっ、未來?」
紅緋は驚いた顔で僕を見る。僕は小さく頷いて紅緋が肘を当てている所に左手の掌を当てる。
「ダメだ! 未來!」
紅緋の悲鳴に似た声が耳元で響く。それと同時に肉の焦げるような嫌な匂いと、猛烈な痛みが脳の中に突き刺さる。僕はその痛みに負けないように大声を上げた。
「うおぉぉぉーーーーーーっ!」
大声を上げたせいなのか、それともあまりの痛みに脳が麻痺しているのか、徐々に痛みが消えていく。
僕と紅緋を取り巻くように守っているエナジーウォールの青緑色の壁に、僕の掌から出ているであろう血液がまるで赤色の花びらのように散って後方に流れていた。
「未來!」
「未來!」
「未來君!」
みんなの叫び声がだんだん小さくなっていき、やがて僕の意識から離れ始めた時に異変は起こった。
僕の手が青白い光に包まれ、みるみるうちに手の傷が治っていく。そしてその光はエナジーウォールを、僕の掌と紅緋の肘から離しジョーカーに向かって押し進めていった。
「未來! どうしたの!」
紅緋は信じられないという顔で僕を見ている。
「僕にも分からない」
エナジーウォールはジョーカーの放ったボールを処理して、ジョーカーの目前に迫っている。ジョーカーは僕の手を見て少し驚いた顔をした後、さも楽しそうに笑った。
「これはこれは、良いものを見させていただきました。しかし、四対一では少々こちらの部が悪いですね」
そう言っている間にも、エナジーウォールがジョーカーに到達して、ジョーカーの顔のペイントの一部と丸くて赤い付け鼻が剥がれ落ちる。そこから覗かせるジョーカーの顔は、色白で目はクリアなブルーでキリッと鋭く鼻筋はシャープに伸びている。
「おっと、醜い素顔をさらしてしまいそうなので、一旦、退却させていただきます。決着は後日ということで」
ジョーカーはそう言うと、ペイントの剥がれた部分を手で隠し、天井の隅に下がって行き次第に天井の色に溶け込んでいく。
「ま、待て!」
僕の声も虚しくジョーカーは消え去っていった。エナジーウォールは徐々に小さくなって消えていき、僕の手の青白い光も消えていった。
「大丈夫⁉︎」
紅緋は真っ先に僕の手を取り、表を見たり裏返して見たりして大丈夫かどうか調べている。
「う、うん……何か分からないけど大丈夫みたい」
僕自身もいったい何がおきているのか理解出来ない状態なんだけど、あれ程、手の肉が焼け、血が飛び散ったはずなのに今現在の僕の手は元のままで傷一つ付いていない。
「無茶しやがって!」
和哉が近づいてきて僕の頭を小突く。そして神凪生徒会長と茜、そして月白が心配そうな顔で僕に近づいてくる。
「紅緋が苦しそうな顔をしているのを見てたら、いてもたってもいられなくって飛び出しちゃった」
「バカヤロー!」
和哉は僕の頭を自分の肩に寄せる。そんな和哉の姿を見ていた浅葱も紅緋に向かって言う。
「紅緋〜! あんたもいい加減にしなさいよね。エナジーウォールに触れるとどうなるかなんて知ってるでしょ!」
「えへへ……でも私は怪我したって舐めておけば大丈夫だから!」
苦笑いしながら紅緋は、怪我している肘をペロッと舐めている。
僕はそんな紅緋を見て言った。
「そうはいかないさ。紅緋は僕のパートナーだから、紅緋が苦しい時は何も出来ない僕でも少しくらいは役に立たないと。それから今回みたいな無茶な戦い方は止めて欲しい。紅緋がいなくなりそうで心配になるよ」
紅緋は僕の言った事を静かにじっと聞いていた。そしてうつむきかげんで小声で答えた。
「……ごめん。……未來、これからは気をつける」
「まあ、さっきの事はそれくらいにして、新君も紅緋ちゃんも疲れたでしょう。後のことは私たちに任せてあなたたちは帰って休みなさい」
神凪生徒会長はつとめて明るく振る舞いながら話した。
「えっ、でも、まだあの妖魔はいるんじゃ…………」
そんな僕の言葉を和哉が遮ぎる。
「いいから、お前はそんなこと気にせず今日は家に帰ってゆっくり休め!」
そう言いながら、僕と紅緋を生徒会室から追い立てた。
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