エインヘリヤルの召喚術士

ジュエル

第一部

プロローグ

◆プロローグ


 ――八月某日。夏休み期間中のサッカー部が、隣町の高校と練習試合をしている。


「そっち行ったぞ!」「パス、パス!」よく声を出している皆。

 そんな皆の様子をベンチから眺めている俺。月島つきしま颯太そうた。学校内では容姿端麗、運動神経抜群で有名……だった、高校三年生だ。

 この高校、都立東星とうせい学院高校に入学する時、俺は学力があまり足りておらず、スポーツ推薦で入り、そして今はサッカー部のマネージャーをやっている。


 俺はサッカー推薦で高校へ進学した時、同じように推薦で大学へ進学したいと考えていた。しかし、今は選手ですらない。

 理由は簡単。去年の試合中、相手の選手にスパイクで足を踏まれてしまい、足の甲を粉砕骨折してしまった。


 現在は手術もして、歩けるようにはなったが、医者からはサッカーはもう出来ないと宣告されてしまった。

 しかし、生まれてからボールを蹴る事しか能がなかった俺は、簡単にサッカーを諦められなかった。

 だから「退部しろ」と監督に言われたが、マネージャーとしての立ち位置でサッカー部と関わりを持ちたかった。


 自分の足を見るたびに今後一生サッカーをプレイ出来ないという現実を思い出す……。

 運動神経抜群で有名だった……というのは、怪我をする前の話だ。怪我をする前は、サッカー部のキャプテンまでやっていた。


「「あざっしたーー!!」」試合が終わった。そして試合後は反省会。


「今日のここがダメだった」だとか「あの場面で、ロングパスは賭けでしかなかった」だとかそんな会話が飛び交っていた。


「月島、お前は今日の試合を見てどうだった?」監督はマネージャーの立ち位置である俺に話を振った。


「そうっすね、まず岸本は……」言いかけた瞬間だった。

 いいのだろうか……? 俺なんかが今のアイツに口出ししても……。アイツは今やチームの守護神と呼ばれる程の高いブロック率を誇るキーパーだ……


「月島、言いかけといて何だよ?」岸本は俺が選手としてサッカーをやっていた当時と同じように接してくれている。

 一年坊からは、俺は時々「マネージャーのくせに偉そう」と言われているらしい。その度に俺の過去の活躍を知っている奴が後輩を叱っているらしいが、それすらも恥ずかしい……。


「あぁ、すまん」とりあえず言うことにした。

「今日の岸本のプレーは良かったんだが、もっと声を出していった方が良いと思う。個々の実力は僅差で相手の方が上だった今回の練習試合は、お前の指示出し一つで試合状況が変わる」


「そうだな……皆ごめん!」


 監督はそれを聞いて続けた。

「確かに今回岸本は、あまり声が出てなかったな……お前はキーパーなんだから試合中の指示出しは特に大切にな。次からは気を付けろ」


「はい!」


 反省会も終わると、辺りは暗くなっていたのでバスで皆の最寄駅まで送ってもらえることになった。

 一番遠くから通っている颯太は一番最後だった。

「今日もお疲れ様。気を付けて帰れよ」

「はい、ありがとうございます」監督の言葉にそう返して帰路につく。





 今日も楽しい一日が終わった……。





 楽しい……? 本当に?



 俺の人生に何が残っている? 顔の良さなんて皆が言うだけ。俺自身は良く分からない。それどころか、顔のパーツの一部にはコンプレックスだってある。

 サッカーはもう出来ない。速く走ること自体が出来ないんだし、当然だ。


 当然プロとしての経験もないし、そもそも今の学力じゃ、最低ランクの大学くらいしか行けないだろ……。




 クソ……!




 クソ……!!





 どうして俺ばっかりこんな目に……

 一人夜道を歩きながら、そんなことを考えていた。









 プー! ププー!! 突然クラクションの音が右から聞こえてきた!

 車が走ってきていたのだ。


「えっ……」


 次の瞬間、身体中に強烈な衝撃が走り、視界が物凄い勢いで回転して意識が途絶えた。



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