第3話 精霊使いと妖魔使い
私立翡翠高等学園 一階と二階の踊り場
「あ〜! 緊張した!」
今しがた、未來の教室から出て来た神凪リサは、生徒会室に戻るため階段を上った途中の踊り場で待っていた、まだあどけない顔をした小柄で学園の制服を着ている女の子と会話している。
「首尾はどうですか? お嬢様?」
「茜〜。何とか上手く話せたと思う。しっかりと放課後に生徒会室に来てくれる約束もしたし……」
「それは良かったですね。お嬢様」
「うん」
リサは少し頬を赤らめながら嬉しそうにしている。
リサの新未來に対する思いを知っている茜にとって、こんなにも気持ちが高揚している状態のリサを見れるのは嬉しいかぎりだ。
そんな周りをピンク色に染めてしまいそうな会話を交わしている二人に、階下から冷めた声が飛んだ。
「ちょっといいか!」
二人が階下を見下ろすと、そこには御代志和哉が立っていた。
「少し質問があるんだが」
「なんでしょう?」
「世界企業SINグループCEOのご令嬢が未來に何の用があるんだ?」
「御代志和哉君ね、貴方の事は聞き及んでいます。貴方のファンは私たち上級生にもたくさんいるわよ。でも、貴方は女の子にまったく興味が無い。それなのに私のことを知って下さっているなんて光栄ですね」
「それは間違いだな。俺は女が苦手なだけで興味が無いわけじゃない。まぁ、お前自身には何の興味も無いけどな。ただ、SINグループCEOの令嬢となると話は別だ。電子部品から医療機器、軍事兵器から宇宙開発まで色々な分野に手を伸ばしているお前らが未來に手を出すとしたら黙って見すごす訳にはいかないからな!」
「わ、私は別に…………」
リサの話しを、茜と呼ばれた隣の小さな女の子が制する。
「下がってくださいお嬢様! あやつは精霊持ちです」
茜はリサの前に立ち左手を前に突き出す。
「
その声に呼応して、左腕にはめられていた白い腕輪ブレスレットが輝き出し、体長3メートルはあろうかという真っ白な虎が忽然と姿を現した。
和哉は驚いた表情で身構える。
「ガキんちょ! お前は妖魔使いか!」
「ガキんちょ言うな! お前と同じ歳だぞ!」
「ええええっ! そうなのか?」
和哉は真っ白な虎が出てきたときよりもさらに驚いた顔を見せる。
「真顔で驚いてるやがるなんて! 許さない!! 行け! 月白!!」
月白と呼ばれる真っ白な虎は、ひと声吼えて屈強な四肢で踊り場から階下へ滑るように空中を駆け下り、和哉に牙をたてようと襲いかかる。
しかし、和哉は意に介した様子も無く、制服の胸元からチェーンネックレスを引き出し、その先に付いている浅葱色の石を手の平に乗せて一言発する。
「
和哉の声に合わせて青緑色の腰まで届く長髪に、青緑色の透き通るような瞳、細身の身体を覆う青緑色の飾りっ気の無い清楚なワンピース姿の少女が健の前に現れた。
「わぁ〜! 和哉さま、お久しぶりです。なかなか呼んでもらえないんで浅葱寂しかったんですよ」
浅葱は今の状況を理解しているのかいないのか、和哉の腕に抱きつき嬉しそうにしている。
「いや! そんなことより、あれ! あれ!」
和哉は慌ててこちらに向かっている月白を指す。
「そんなことよりって! ひどいですわ!」
浅葱は頬を膨らませて怒っている。其処へ月白が牙を剥いて襲いかかった。
「うるさいですわ! 人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んじまえですわ!」
「エナジーウォール!」
浅葱は青緑色の透明な円盤状の盾を出して、月白の突進を弾き返した。
「ね〜、和哉さま」
「ちょ、ちょっと、それ危ないから……」
浅葱は月白を弾き返したエナジーウォールを手にしながら、健ににじり寄っていった。
その様子を踊り場で見ていたリサがボソッと呟いた。
「御代志君が女の子を苦手になった理由もわかるわね」
苦笑しているリサに、月白の背中に乗った茜の手が差し出される。
「お嬢様! 今の間に此処から離れます!」
その手を掴んで茜の後ろに乗ったリサは、階下にいる御代志和哉に向かって言った。
「御代志君! 私は本当にあなたが思ってるような目的で新君に近づいた訳では無いから……それだけは理解してね」
そう言うと、茜とリサを乗せた月白は踊り場の窓から外に出て空中を走り去っていく。
「い、いや、お前ら、ちょ、ちょっと待て!」
「浅葱! 奴らが逃げるぞ!」
「あ、ああ、あれ。大丈夫ですわ。これで私達二人の仲を邪魔するものは無くなりましたわ」
「いやいやいや、そうじゃなくて……」
相変わらず、腕から離れない浅葱にすっかり困り果てている和哉は、空いてる右手で顔を覆った。
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