第6話 Goodbye

老人が胸ポケットから、煙草を取り出した、そして流れ作業のように火を着けた。

公園は禁煙ですよ、なんて言う言葉は"あこぎ"に思えた。こんな土砂降りの雨なのだ、それにこの辺りは元々品の良い土地じゃない。

公園が作られるまえは、貯木場で、何人かの業者と冒険心溢れる子供が、溺れ死んだ。その前には空襲で焼け死んだ人々を、今では野球場になっているけれど、そのグラウンドに 埋めていた、戦争が終わって二年後に生腐りの死体は掘り起こされた。

そのなかには、僕の親戚にあたる様な人もいたらしい。

戦後、貯木場の近くに駅が整備され、回りには歓楽街が出来上がった。

今でも、此処の辺りには過去の面影は探そうと思えば、あるけれど、とりあえず上手く誤魔化すことに成功している。

駅の近くには韓国資本の立派なホテルができたし、ホテルの地下にはBARができた。僕は今日もそこに行くだろう。

新しい時代を迎えるために、ウィスキーバックを飲まなければならない。

 ふっと、横をみるとサングラスの女も長い煙草を吸い始めた、僕も仲間外れになるのが、嫌でトレンチコートの胸ポケットから煙草を取り出した、そして流れ作業のように火を着けた。

 しばらくして、女の携帯に電話がかかってきた。

かけた方は何やら騒がしかったが、女は一言だけ言って切ってしまった。

 「さようなら、きっとまだサンフランシスコ行きの座席は空いているはずよ」


 僕は2本目の煙草を吸っていた。

別に関心も無いけれど、サンフランシスコ行きのジャンボが無事に飛び立つ事を祈った。

余りにも、この国では三月に人が死にすぎた、これ以上、死者を空に捧げる事もないだろう。

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三月の雨 フランク大宰 @frankdazai1995

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