第19話◆戦闘訓練評定
ソータとロッサの熾烈な戦いは続いていた。
「でやぁっ!!」ロッサが横薙ぎの攻撃を行う。その時ちょうどソータは体勢を崩していたので、攻撃が直撃してしまった!
「うっ!」ソータはダメージを負って怯む。その瞬間……ロッサの瞳は、赤く燃えるような色に光り輝いた……!
「はあぁぁぁぁぁぁッ!!」ロッサは発声と共に、眼にも留まらぬスピードで、軽々と戦鎚を振り回し、ソータに連続攻撃を繰り出した!
“
一撃目だけソータは何とかガードしたが、他の攻撃は全て直撃してしまう。連撃の途中で繰り出されたアッパー攻撃で、ソータは戦鎚を持ったままの重量にも関わらず、2,3メートルほど空中へ浮き上がった! ロッサは光らせた瞳のまま素早く跳躍し、浮き上がっていたソータに追い付くと戦鎚を振り下ろして戦闘エリアの地面に叩きつけた!
軽い地響きと共に、戦闘エリアの中心でソータは前のめりに倒れていた……。
「い、今のは……何だったんですの!?」ロッサの瞳は本来の色を取り戻し、先ほどまで自分がやった攻撃に驚きを隠せないでいた。
その様子を少し離れた所から見ていたメリッサ教官は、ふふっと笑いながら言った。
「……まさか一学年の一番初めの戦闘訓練で攻撃スキルを覚える子がいるとはな。今年は本当に豊作のようだ……」
「攻撃スキル……?」気になっていた事を聞くクレリア。
「文字通り、使用している武器で扱える物理攻撃のスキルだ……ロッサのステータスを見れば分かるんじゃないか……?」メリッサのその言葉を聞くとクレリアは能力透視を発動させて、ロッサのステータスを確認する。
名前:ロッサ・パルセノス 年齢:12
職業:グラディエーター見習い
Lv:16 HP:145/398 MP:190/190 SP:78/187
攻撃力:138 防御力:120
魔攻力:145 魔防力:131
敏捷力:114 精神力:46
ゴッデススキル:魔法習熟8倍
通常スキル:【
「破砕……連撃……?」クレリアが呟くと、メリッサは「あの攻撃は破砕連撃というスキルか……」と言ってから、観戦している皆に続けた。
「――今見てもらったように、物理攻撃のスキルというものがあるんだ。そのほとんどは、対象にとてつもないダメージを与えることが出来る……」
「そう……なんですか?」クレリアは怪訝な顔をする。「どうした?」メリッサが不思議そうに聞き返すと、クレリアは続けた。
「だって……ソータのHPさっきの連撃を食らっても合計50ちょっとしか減ってないからです」クレリアがそう言うと、ソータはムクリと立ち上がった。
「なッ……!?」メリッサは眼を丸くしたまま固まる
クレリアの視界に表示されていたソータのHP表示は HP:359/657 だった。彼女の話では攻撃スキルを食らう前まではソータのHPは411だったらしい。
「ソータ・マキシのレベルはいくつだ?」メリッサは確認する……「23です。エルディアと戦ってまたレベル上がったようです」クレリアのその言葉を聞いてメリッサは一言「アイツは化け物か……」と呟いた。
「……何か今すごく心外な言葉を言われた気がする……」ソータは服についたホコリを払いながら呟く。
「な、何を言っていますの?」と聞くロッサの言葉に、いや何でもない。と返して戦闘を続ける為にソータは武器を構えると、ロッサに駆け出す。
「先程と同じ戦法ですの!? もう無駄ですわ!!」ソータが放った右側からの横薙ぎの攻撃をロッサは柄で受け流し、頭上で戦鎚を回転させて、左右の手を持ち替えながら、左側から薙ぎ払い攻撃をする!
……だが、ソータはそこまで既に予測していたようで、屈んでそれを回避すると同時に戦鎚を掴んでいた両手から右手を放しながら左手を引く。すると戦鎚の先端はソータの右手の元へ来る。ソータは屈んだ体勢のまま、掌底打ちの要領で戦鎚をロッサの脇腹目掛けて放った!
“拳術マスタリー発動――”と、戦鎚の戦闘訓練では聞こえないはずの音声が頭に流れると、直撃したロッサは一気に十数メートルふっ飛ばされた!
ソータのその攻撃の後、ロッサは気絶した。その様子を見たメリッサは手を挙げて号令をかけた!
「そこまでッ! 戦闘訓練決勝戦……優勝はソータ・マキシ!!」
「やっぱりな……」エルディアはソータの戦いぶりを見て納得した。
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――教室。
「みんな、ご苦労だったな! ……それでは今回の戦闘訓練の評価に入る!」メリッサは全員を教室に集めて順に評価を読み上げた。
「まずは、第一試合のゼルゲル vs アリオスからだ……勝利したのはゼルゲル。ゼルゲルの評定はC。アリオスも同じくCだ。理由は今回の成長にある。二人ともレベルは1ずつ上がっているが……特に目立った点はない。急ぐ必要はないが、確実に強くなっていけ」
「「はっ!」」二人は気合の入った声量で返事をした。
「次は第二試合のエルディア vs ピッティア……まずはエルディア。準決勝は残念だったな。評定はA。ピッティアはCだ。理由は――」
……さて次は俺だ……。
「続いて第三試合のソータ vs クレリア……ソータ、優勝おめでとう。評定はAだ。クレリアお前の評定はCだ。理由はソータの成長率にある……お前は戦闘訓練のみでレベルいくつ上がった?」
聞いてきたということは、これは正直に答えて問題なさそうだ。
「……戦闘訓練が始まる前はレベル13だったので……15レベル上がりました」
……明らかにザワつく周囲。ソータはたった二時間分のトーナメント形式の戦闘訓練で一気にレベルを28まで引き上げたのだ。
レベル23の状態でロッサを倒したことにより、更にレベルが一気に5も上がっていたようだ。
教室のどこかから「化け物ね……」と聞こえてきた。おそらくナティーレの声だ。
「では第四試合のライトラ vs ナティーレ……残念ながらソータに負けてしまったな、ナティーレ。まずはライトラから。評定はB。ナティーレの評定はCだ。今回の試合でナティーレの方が明らかに強かったが、成長が大きかったのはライトラだった。だからこの評定結果になった。ナティーレ、訓練に励めよ」
「はっ! ありがとうございます!」ナティーレはしっかりと返事をする。その返事を耳にすると、第五試合の評定に入った。
「最後は第五試合のエゼルト vs ロッサだ。エゼルト、今回は相手が悪かったようだな……そしてロッサ、準優勝おめでとう。エゼルトの評定はB、ロッサの評定はAだ。エゼルトは目立った成長が見られなかったが、しっかりと自身のレベルとスキルのレベルアップに成功したな。ロッサもレベルは上がっているが、一番評価をした点は攻撃スキルの習得だ……」
その後、メリッサ教官は再度皆に攻撃スキルについての説明をした。
強力な一撃であるが、SPを消費するということ……SPというのはスキルポイントの略だそうだ。
それと同時に、メリッサ教官は余談のように話していたが、重要なことを教えてくれた。
何でも、スキルは最大でLv7まで成長するらしい。マスタリー系も魔法系も問わず、最大レベルは7。これはよく覚えておいた方が良さそうだ……。
みんなへの総評が終わった後、メリッサは「準備が出来た人から帰っても良いし、居残って自由な時間にしても構わん……では今日はお疲れ様」と伝えて、みんなの「ありがとうございました!」という声を聞くと、教室を出て教官室へ行った。その後はみんなは今日の戦闘訓練についての話をしていた。
そんな中でも一番持ち上げられたのは、やはり優勝したソータだった。
「ソータ、見事でしたわ。私の完敗ですの」ロッサが声を掛けてきた。「お前も中々強かったよ、ロッサ」ソータは笑顔でそう返した。
「ソータ・マキシ……正直言ってお前の強さを見誤っていた……。俺はもっと強くなる……」エルディアの言葉に「あぁ、俺も負けない」と返す。
そんな様子を見てゼルゲルは教室を出て帰って行った。
「チッ! ソータめ……!!」……と呟きながら……
そんなゼルゲルとすれ違いでクレリアが教室へ戻ってきた。
「お待たせ、ソータ! 今日も一緒に帰ろう!」
……いつも元気が良いなポニ子は。
「相変わらず仲のよろしいことですわね……」ロッサはそう言ったが、嫌味を言われた経験のあるソータは続けた。
「……ロッサ、俺は講義中の無駄話の必要はないだろって言っただけで、基本的にみんなと仲良くしたいと思ってる。それはお前とだって同じだ」
「そ、そうだったんですの……嫌味を言って申し訳ないですわ……」ロッサは肩を落とした。
そのまま教室を出ると、結局ソータ、クレリア、エルディア、ロッサの四人で帰ることになった。
――馬車の中。
「なぁ、ソータ・マキシ。お前は普段どんな訓練をしているんだ?」エルディアは向かい側に座っている、ソータに聞いてみた。
「え? 特に何も……」と本当のことを言ったのだが、エルディアは「嘘を言うな! お前の成長スピードは異常なものだ! 何か秘密があるんだろう!?」と身を乗り出して言ってきた。
「本当にないって……俺の口からじゃ嫌味っぽく聞こえそうだからポニ子、俺の代わりに説明してやってくれ」……と言って耳元で二つ持ってる事は言わないでくれ。と伝えると、ポニ子は片目をパチッと瞬きした。了解って意味に取っていいだろう。
「……コホン、ソータのゴッデススキルは知ってる?」
「いや……」エルディアは知らなかったようだ。ちなみにロッサも知らなかったようで、興味津々だ。
「ソータのゴッデススキルは経験値10倍。だから一気にレベルが上がるの。……単純なことでしょ?」
「そうだったのか……! ……俺のゴッデススキルは、全能力上昇補正χ倍だ」
「エックス倍ってなんだよ……」と聞いてみると「レベルアップした時の能力値の上がり幅が1~十数倍にまで上がるスキルだ。その代わり、レベルは上がりづらい」そう教えてくれた。
驚愕のゴッデススキルだ。……一見強力だが、致命的な欠陥がある。高い倍率を引当て続けられればいいが、1から倍率があるということは、1倍……つまり通常のレベルアップの能力上昇しか起こらない可能性があるわけだ。
それに加えてレベルが上がりにくいらしい……。万が一、1倍を引当て続けた場合、純粋にレベルが上がりにくいだけのゴッデススキル経験値半減……みたいな効果になってしまうというスキルだ。
ソータ達錬成学院の一学年の中で、エルディアはレベル10。一番低いレベルだった。しかし、ステータスの能力に関して言えば、ソータに次ぐ実力を誇っていた。
「今までで一番高い倍率は何倍だった?」とソータが聞いてみると「12倍だ」と答えた。その数字の上がり幅はとんでもなかったらしい。しかし、1倍だったことも経験しているらしく。出やすい倍率などはなく、純粋にランダムなようだ。
「次は私ですわね! 私のゴッデススキルは魔法習熟8倍ですの!」ロッサは自慢気に言ってみせたが、聞き覚えがある。
……魔法習熟というゴッデススキルは、長女のアルマが持っているゴッデススキルだ。ただし、彼女は魔法習熟5倍……純粋にロッサのゴッデススキルは姉の完全上位互換になるわけだ。
……って、んっ? 魔法習熟……?
「お前のゴッデススキルって……魔法習熟なの?」ソータは改めてロッサに確認した。なのに戦鎚を振り回す戦士のような戦いを……?
話を聞いてみると、パルセノス家は戦士を輩出している家系らしく、ロッサにも当然それが求められた。ゴッデススキルを覚える前から戦士になる為の英才教育を受けて育った為、彼女も立派な戦士になることを決意する。
……そんな中で手に入れたゴッデススキル……それが魔法習熟8倍だ。当時は自分も親も落胆したが、よくよく考えてみると、魔法がとてつもなく強い戦士が育てば、物理と魔法一体の完璧な戦士になる……という考えが浮かび、それ以来、戦鎚と魔法両方の訓練を続けてきたそうだ。
「ある意味、敵に回したら一番怖いかもしれないな……」思ったことが、そのまま口に出た。
「――っと、俺の家が見えてきた」四人のうちエルディアだけは上流階級なので、エルディアの家の前に馬車が停車すると、そのまま降りて行った。
広い敷地で、屋敷と門扉の間の道には小さな噴水があり、その噴水までの道を執事とメイドが両サイドで並んでお辞儀をしながら道を開けている。
「すご……あんな光景見たことないぞ……」と呟くソータ。エルディアは、そんな姿に目もくれずそのまま歩いて家へ入って行った。
その後、ロッサ、クレリアが降車し、最後にソータが家の前まで送ってもらった。
御者にお礼を言って、そのまま玄関へ手を掛けた瞬間、奇妙なことが脳裏を過ぎる……何か忘れている気がする…………。
「…………まぁいいか、大したことじゃなさそうだし!」そう口に出すと、ソータはそのまま家へ入って行った。
――錬成学院――食堂。
「へっくし! ……遅いわね、下民のやつ……」ソータと会う約束をしていたセリーナは、まだ錬成学院にいた。
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