罪は重い。

紀之介

後ろめたいからこそ

「絵衣。こんな変な所に呼び出して、何の用?」


 放課後。


 私の呼び出しに応じた椎子が、体育館裏に現れた。


「此処って…立入禁止よぉ」


 後ろめたいからこそ、そんな所に呼ばれても、ホイホイ来たに違いない。


「─ 私の美伊を誘惑した罪は、重いからね。」


「は…?!」


 椎子が、虚を突かれた声を出す。


「言ってる事がぁ、良く解らないんだけどぉ」


「今朝だって…私が来る前の教室で、腕を組んでベタベタしてたでしょ!」


「そう言う事は、美伊に言ってよぉ」


 人差し指で、椎子は自分の髪の毛の先を弄ぶ。


「何かと言うと、私に纏わり付いて来るのは む・こ・う。」


「嘘言わないで!!」


「腕だって…向こうから絡められたから、仕方なく組んだだけ だしぃ」


 聞くに値しない言い訳。


 制服のポケットに手を伸ばた私は、 <呪符> を取り出した。


「…?」


 唖然としている椎子の眼の前に かざす。


─ 喰っても良いのか? ─


 上方から響いてくる声に、私は命じる。


「ええ、食べて頂戴。」


 その瞬間、虚空から湧き出してきた <ノモマ> に、椎子は取り込まれていった。。。


----------


<あの件について お話があります。放課後に体育館の裏まで来て下さい>


 翌朝。


 私の下駄箱に入っていた封書には、これだけが書かれていた。


(もしかして、目撃された?!)


 いや、そんな事は あり得ない。


 人よけの結界は、張っていた。


 しかし、もしも 見られていたとしたら…


 ─ <ノモマ> を、他の人間の目に触れさせる事は禁忌だ。


 約定で、そう決められている。


 もしも、見られた場合には──


 放課後に体育館の裏で行うべき事を、私は決断した。


----------


「絵衣さん。」


 その日の放課後。


 体育館裏で私を待っていたのは、隣クラスの女子、和井だった。


「来てもらえて、嬉しです♡」


 笑顔で駆け寄って来る和井。


 その眼前に、私は便箋を突き付けた。


「あなた…何を知ってるの?」


「えーとぉ それはぁ…」


 和井が、恥ずかしそうに 目を伏せる。


「デ、デタラメなんですぅ」


「─ え?!」


「ごめんなさいぃ。どうしても絵衣さんと ふたりきりになりたくてぇ…」


 私の両手が、和井の肩に伸びる。


「嘘言わないで!」


「ほ、ホントです!!」


 激しく肩を揺らされた和井は、涙目で訴えた。


 この子は、本当の事を言っているのかも知れない。


 しかし、万が一と言う事がある。


 約定は、墨守されなければいけないのだ。


 掴んでいた肩を、私は強く突き放した。


「痛い」


 尻もちを付いた和井の目前に、呪符を差し出す。


─ 喰っても良いのか? ─


 頭上からの確認に、私は許可を出した。


「…ええ、食べて頂戴」


 背後の空間から染み出してきた <ノモマ> に、和井は飲み込まれていった。。。


----------


「…絵衣ちゃん?」


 背中からの声に、私は固まる。


(何故、こんな所に美伊が?!)


「今…隣のクラスの和井さんが……」


(い、いつから!?)


「…黒い 何かに?!」


(ひ、人よけの結界を…張り忘れた──)


 <ノモマ> 存在を、他の人間に知られる事は禁忌だ。


 それが約定。


 私は、ゆっくりと振り向く。


「どうしたの絵衣ちゃん?! 何で泣いてるの!? 」


 数歩下がって、呪符をかざした。


─ 喰っても良いのか? ─


 頭上からの問い掛けに、私は かすれる声で答えた。


「…え、ええ ……た、食べて頂戴──」

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罪は重い。 紀之介 @otnknsk

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