第17話◆鎚術マスタリー


「では、次は一回戦第五試合、エゼルト vs ロッサ! 両者戦闘エリアへ!」メリッサ教官が号令をかける。


 エゼルトは戦鎚を重そうに持ち上げ、肩に担いで移動する。二人が戦闘エリアへ移動している最中に、クレリアが声を掛けてきた。


「そういえばさ、アンタのゴッデススキルの経験値10倍って効果発動してるのかな?」


「どういうことだ?」


「だって……今ちょうどステータス見てたんだけど、さっき戦ってた経験分でアンタのレベルに追いついちゃってさ」


 えっ? いやいや、おかしいだろ! こっちは経験値10倍だろ!? 効果発動……いや、まさかな。


「それに、入学試験の時はロッサの方がアンタよりレベル高かったでしょ? ロッサとアンタのレベル差に関しては縮まる気配も無いからさ」

 現在のロッサのレベルは15らしい。今はソータのレベルは13なので、確かに入学試験から全く縮まっていない……。

 いや、それどころか差が開いてしまっている。


「う~ん……」唸りながら、ソータはステータスを開いてみた。



 名前:ソータ・マキシ 年齢:12

 職業:グラディエーター見習い

 Lv:13 HP:335/335 MP:125/125 SP:121/121

 攻撃力:91 防御力:80

 魔攻力:82 魔防力:90

 敏捷力:88 精神力:125

 ゴッデススキル:経験値10倍/天賦の才

 通常スキル:【槍術マスタリー:Lv1】【拳術マスタリー:Lv2】【炎属性魔法:Lv2】【氷属性魔法:Lv1】【反骨心:Lv1】



 そして今度は試しに、経験値10倍をタッチしてみた。すると……


“【GS:経験値10倍】様々な物事に対する経験量が10倍になる”


 ……なるほど。


「あのさ、ソータ……やっぱりこのゴッデススキルって発動させないといけないんじゃ……?」クレリアが言ってきた。


「いやいや、そんな事は無いだろ……」笑いながら言ってみた。

 ……本当に無いよな?

 その不安を突くかのようにクレリアが再び言葉を返してきた。

「だって、アンタの反骨心や天賦の才は説明にパッシヴスキルって書いてあるんでしょ?」


 確かにその通りだ。反骨心スキルはともかく、同じゴッデススキルの天賦の才がパッシヴスキルと書いてある以上、その表記が無い経験値10倍はパッシヴスキルではない可能性が高い。


「…………」

 内心同様が隠せない。もしも経験値10倍のゴッデススキルが発動しないと意味のないものなら、俺は結構長いこと経験値10倍の恩恵は受けていなかった事になる……。



(経験値10倍、発動……)

 念の為……そう、念の為一応、そう頭の中で念じてみた。すると、頭の中で音声が流れた。


“ゴッデススキル経験値10倍の発動に成功しました”


 マジかよ! 最悪だよっ!!

 複雑な表情をしているソータを見てクレリアが再び口を開いた。


「え、どうだったの?」


「お前が言った通り、発動しないと意味がないゴッデススキルだった……はぁ……」誰の目から見ても明らかに落胆するソータ。


「ま、まぁでもさ! 二学年や三学年……最悪の場合、六学年になった後で気付かなくてよかったじゃん!」


「……あぁ、そうだな。……ありがとう、ポニ子」

 とりあえず元気付けようとしてくれたポニ子には感謝する。

 そしてソータは常時経験値10倍を発動させる。理由はもちろん、今までの自宅での訓練の分を取り戻すためだ。


 ・

 ・

 ・


 クレリアと話していると、メリッサ教官の号令がかかった。

「――そこまでッ! 勝者、ロッサ・パルセノス!!」


 ち、ちょっと待て、早すぎないか!?

 クレリアと話し始めたのはエゼルトとロッサが戦闘エリアへ歩き出した辺りだ。それなのにクレリアと少し話しているうちに勝敗が決してしまうとは……!

 そんなロッサのステータスはクレリアの能力透視ではこのように表示されていた。



 名前:ロッサ・パルセノス 年齢:12

 職業:グラディエーター見習い

 Lv:15 HP:378/378 MP:172/172 SP:161/161

 攻撃力:123 防御力:107

 魔攻力:148 魔防力:118

 敏捷力:99 精神力:46

 ゴッデススキル:魔法習熟8倍

 通常スキル:【鎚術ついじゅつマスタリー:Lv2】【炎属性魔法:Lv3】【氷属性魔法:Lv3】【風属性魔法:Lv2】



 ソータには教えていなかったが、ロッサに対して驚くべきことは鎚術の強さではない。ゴッデススキルが完全に魔法用の能力であることだ。

 もしもロッサが持っている武器が魔法武器ならば、魔法三属性のどれかを武器に付与する能力に優れているはずだ。

 尤も、これは試験なので魔法武器ではないのだが……。


 一回戦の全ての試合が終わったので、次は二回戦だ。


「さて、次は二回戦第一試合だ! ゼルゲル vs エルディア両者戦闘エリアへ!」メリッサ教官が号令をかける。


 ゼルゲルとエルディアの二人は相変わらず重そうに戦鎚を持ち上げて戦闘エリアへ行く。……そして両者は向かい合う。


 さあ始まるぞ……というタイミングでゼルゲルが口を開いた。

「メリッサ教官」


「どうした?」


「エルディア様に勝っていただきたいので、棄権します!」ゼルゲルは、ハッキリとそう言った。


「「は?」」ゼルゲルのあまりにも意味の分からない発言にエルディアとメリッサは同時に声を出すと、メリッサは続けた。


「お前は何を言っているんだ? これは講義だ。戦うんだ」


「いえ……それは出来ません! エルディア様をお怪我させてしまうかもしれない! それに、ソータは勝ち上がってくるはずです! エルディア様にソータをぶっ飛ばしていただきたい!」


 おい、なんで俺なんだよ……


「お前……いい加減にしろよ」エルディアが口を開いた。


「エルディア様……?」


「俺を怪我させてしまうかもしれないだと? お前の方が俺よりも強いとでも言いたいのか! ふざけやがって!!」中々怒鳴って怒ることのないエルディアは初めて心の底からの感情を溢れさせた。


 あれは敵を作るだけだぞゼルゲル……やっちまったな。いや、俺もセリーナさんにだいぶ酷い事言ったけど……。


「い、いえ! 決してそういうつもりでは……!!」エルディアはそのままゼルゲルに近寄り、彼の胸ぐらを掴むと、目に見えて焦っているゼルゲルに続ける。


「それにソータ・マキシをぶっ飛ばしてほしいと言ったな。お前がソータ・マキシを目の敵にしているのは知っている! だが、お前は自分の力でそれをやろうとしない……何故だ!? 気に入らないなら、お前がこの試合でソータ・マキシをぶちのめせばいい! 誰かに頼ろうとする人間がこの錬成学院でやっていけると思うな!!」


「す、すみません……!!」


 エルディアに怒られたゼルゲルは完全に気落ちしており、その後はちゃんと二回戦第一試合を決行したのだが、エルディアの怒りの一撃は凄まじいもので、ゼルゲルを圧倒していた。


「そこまでッ! 勝者、エルディア・トトラーシュ!!」戦闘エリアで、ふぅと一息ついたエルディアはソータへ向いて言った。


「ソータ・マキシ」


「……なんだ?」


「次の試合……勝ってくれ。お前とは本気で戦ったことがないからな!」


「あぁ、努力はするさ」




「マキシくん! 首席で合格したからって、そう簡単に負けるつもりはないわよ!」ナティーレは指をさして宣言をする。なんでこの世界の奴らは人に指を差すのか。


「よし……二回戦第二試合、ソータ vs ナティーレ……戦闘エリアへ!」


 ソータと向かい合うナティーレ……先程のライトラとの戦闘を見る限りでは、戦鎚の先端の一番重い部分を地面に置き、それを軸に素早い足さばきで、一気に後ろを取って強烈な攻撃を繰り出していた……。

 だが、それには弱点がある……同じ戦い方をしてくるかどうかは不明だが、恐らく彼女はその戦法を利用するだろう。……何故なら先程はその戦法で勝利したからだ。勝率の高い戦い方に賭けるのは当然だ。


「では、二回戦第二試合……始めッ!」


 ナティーレは地面に戦鎚の先端を置いて構える。


「また同じ戦法か」


「えぇそうよ! どこからでもかかってきなさい!」


「……そうさせてもらうよ!」ソータはそう言うと、戦鎚を構えてそのままナティーレへ走り出した!





「何やってるのよソータは! あれじゃあ、さっきライトラがやられたのと同じじゃない!」そう叫ぶクレリア。



 ……だが、ソータがやった行動は違う。

 ナティーレは走ってきたソータに横薙ぎの攻撃を繰り出そうとするが、それよりも先にソータは戦鎚を突き出して攻撃をした!

 普通に殴るより多少リーチが長い程度だが、ハッキリ言って威力は大したことはない。戦鎚で殴っているわけではなく、正面から突き出しただけだからだ。


 しかし、この行動はダメージを与えるためにやった行動ではない。戦鎚を軸にしているということは彼女の重心は戦鎚の先端近くの柄で支えられている事になる。

 その位置に戦鎚の突き出し攻撃をすれば、そのまま体勢を崩してしまう。


「キャッ!?」ソータの狙い通り足を捻って体勢を崩すナティーレ。

 そこへすかさず、アッパーの要領で戦鎚を振り上げる!


 ――鈍い打撃音と共に数メートルふっ飛ばされるナティーレ。


「う……うぐっ……!」呻き声を出しながらも、何とか立ち上がるナティーレ。


「その戦法は隙だらけだ。辞めた方がいいぞ」

 ソータはそう言って戦鎚を構えると、頭の中でピロリッ! という音と共に音声が流れた。


“新しいスキル【鎚術ついじゅつマスタリー】を修得!”


 えっ、もう……?

 だが良いタイミングだ! この鎚術マスタリーを発動させて攻撃をしよう!


 そう思って駆け出すと、ナティーレも先程の戦法を諦めたのか、戦鎚を持って走ってきた。そして二人の戦鎚が交差する……!


鎚術ついじゅつマスタリー発動――”

 頭の中にそんな音声が流れると、マスタリースキルの効果でナティーレの戦鎚を破壊した!


「なッ!?」ナティーレは驚きを隠せない様子だ


 ナティーレは武器を失ってしまったので、その場で号令を掛けられた。

「そこまでッ! 勝者、ソータ・マキシ!!」


 メリッサ教官が号令をかけると、ナティーレは慌てて口を開いた。

「ま、待ってください! 教官! 私はまだ戦えます!」そう言うナティーレだったが、メリッサ教官は質問に答えた。


「お前が大丈夫でも、お前の戦鎚は大丈夫じゃないようだぞ。このトーナメント戦は戦鎚を使った試合だ」


「うぅ……負けを認めます……」悔しそうにしながらもトボトボと戦闘エリアを出て行くナティーレ。



 その試合を見ていて驚いていたのは、クレリアだ。

「嘘でしょ!? ソータ、もう鎚術ついじゅつマスタリーを習得した……!?」そのクレリアの言葉にロッサも驚く。


「えっ!? 先程までの戦闘だけでマスタリーを習得しましたの!? 嘘じゃありませんこと?」


「アンタ、アタシのゴッデススキル知ってるでしょ?」


「知っておりますわ! でも、私が小さい頃から訓練されてようやく習得したマスタリーを……!」


「ロッサ、認めろ。ソータ・マキシは間違いなく天才だ……」エルディアはロッサにそう言って、準決勝の準備の為に戦闘エリアへ歩き出した。


 そしてそのままメリッサ教官は号令をかける。

「これより、戦闘訓練トーナメント準決勝を行う! エルディア vs ソータ! ……両者向かい合いなさい」


 エルディアが戦闘エリアへ着くと、ソータに声を掛けた。

「ソータ・マキシ、ロッサと戦ってみたいか?」


「まぁ、一応な」そう返事しておいた。


「ロッサは強いぞ……」


「そうか」


「そして……俺も強い!!」エルディアは戦鎚を構える!


「それくらい、分かっているさ……!」ソータも返事をして戦鎚を構えた!



「――準決勝、エルディア vs ソータ……始めッ!!」


「……いくぞ、ソータ・マキシッ!」エルディアは戦鎚を構えて、ソータに突進する!




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