第9話 お風呂トーク
夜 新邸 風呂場
僕は湯船に肩までつかり、頭を湯船の縁に乗せお風呂の天井を見上げる。
一辺が160センチ、もう一辺が200センチで、壁、床、天井がクリーム色に近い白色のユニットバス。浴槽に溜めたお湯が湯気となり、お風呂場を心地よい温度に温めてくれる。
その心地よさに心身をリラックスさせながら、昨日からの事を思い返してみる。
紅緋と出会って、精霊という存在を知って、目の前に蜘蛛の化物が現れて、妖魔の存在を知る。
そんな一連の流れのなかで、僕も妖魔と戦うことになった。
それだけで、十分に、僕が今まで生きてきた常識からは程遠い事なのに。
神凪生徒会長や茜まで、この件に関与しているなんて驚き以外の何物でもない。
「夢じゃないんだよなぁ」
僕の右手の中指には、今も紅色の指輪がはめられている。
湯船から上る湯気の揺らめく様をぼーっと眺めていると、指輪から声がした。
「未來、今、いいか?」
「えっ! な、なに⁉︎」
紅緋はそう言うと本来の姿に戻り、湯船の水面の少し上からダイブする。
紅緋がダイブしたおかげで、水面が盛り上がり僕の顔に大量の水が掛かった。
「うわっ〜! な、何するんだよ!」
「あははは、ごめんごめん」
紅緋は楽しそうに笑っている。僕はそんな紅緋の姿を見て、目のやり場に困った。紅緋はいつもの衣服を着ていなくて、紅色のビキニを着ていたからだ。
紅緋は肌が透き通るように真っ白で、細身ながら胸もこじんまりとはしているが出ているし、腰のラインは鍛えられているのかしっかりと絞られて、お尻も小さめだが可愛く膨らんでいる。
「えーと、本当は全裸で入らなきゃいけないんだよね。分かっているんだけど恥ずかしくって、水着でごめんね」
紅緋は下を向いて真っ赤な顔をして言った。
「いや、ごめんねじゃなくて、水着の女の子と一緒にお風呂に入るだけでも僕にとっては十分にドキドキするイベントだよ!」
「未來、私を見てドキドキしてくれるの?」
「う、うん。……っていうかどうして今出て来たの?」
「それは……精霊界の学校でこの世界の事を学んだ時に、お風呂っていうお湯のいっぱい溜めた中に、着物を全て脱いで入る国があるって聞いて一度は入ってみたいって思っていたの」
「へーっ、精霊界にも学校があるんだ」
僕と紅緋は、湯船の中で向かい合って座り話を始めた。
「そうだよ。私は同学年の中では結構優秀な方だったんだよ」
「へーっ、そうなんだ」
「でもね、中々こちらの世界に来ることは許可されなかった」
「どうして?」
「先生たちが言うには、私は真面目過ぎるんだって」
そう言いながら、紅緋は手でお湯をすくって湯船の上で、指の隙間からお湯の落ちる様子を楽しんでいる。
「あの生徒会長も言っていたけど、私たち精霊は幼少期の人に宿る。でも、どんなに幼少期に心が澄んでいても成長する度に心は汚れていく」
「それはしょうがない部分もあるんじゃないかな、生きていく上で色々な経験もするだろうし」
「先生たちの言うには、そのしょうがない部分が私を苦しめるだろうから、こちらの世界に来ることを許可しなかったんだって」
今度はタオルに空気を入れ、湯船に沈ませぶくぶく気泡を出して遊んでいる。
「だから、私は他の同級生たちが先にこの世界に来て活躍している姿を、精霊界で見ているだけの落ちこぼれだった」
「落ちこぼれって、優秀だったんだよね?」
「うん。優秀な落ちこぼれ」
紅緋はくすくす笑いながら答える。
「でもいいんだ。こうして人間界に来て、未來にも会えたから」
そして、紅緋はひとしきり湯船で遊んだ。
「あー、面白かった! それじゃあ、そろそろ戻るね」
そう言って指輪に戻っていった。
優秀な落ちこぼれ……か。
僕は、指輪に戻っている紅緋を見ながら思う。
僕と出会えた事を喜んでくれる紅緋に、今だこの現状に戸惑いを感じている僕が、してあげられる事は何だろうって……。
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