第7話 ハラキリ
「からし屋だけど殺し屋も兼ねてやってるの。もちろん殺すのは人間でも動物でもないんだけどね」
他事を考えて妄想にふけってしまわないように俺は真剣に所長の言葉を受け入れた。
「ニート時代が長くて妄想の頻度も多いし時間も長いニートは人間とみなさないから殺しても良いっていうオチでもないからね」
笑うに笑えない状況だ。突拍子もないことを言われたにしても妄想に入り込んで恥ずかしさのあまり妄想と現実が混ざって思いついた言葉を叫ぶなんて普通に考えても可笑しいことだ。
だがそんな理由でいくらニートだからって殺されたらたまったもんじゃない。それに採用されているからニートは卒業してますし。
「殺し屋というより駆除や退治って思ってくれたらいいよ。ちょっとびっくりさそうと思って殺し屋って言っただけだしからし屋に似てるからいつも言ってから新入社員の反応で楽しんでるだけだから。君みたいな反応したのはいなかったけどね」
所長は馬鹿にした笑いを堪えているが口元がにやついているのがわかる表情だった。怒られるか呆れられるよりマシくらいに思って早めに忘れよう。
「切腹ーーー!」
梓さんがいきなり立ち上がり切腹をするマネを繰り返した。
所長は耐え切れず俺を指差しながら大笑いし、梓さんは切腹を繰り返している。
ソファーに座った梓さんの肩に手を置き、逆の手でまた俺を指さして梓さんと一緒に大笑いする所長。
どさくさに紛れて梓さんのオシリに手を回してオシリを撫でたところでお盆が所長の顔面を捉えた。
さっきまでの笑いが嘘のように消え、何事もなかったかのように梓さんはコーヒーを飲んだ。
のけぞっていた所長が体勢をもどし鼻をさすりながら涙目で俺をみた。天罰というか当然の報いだろう。
「退治するのは人の心。悪の心なんだよ」
「道徳的なってことですか? 」
なんだか雲行きが怪しくなってきた。変な宗教か何かに巻き込まれるのではないかと内心思った。年収1000万円ももしかしたら信者を増やせば自分の収入が上がるシステムなのか?儲かると書いて信者。これはマズイぞ。
「道徳というか、最初は信じがたい話かもしれんが…」
「宗教は代々決まっておりますので他を当たってください!」
俺はまた立ち上がって少し大きめの声でハッキリと言った。
「いやいや、いいから座れ。君は人の話を極端に解釈する薬でも飲んでるのか? 」
「す、すみません」
確かに今日の俺は妄想含め突っ走ってる気がするが、所長達が非日常すぎるからではないのか?それともしばらくニートをしてたから俺が世間の常識についていけてないのか?いや、ニートでもヒキニートではなかったから定期的に外には出ていたのだが。人と接することは極端に少なかったが。
「まぁ突拍子もないことを次から次に言われたら心の整理もつかないだろうな。けど突然叫び出して切腹ーとか言うのは無しにしろよ」
梓さんが俯いて笑いを堪えているのがわかる。声は出ていないが肩が震えているからだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます