第9話 “W”

「W.B.S。通称“W”と我々は呼んでいる。こいつが体内で寄生して増殖をすると大きな犯罪をしてしまうんだ。」


「今の黒い物体が“W”……。その退治をするのが仕事?」


「そういうことだ。現実を受け入れるのに時間が……」


「やります。やります、やってみます」


 俺は所長の言葉を遮って返事をした。確かにわけのわからない物体が人に寄生して追い出したら宙に浮いて退治してって簡単にうけいれられないけど、人として良いことをするというのは直感でわかる。


 やりがいのある仕事だと思った。それに簡単そうで研修が終われば年収一千万なのは魅力的すぎる。


 もっと怪しく危ない仕事だと思っていたので尚更受け入れやすかったのかもしれない。


「いいねぇ、単純明快。褒めてんだよ」


 単純の部分だけ聞けばただの単細胞って言われた気がしたが。


「リスクと言えば、あんまりないと思うけど稀に凶悪な“W”と遭遇してピンチになっちゃうくらいだから」


 所長はヘラヘラ笑いながらも聞き捨てならないことを言ってくれる。


「ピンチってどれくらいですか?」


「凶悪な“W”に取りつかれて凶悪な犯罪者になるか倒されて死んじゃうくらいかな」


「結構なピンチですよねそれ。人の人生終わっちゃうじゃないですか」


「そうだね。そうならない為に強い精神と高い技術を養っていくのを怠らないことだね。その為の一年間の研修期間だよ」


 なるほどと素直に思えたのは所長がヘラヘラと説明してくれた雰囲気のおかげだったのかもしれない。


「眼鏡はこれね。後で眼鏡屋さんで角度調整してもらってね。あと武器はこれを最初は使うと良いよ」


 眼鏡と一緒に渡された武器は黒い筒状のものだった。


 力強く振り下げると伸び、それは警棒のような形をしていた。


「いいか、こいつで悪そうな奴のドタマをスコーンとしばくんだぞ」


「冗談でしょ?」


「冗談なものか。俺が体を張って梓ちゃんで実践して見せただろ?」


「あれはやりすぎです」


 梓さんは殺意のある目で所長を見ながら服の上からブラの位置を修正しながら言った。


「しばかれた人はどうなるのですか?」


「例えば多いのがタバコのポイ捨て。明らかに目の前で罪を犯しているだろ?そんな奴の頭しばけば必ず“W”がでるから退治するだけだ。しばかれた本人は罪滅ぼしに今までポイ捨てした分くらいのタバコを拾いながら生きていくさ」


「ドタマをしばくとか表現は最悪ですけど、めちゃくちゃ世の為人の為なことですね」


「やりがいあるだろぅ?」


「はいっ」


「ようし、早速実習に出かけよう」

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