第21話 イケナイイケメンに優しい世の中
テスト期間に入っても仕事業務は変わらず、からしの配達と“W”退治に俺は精を出していた。午前中授業で昼から帰宅してても業務を早く終わらすわけにもいかないので家庭教師の時間は夜しかなかったが、時間を延長して遅くまでテスト対策を二人で行っていた。十二時過ぎた時の翌日の自主トレは眠いものがあったが続いても一週間位だし、曜子も俺が帰った後もまだ勉強して頑張っていたのを聞いて励みに頑張って続けることができた。
テスト最終日の夕方に事務所に来てもらう約束をしていたので、配達業務を終えた俺はそのまま事務所近くの駅で待ち合わせをした。
「おつかれさま」
「ホント疲れたよー。今日からやっと早く寝れるわ」
「テスト終わってからゆっくりできるのは頑張った証だよな」
「今回はホント頑張ったからね。ウタル先生のおかげかも」
「今日は素直だな。いつもこれくらい素直にしておけばいいのに」
「だって今日は事務所に呼ばれるしテスト頑張って終えたお礼に甘いものご褒美してくれる約束でしょ?約束は今からするんだけどね」
まぁあれだけ頑張ったし一息ついた日くらい甘いもので一時の幸せを感じても
暫く他愛もないことを喋りながら歩いて事務所前に着いた。
「素敵なオフィスビルね」
お世辞にも素敵とか綺麗とか言えない雑居ビルに驚きも
事務所が二階にあるのが外からもわかると階段を上がって行くので、俺は後ろからついて行った。見るつもりはなく無意識で上を見た時に曜子の太ももに目が行ってしまったので直ぐに足元に向き直して階段を上がった。
二人が事務所入り口前に立つと
「今、私のパンツ見たでしょ!」
「パ、パンツは見えてないよ!」
顔の前で手のひらを左右に振って全力で否定した。嘘ではない、ただ太ももは見てしまったが事故で故意ではないし太ももを見たかどうかは聞かれてないので答えるつもりもない。聞かれる可能性もあるので俺は急いで事務所の扉を開けた。
「ただいまもどりました」
「おーお疲れさん。曜子ちゃん久しぶりだね、よく来てくれました」
所長が出迎えてくれる。太ももの話題が消えたと安堵に包まれたのは言うまでもない。
「アイツももうすぐ着く頃だろうからソファに座って待っててよ」
時計を見ながら言う所長に従って曜子はソファに座って待つことにした。俺はそれまで今日の業務の事務処理をしておこうと思い自分の机に向かった。
「曜子ちゃん、スポーツ何かしてたの?」
「中学の途中まで水泳を少し」
「そーなんだ。ウタルがね、曜子ちゃんスタイルいいんですよーっていっつも言ってるんだよー」
「ちょ、言った事ないですよ」
突然所長は何を言い出すかと思えば。さっきの太ももの指摘が消えたと思ったがそれ以上の
「いや、梓さんは俺が言ってないの知ってるじゃないですか」
未だに
「そんなに私の事言ってるのですか?」
「そりゃもう毎日曜子ちゃんの事ばかりだよ。今日はいい匂いがしたとか今日は唇がぷるんぷるんとか今日は胸が揺れていたとか」
「変態だなお前」
「言ってないじゃないですか!そんなこと言う奴なんていないでしょ!いたらホントに変態ですよ!」
所長と梓さんは悪ノリが過ぎている。曜子もやっと二人の悪ノリであることに感づいたようで笑っている。誤解が解けているなら良しとしよう。
二人も一緒に笑っている時に入り口から一人の男性が事務所に入ってきた。
その男性は背が高く色白で髪が真っ白で背中まで伸びたロンゲだったが、男の俺でもイケメンと思うほどの美形だった。外国人っぽいけどもしかしたらハーフだろうか。その男性は事務所に躊躇なく入ってきて梓さんの傍へすかさず寄って行った。
「おぉ水沢ちゃんは今日も一段と美しいねぇ」
と言いながら梓さんの髪を撫でていた。
「相変わらず豊満な胸を重力に逆らって美しさを保つ努力は怠っていないようだね」
梓さんの服の上からだが下乳の部分をさすりながら褒めているのか品定めをしているのかわからないセリフを吐いていた。
驚いたのは梓さんが全く嫌がる素振りをしないで平然としてソファにもたれ掛かっていることだった。
「お前相変わらずだけど、なんで同じ事したら俺は壁に吹っ飛ばされるんだろうか」
所長は梓さんにセクハラをしたら毎回何かしらの仕返しをされている。懲りない所長も所長だが。この男性の場合はセクハラではないってことなのだろうか。もしかしたら彼氏とか?
「日比谷君のにはエロはあっても愛がないからだよ」
「愛ねぇ」
「
「やぁゴメンゴメン。君が例の女子高生かい?美しいねぇ。清純ないい匂いがする。
居たわ、そんなこと言う奴いないって言ったの撤回だわ。
「
梓さんに
イケメンなら何をしても良いのかと言いたいところだが、実際梓さんは拒否をしておらず、曜子には触れず褒めるような言葉しか発してない。同じ内容でもさっき所長が悪ノリで言った言葉を俺が仮に言っていたらただの変態扱いで処理されていただろう。やはり世の中イケメンには優しく生きられるようになっているのか??不公平であると俺は心の中で叫んだ。
「その髪、地毛ですか?」
曜子の突然の質問。その男性が誰かよりも言葉よりも梓さんに対する行為よりも気になっていたのだろうか。
「もちろん地毛だよ。美しいかい?」
「ええ、とっても」
「ありがとう。君の髪も美しいよ」
こんなやり取りを俺も自然にできるようになりたいと心底思ったがさっきまで太もも見て喜んでいたのでは到底無理だなと思ってしまった。
「紹介しとくよ。今日呼んでた私立探偵の
非の打ち所がないイケメンにも弱点があるのだとしたらこの可愛らしい名前だけなのかもしれないな。
「二人とも宜しく。豚平って呼んでね」
フリガナ打たなきゃどう呼べばいいかわからん。
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