ニートが彼女に気に入られる為に修行してチートになったのを見せつけるには異世界に行くしかないだろう

三月うさぎ

第一章 始まり

第1話 夢でも君に逢えるなら僕はなんでもするよ

 俺たちは裸で抱き合っていた。


 ただ、此処がどこなのか、相手が誰なのか、全くわからないでいる。


 ただ、裸で抱き合っていることだけはわかっているのだ。


 裸で抱き合うくらいだから親しい相手なのだろうが、あいにく抱き合えるような恋人も親しい友達も知人もいない。


 それに、相手が誰だろうと、裸で抱き合うくらいなのだから、ベッドか布団くらいはあっても良さそうなのだが見当たらない。


 そもそも横たわっている感触がない。立てっているのか?いや、足にも感触がない。


 ふわふわして気持ち良い感覚はまるで、水中の中にいるみたいだった。


 それにしては普通に呼吸ができるし、苦しくない。むしろ気持ちが良い。まるで夢のようだが、おそらく夢なのだろう。


 昼なのか夜なのかわからないが、視界に入る限り一面はピンク色に近い赤紫とでも言うのだろうか、プールに水を入れたら水色に見える、そんな感じだろうか。


 さて、気になるのは抱き合ってる相手なのだが、なびく髪で女の子だということがわかる。


 これで短髪のガチムチのお兄さんだったら、俺は溺れて沈んでいくのだろう。


 顔を見れば思い出すのかもしれないが、この状況は昨夜、クラブでナンパした女と遅くまで飲んだ朝、ベッドで目を覚ましたら記憶がなかったっていうドラマでよくあるパターンだな。


 残念ながら、俺はそんなナンパどころかクラブに行く度胸もない。


 とにかく抱き合っていることはわかっているのに、彼女の胸が当たっている感触がないのは何故なんだ。


 もしかして、俺が女性の胸の感触を知らないから、夢でも実感できないっていうのだろうか?夢くらい夢見させてくれよ。


 まぁ、凡人は胸に興味を持ってしまうが、俺のように極めると胸より、尻だな。尻こそ女性の究極アイテムと言っても過言ではないだろう。


 女性の尻に顔を埋めて窒息できるのなら死んでもかまわない。つまり窒息死ってことだ。


 それほど、女性の尻は死をも超越していることなのだ。だから胸の感触がわからなくても尻さえあれば良いんだ。


 ただ、女性の尻の感触も知らないから、この夢でも実感できないってなら話は別だ。


 それよりとにかく顔を見て誰だか確かめたいのだが、なかなか顔が見れるように俺の頭が自由に動かせない。


 夢でありがちな、逃げたいのに早く走れない、そんな感覚だった。


 そうか、これは夢だったな。だったら何をしても夢だから許されるな。


 丁度良いことに裸で抱き合っているのだから、することは一つだろう。


 すると彼女も同調したのか、俺の首に両手を回して顔を近づけてきた。


 こんなに近いのに、ぼやけて顔が見えないが、顔の確認は後回しにすることにしよう。


 近づいてくる彼女の唇に、俺は目を閉じて唇を差し出した。


 だが、彼女の唇は俺の耳元を目指していたのだということが囁かれてわかった。


「貴方には、やることがあるでしょ?」


 ヤル?そう、だからヤルことに決めたんだよ。


「あぁ、そうだな」


 俺は言ったこともないようなシリアスモードで応えてやった。そう上から目線で。


 すると彼女は、両手を離して下に沈んでいった。


 彼女の頭が俺の胸元を通り、さらに下に沈んでいく。


 おいおい、いきなりそれは俺でも戸惑いを隠せないなぁぁぁと、有頂天になっている俺を置いて、彼女は沈んで消えて行った。


 という所で、俺は目が覚めてしまった。


 本当に夢だったようだが、肝心な所で目が覚めるのは神のいたずらか。


 しかし、今の俺なら神に背いてでも夢の続きを見ようではないか。


 風呂と寝ることが大好きな俺にとって二度寝など朝飯前ってことなのだ。


 そして俺は目を閉じ、易々とスヤスヤ二度寝についた。




「んじゃあ採用です」


「へ?」


「採用って言ってんのよ。嬉しいでしょ?」


「だって面接来てからまだ一分も経ってないですよ」


「時間勿体ないでしょ?採用されたいでしょ?」


「だって僕ニートですよ?」


「ニートいいじゃない。ニートなんて宝の山よ。直ぐにでも働けるのでしょ?」


「あ、はい」


「ほら!だからニートは宝なのよ。前職のシコリとか無いから気楽でしょ?企業はこの人手不足で会社潰れるくらい困っているのよ」


「そうなんですか?」


「ニートだからって二の足踏んで躊躇してるの本人だけ。企業はニートこそ働きに来てほしいの。レッツチャレンジよ」


「ありがたい言葉っす」


「ささ、これ持ってね。現場で使い方教えるから。簡単だからね超簡単」


「どうするんですかこれ?」


「これで戦うに決まってるじゃない」


「戦う!誰とですか?」


「敵に決まってるじゃない。貴方はもう半人前の勇者なのよ。一人前の勇者になって年収一千万貰ってどうしたいの?」


「えっと、彼女欲しいです」


「あなた、彼女いたことないの?」


「は、はぁ」


「最強の勇者になったら毎日モテモテハーレム状態よ。けど今はまだ未経験なのね?勇者になるには経験の一つや二つしとかないとね。どれどれ私が最初に教えてあげるわ。ヨイショっと」


「え?あの、ちょ、ちょっと・・やめ・・」


「ふーーー」




 ガバッ!


 今度も良いところで目が覚めてしまった。


 せっかく卒業できるところだったのに、夢でも慌ててしまうなんて我ながら情けない。


 けど、最初の夢の女の子とは違う感じがしたな。相変わらず顔はぼやけて見えなかったけど。


 昨日、あのチラシをくれた子に似てたような気がしたけどそれは潜在意識に残ってただけかもな。


 立て続けにこんな夢みるなんて、溜まってんのかな?それともなにか幸運の前触れなのか?


 誰にでも人生の転換期があるとすれば、俺の転換期は今日になる。


 とにかく今日俺は、新しい一歩を踏み出し、ニートを卒業する。予定だ。



   ※



 電車に乗るべく駅に着いたが、嫌なものが視界に入ってきた。


 ネット用語で言うならばDQNというやつだ。


 ヤンキーとでも言えば分かりやすいかもしれんが、最近は誰かや何かに突っ張ってるわけでもなく、ただ社会不適合なイメージでDQNなのだ。


 そのDQNが駅の出入り口付近で三人、タバコを吸いながら屯たむろっているのだ。


 足元には吸い殻が落ち、空き缶も転がっている。


 こいつらが捨てた証拠はないが、捨てたと言われても仕方がない出で立ちなのだ。だからこいつらが捨てたと俺は決めつける。


 ただ、注意するほど時間の余裕がないので、今日の所は見逃してやる。今日の所はな。だから明日以降は俺に殺されないように社会に適合して生きることをお勧めするがな。


 今日の所は見逃してやると今心に誓ってやったのに、その中の一人が指で俺目掛けてタバコを飛ばしてきやがった。


 運よく、タバコは俺の足元に落ちて命中しなかったのだが、俺は見えないフリをして歩く足を止めなかった。


 運よくと言うのは相手の方だ。俺がその気になったらこいつら全員皆殺しだからだ。


 全員と皆は同じ意味なのに両方使うということは、こいつら二回は俺に殺されるということだ。


 既に俺の頭の中では一回皆殺しにしているがな。


 例えこいつらが働いて給料を得て生活をしていたとしても、社会に対してマイナス分が大きいので差し引きマイナスの存在なのだ。


 それに比べて俺は、今は働いてないニートだが、社会になにもマイナスが無い分ゼロなんだよ。


 将来有望な働く希望的ニートだと考えると、未来性分は今でもプラスな存在かもしれない。いやきっとそうだ。


 その俺が今日、面接するというのだから、採用された日にはこいつらが一生追いつけない位プラスにリードする。ということなのだ。


 今までの人生を後悔改める時間をくれてやるから、せいぜい長生きするんだな。


 それにしても早く電車来ないかな。一秒でも早くこの場から立ち去りたいのだが。


 ふふ、おかしなことを考えてしまうものだ。電車は定刻通りに発着するのに、俺が早く来ただけで早く来ないかなと考えるなんて、笑止千万。まるであのDQN達から逃げたいと思っているようだが。


 とにかくあんな奴らと関わることだけは、今後の人生でも避けたいものだ。


 あのような奴らは一人じゃ何もできない癖に、つるんで集団になればなるほど態度が大きくなるものなのだ。


 昔、俺が大学一年の頃、高校生くらいの馬鹿がタバコのポイ捨てをしたのを見た時、丁度相手も一人だったので注意したらボコボコにされたんだ。


 それから俺は常に脳内でDQNと言われる社会不適合者を抹殺してきた。


 そこで悟ったことは、見ない、知らない、関わらない。これに尽きるのだ。


 この悟った俺でも、堪忍袋の緒が切れることもあるから注意しとけよと言いたいところだが、丁度電車が来たので二度と会うことはないだろうが、命拾いしたな、とだけ言っといてやる。



   ※



 電車内で恐らく会社の先輩と新人っぽい後輩だろう。


 今日の説教タイムをこの電車での移動時間に決めやがった。


 おい、その先輩とやら、そこまでにしとけよ。


 だいたい後輩、まして新人なら先輩がスキル上なのは平安時代より昔から決まっていることだろうに。


 平安時代の人からしたら先輩面してるお前なんかド新人中の新人も良いところなんだぞ。そこら辺を肝に銘じとけ。


 新人を教育するのも、新人の失敗を補うのも、上司から助けるのも全て先輩の仕事だろうに。


 それを電車でガミガミ言ってる時点でお前は職務放棄したようなものだ。つまり後輩の事を怒れる立場じゃないってことだ。自分の仕事を全うにしてからにしろってんだ。


 こんな先輩がいる会社に入ったら、運が悪いも群を抜いている抜きすぎているようなもんだ。


 有望な新人社員たちも心が折れて歪んでしまうだろう。つまり会社に不利益をもたらしているのは間違いなくこの先輩社員だろうに。


 俺が上司なら即刻無能さを見抜いてクビにするところだが、俺はまだ実力の半分の力もだしていない状態、つまり面接に向かっている状況なので、お前をクビにする立場は他の無能な誰かが居座っているということだ。


 今の会社にクビの皮が一枚繋がっているのは、本気を出してない俺のおかげだということに感謝して、とにかく新人を叱るのは今すぐ止めるんだな。


 後輩が入ってこなければ、いつまでたっても己が下っ端だということだ。つまり新人後輩はこれからの宝の人材だと言いうことを忘れるな。




 さて、気を取り直して、俺は昨日貰った求人募集のチラシを取り出し、昨日の事をまるで昨日の事のように思い出すことにした。

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