虐殺天使とUFO、そして終わり

人新

第1話 現状の現状

 規則的な回転音は僕らをマニラまで運ぶ。

 慣れない環境に、軍服、僕は未だとこの生活に対応できず頭を痛くする。

 隣の白人はなにかとラジオをチュージングして、周波数を合わせており、微かに英語でこう聞こえた。『たった今ロンドンが陥落した』と。もうロンドンもダメなのか、僕はため息を吐く。一体これで何人の人間が殺されたというのだ? もう既にして、一億は超えているだろう。全く、僕らは国同士で戦ってるわけではないんだぞ。

 僕のため息が少し大きかったのか、チュージングしていた男が言った。


「お前、どこから来たんだ? 見たところ、アジアか、それともサウスアメリカか?」


 白人は見たところ、長く軍をやっている事が分かった。何より勲章が胸にいくつかついてたし、一般の僕とは違って場になれた空気感を出していたからだ。

 僕は少し肩をすくめて、ジャパンと言った。


「そうか。俺も日本車にはよく乗っていた。何せうちの国はでかいからな、燃費のいい車は好きだったよ」


 白人はラジオを下に置いて、胸ポッケからタバコを取り出した。ロゴにはザ・シガレットエンジェルと書かれており。輪っかを頭につけた天使が描かれていた。


「吸うか?」


 白人は太い指で挟んだタバコをひらひらと僕に見せつける。


「ノーセンキュー」


 僕は少し前まではタバコをよく吸っていたが、今では一切吸わなくなった。それは何故だろうか? 多分、テレビで見たあの血に染まったタバコを見たからだ。僕はそれ以来タバコを見るたびに死ぬ予兆がして仕方がないのだ。と言うよりも、全員が多分死んでしまうんだろうけどな。

 機内は範囲的にタバコの匂いで充満される。だが、それといってそのことに対して不満を持つような奴は一人もおらず、ある人は音楽を聴いたり、ある人は一枚の写真を見ていた。みんな、死ぬまでは忙しいのだ、多分こんなタバコの匂いなどどうでもよくなるのだろう。僕は外の景色も眺めずに目を瞑り、タバコの匂い嗅ぎ続けた。

 あの始まりもきっとこんな臭いから始まった。





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